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第30話 シーナの戦い

 わたしはシーナ。

 今はオードリアの街の外でメタルドラゴンと戦うためにいる。


「それでは行くぞ! 何としてもオードリアを守るのだ!」


「おお!!!」


 冒険者だけでなく、街の兵士も総動員されて士気を高めていた。

 その先頭で指揮を執るのはギルドマスターと騎士団長らしい。

 敵が巨大なため、左右に分かれて攻撃するということになっている。


「大きい……」


 隣にいる冒険者がポツリとこぼした。


 遠く……まだ1キロくらいは離れているはずなのに、山のように大きい。


 それから冒険者と兵士で左右に分かれ、迎撃準備を整える。


 近づいてくれば近づいてくるほどその異質差が際立ってくる。

 体高30m、体長に至っては60mを超えているのだろうか。

 ドラゴンと言われているけれど、身体の感じは亀の方が近いかもしれない。

 それもこれも翼の代わりに鉱物の山が背に載っているからだ。

 顔や手足にも鉱物がこれでもかと付いていて、とても頑丈そう。


 手足はしっかりと太い四肢で地面を踏みしめ、その一歩で人など簡単に潰れてしまう。

 金銀銅様々な色をした身体は見る分にはキレイやかっこいいという言葉が出てくるかもしれない。

 だが、その目は深紅に燃えていて、ただひたすらにオードリアの街を睨みつけていた。


 そんな魔獣が一歩、また一歩と近づいてくる。

 死刑宣告までの時間を楽しんでいるように。


「これは……ブルームバイソンと比べてはいけないかもしれません」


 そう心から思えるほどの圧力を誇っていた。

 奴はわたしたちのことなど見てすらいない。


 だけど、その隙を逃してはならないと思う。


「総員! 攻撃はじめ!」


 ギルドマスターの指示で冒険者たちが顔を狙って攻撃を始める。


「『魔法の矢(マジックアロー)』」


「『火の球(ファイアボール)』」


「『氷の槍(アイシクルランス)』」


 魔法だけでなく、矢や投石などもこれでもかと多い。


 しかし、顔に当たっているはずなのに、全く気にされていない。


 こちらの攻撃など攻撃ではないと言わんばかりだ。


「目だ! 目を狙え!」


「届きません!」


「狙える者だけで構わない!」


「『岩の槍(ロックランス)』!!!」


 ギルドマスターの指示で、わたしを含めた数人が目を狙って攻撃を始める。

 その半数は目に届かずに顔に当たった。

 残りは当たったけれど、ほとんど効果がなかった。


 ただ、わたしの魔法が直撃すると……。


 ギロ。


それがこちらを初めて認識した。


「ひぃぃぃぃぃ!!!」


「無理! 無理だぁ!」


「かあさん! かあさあああああん!!!」


 しかし、それだけで冒険者たちは恐慌(きょうこう)状態に(おちい)った。


「逃げるな! 逃げる場所などないんだぞ!」


「うわあああ! どいてくれぇ!」


 ギルマスが必死に叫んで止めようとする。

 でも、こうなってしまったら無理だ。


 冒険者のほとんどが逃げ去り、残っているのは10人もいない。


 ただ、そのお陰かメタルドラゴンの視線がオードリアに戻った。

 反対側でも攻撃音はするけれど、奴がそちらを気にしている様子はない。


「わたしが……わたしがなんとかしないと……」


 エクスさんが来るまで、なんとかやっていかないといけない。


「『風妖精の加護(シルフブレス)』」


 この魔法はかなり魔力を食うが、空を自由に飛べるというもの。


「シーナさん!?」


「なんとか時間を稼いで見せます! 援護を!」


「わ、分かった!」


 わたしはギルマスにそう言って、奴の目に近づく。

 そして、かなりの至近距離で魔法をぶつける。


「『炎の槍(フレイムランス)』!!!」


『ゴアアアアアァァァァァァァ』


 奴は初めて声をあげてよろめいた。


「行ける。わたしの攻撃なら通る」


 しかしそうなると、奴はわたしを目掛けて頭を叩きつけてきたり、前足で攻撃を仕掛けてきた。


「遅い。この程度なら避けられる!」


 エクスさんに教えてもらった魔力伝達速度なら、奴の攻撃に反応できる。

 その隙に攻撃を避けられる!


 しかも、下の方ではギルマスや《トレメス》のことを教えてくれた人たちも激しい攻撃をしていた。

 そのため、奴は時折足元を気にしている。


「これならわたしだって……エクスさんにまかせっきりにするばかりじゃない! わたしだってやってやる! やってみせるんだ! 『風妖精の嵐(シルフストーム)』!!!」


 魔法には段階がある。

 風魔法だと、名前にある、風<嵐<風妖精……という順で威力や効果範囲等が上がっていく。

 それ相応に難易度も上がり、消費魔力も上がっていくけれど。


 わたしが使うのは風魔法の最高難易度。

 それを奴の目に向かって叩き込む! 

 エクスさんの特訓がなかったら、飛び回りながらなんてできなかった魔法だ。


『ゴアアアアアァァァァァァァ!!!???』


 今度の魔法も奴に突き刺さり、よろめいて地面に倒れた。


「よし! これなら!」


 そう思って奴に向かうと、奴はこちらをじっと見て何かをためていた。


 背筋にゾクリと嫌な汗が伝う。


「避けろ!」


「! 『風妖精の盾(シルフシールド)』」


 今わたしが使える最高の防御力を誇る魔法。

 瞬時に展開した瞬間、奴が何かを吐き出した。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!


「これは……」


 奴は鉱石のブレスを放っていた。

 その圧力、範囲、威力、全てにおいて圧倒的。


 なんとか魔法で防げているが、このままでは盾も割られてしまう。


 エクスさんは油断するなと言っていた。

 わたしは……エクスさんに特訓してもらっておごっていた。

 相手はあのSランクの魔獣。

 おごることなんて全くできなかったはずなのに……わたしは……。



「もう……ダメ……」


 盾が割れる。

 次の瞬間、ブレスが止まった。


「え……良かった……なんとか……え?」


 そう思った。

 耐えきった。

 そう思っていたけれど、そうではなかった。


 2足歩行の白い人型の物体……物体と言っていいのかわからない。

 背中には大きな槌、大きさは30mはあるだろうか。

 それが、メタルドラゴンにドロップキックをかましていた。


 わたしはひとことしか言えなかった。


「何あれ……」


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