第32話 VSメタルドラゴン
俺はボタンを操作して、背中に装備してあるハンマーを手に持つ。
『ゴアアアアアアアアアアアアア』
奴は連続してはブレスを放てないのか、咆哮をあげる。
「次はこちらの番だ!」
俺はそのまま奴に向かって走り出す。
ハンマーを振りかぶり、奴の頭目掛けて叩きつけた。
スン。
ズズズズズズズンンンンンン!!!!!
しかし、その一撃は奴が頭をひょいと動かすことによってかわされた。
「いいな」
それでも、これは朗報だ。
先ほどまでの格闘戦ではかわす動きすら見せなかった。
だが、今回の攻撃は明確にかわした。
奴にとって確実にダメージがあるのだろう。
しかし、俺の攻撃は奴の頭には届かない。
ハンマーで小技などできないからだ。
そもそも、そこまで精密な攻撃ができるように造っていない。
ハンマーは振りかぶって叩きつける。
これ以外の方法で攻撃してはハンマーが壊れるはずだからだ。
トレントの魔石の限界である。
「こうなったらまずは……」
俺は奴の後ろに回り込む。
そして、奴が回避できないように後ろから背中を叩く。
ズドオオオオオオン!!!!
奴の背中にハンマーが突き刺さり、様々な鉱石が飛び散る。
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!』
奴は叫んでこちらを振り返ろうとするが、俺はすぐに奴の背中に回り込む。
一種のハメに近いが、高耐久の敵にはこれが一番いい。
「そらもう一発!」
ズドオオオオオオン!!!!
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!???』
よし、これを続けていれば勝てる。
そして、再び同じことをしようとした瞬間、俺は反射で緊急回避をした。
ドバッ!!!
奴の背中から鉱石が噴出したのだ。
「あっぶねぇ!」
あの攻撃を不意打ちで食らったらゴレムジガンテは終わっていただろう。
ブレスに勝るとも劣らない攻撃だ。
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!』
奴は回避されたことに怒っているのか、咆哮してこちらの方を向く。
「そうやって相手が避けている間にブレスか。やるな。流石Sランク」
俺はそれを察知して何とか奴の背中に回る。
ただ、奴の背中からは鉱石が飛び出てくるし、顔がある方からは狙えない。
このままだとじり貧だ。
特に、このゴレムジガンテを動かすには俺自身も多量の魔力を消費する。
「なにか手を……」
『エクスさん! 下です!』
「何!?」
俺はジャンプしてメタルドラゴンの後ろに回りながら足元を確認する。
そこには、メタルドラゴンの小さい奴が集まっていた。
シーナの声がなければ取りつかれていたかもしれない。
「なるほど、自身の分体を噴出させ、それに敵の相手をさせるのだな。遠距離がブレスしかないのは流石にないと思っていたが……こんな方法をしてくるとは」
そうしている間にも、小メタルドラゴンは俺の方に向かって進んでくる。
『ゴルアアアァァァァァァ』
「ん?」
メタルドラゴンは身体を揺すり、鉱石をボロボロと落とす。
自分から防御力を捨てる……だけな訳がない。
こぼれた鉱石が立ち上がり、小メタルドラゴンになる。
それらは全て俺の方を目掛けてただただ前進してくるのだ。
「これは流石にどうするかな」
敵のコンセプトは自分の防御を固め、敵が消耗して弱った所にブレスで刈り取る。
そして、自身の周囲は分体を散らばらせて守ることも攻めることもできるようだ。
「ブルームバイソンより強くねー? いや、状況次第か?」
ブルームバイソンも時間をかければかけた分だけ手ごまを増やしていける。
一概には言えないけれど、今のこいつは時間を与えてしまったブルームバイソンだと考えたら国くらい落とせるかもしれない。
強さランキングを考えるのは後だ、今はどうやってこいつを倒すかについて考えないと。
シーナやギルドマスターたちは現れたメタルドラゴンを狩ってくれているけれど、焼け石に水だ。
百を超え、小メタルドラゴンも硬い。
殲滅には時間がかかるだろう。
「ならやっぱり……使うしかないか」
一度しか使えない必殺技を。
ただ、これを使うには必ず当たる状況を作らなければならない。
それができなければ、奴の反撃ブレスでやられてしまう。
では、どうやってその状況を作るか?
ハンマーは叩きつけることしかできず、横振りで牽制などもできない。
拳ではこちらの方が先に使えなくなる。
「当てるためには、当てるための準備をする!」
俺は奴の右肩辺りを目掛けて振り下ろす。
ズズズズズズズンンンンンン!!!!!
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!』
そして、奴の反撃と分体が来る前に下がって距離を取る。
奴はこちらに来るために一歩前に出た。
『ゴアア!?』
しかし、そこは俺がたった今ハンマーを打ち込んだ場所。
奴はそこに足を取られた。
「そこぉ!」
俺は奴ではなく、右後ろ脚目掛けて突っ込む。
今奴の身体を支えているのは全て右後ろ脚だ。
そこを叩き潰せば。
ズズズズズズズンンンンンン!!!
バキバキバキ!!!
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!???』
奴は踏ん張っていた足が破壊され、そのままゴロリと転がってくる。
俺はそうなることは読んでいたので回避していた。
『ゴ、ゴアアアアアア!!?? ゴアアアアアアアアアアアアア!!!???』
奴は慌てて身体をなんとか起こそうとしている。
分体もそれに協力するためか、奴の側に集まっていた。
ただ、その状態でもブレスは撃てるように貯めている。
顔を狙うのは得策ではない。
「シーナ! 近くの奴ら全員に離れるように伝えろ!」
『は、はい! 防御も固めるように言っておきます!』
すぐに察してくれたのか、シーナの返事は早かった。
俺はそちらのことは彼女に任せ、奴の腹が見える位置まで後ろに下がる。
そして、200mほど距離をとった時点で、ブースターを吹かす。
「ブースター点火! ぐっ!」
ゴオオオオ!!! キュィィィィィィィィィィィィィン!!!!
背中のブースターを全て起動し、最低限の安定以外は加速に費やす。
魔力で身体を覆って守っているけれど、圧倒的なGが身体を押しつぶしにくる。
「それでも……行くぞ!」
俺はゴレムジガンテのブースターを調整し、身体が180度回転して頭を下にする。
ゴレムジガンテと奴の身体がすれ違う瞬間、タイミングよく俺はハンマーを天に向かって振り下ろす。
こうすることにより、奴の腹にハンマーが突き刺さる!
「【究極雷撃槌】!!!!!!!!」
バガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!
ハンマーは奴の腹から背中までくり抜くようにして突き抜けた。
さらに、伝わった雷属性は奴の身体から周囲の分体へと伝わっていく。
俺は身体を元に戻し、メタルドラゴンの方を向いて再びブースターを起動。
柄だけになったハンマーは捨て、奴の様子をうかがう。
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!???』
腹を繰りぬかれ、電撃で焼かれようと奴はなんとか動こうとする。
しかし、それも長くは続かなかった。
『ゴアアアァァァァァァ……』
奴は動けなくなり、目からは光が消えた。
「勝った……いや、まだだ」
俺はゴレムジガンテから急いで飛び出し、奴の魔石を回収しようと試みる。
嫌な予感は的中していて、分体たちが魔石の周囲に集まり何かしようとしていた。
俺は速攻で奴らを斬り捨て、魔石を肉体から切り離す。
魔石は茶色の中に金銀銅様々な鉱石の模様が入っていて、意外とかっこいい。
「よし、取れた」
そんなことを思いながらメタルドラゴンの魔石を完璧に奴から切り離す。
すると、何体か動いていた分体たちの動きが止まった。
「良かった……もしかしたら何かでよみがえったかもしれなかったからな」
俺はほっと一安心すると、そこにシーナが近づいてきた。
「エクスさんお疲れ様です」
「ああ、なんとかなったな……」
「その……お願いごとがあるんですけど」
「どうした?」
「その……大きなの? ゴレムジガンテ……でしたっけ? それに乗って、勝利宣言をして欲しいんです。あっちで」
「? ああ、分かった」
シーナがそういうので、俺は素直に頷いて言われた通りの場所……ゴレムジガンテの肩の上で拳を突き上げる。
「我々の勝利だ!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!』
その場に残っていた者たちの声が爆発した。