第3話 旅に危険はつきもの
俺はオードリアを目指して旅に出た。
荷物はほとんどクランで生活していたので宿にはほとんどない。
仕事の都合上、素材を回収するためにマジックバッグが必要だったため、自前で購入していた。
宿の荷物はそれに全部入るくらいのものしかなかった。
「ゲギャギャギャギャ!!!」
「邪魔だな」
「グギャゴ!?」
それから数日、ゴブリンの集団に襲われていた。
しかし、多少は戦うことはできる。
不具合で暴走したゴーレムを止めるのも、魔獣の素材を集めに行くのも俺の仕事だったからだ。
なので、そのゴーレムや素材の魔獣に比べたらゴブリンの群れは雑魚に等しい。
護身用の剣でゴブリンの首を切り取っていく。
そして、そのまま人間の心臓と同じ位置にある魔石を取り出す。
これはゴーレムの核に使えるので、いざという時に役に立つ。
「核だけあればいいか」
俺はそれだけ取り出して旅路を続ける。
しかし、すれ違う人たちはみんな護衛の冒険者を連れていた。
「そんなに治安って悪いのか……?」
基本的に街の外に出ることはなかった。
時々ゴーレムを造るための素材を取りに行ったくらいだけれど、その時はクラン所有の飛行用ゴーレムを使っていた。
なので道中の安全等はよくわかっていない。
でもさっきみたいにゴブリンが襲い掛かってくるのが多発するなら必要だったかもしれない。
すれ違う彼らはかなり警戒した目か、不安そうな目を向けてくる。
なんなのだろうか……。
そう思いながら進んでいると、森の中に入った。
タン。
「ん?」
目の前の足元に矢が突き刺さる。
なんだ……と思っているまもなく、周囲を囲まれた。
「おいおい……まさか一人で旅してるのか? 流石に不用心が過ぎるんじゃねぇのか?」
目の前に現れたのは、いかにも山賊ですという風貌をした男たちだった。
「まぁ……そうかもしれないが、早く美味い物を食べたかったからな」
「へっへ。ならその美味い物を食うための金を置いていってもらおうか。生きて帰りたいだろ?」
「そうだな。お前たちは山賊でいいのか?」
「今更かよ! この一帯を仕切ってる《強欲の翼》つーんだ。覚えておきな。あとは金を置いていけ! じゃねーと……身体に教えることになるぜ」
彼がベロリと手に持った剣を舐める。
そんなことよりも、俺は山賊はどうするべきかと悩む。
「山賊か……確か殺しても問題ないんだよな?」
「あ? 俺たちを殺す? てめーみてーなやろうにできるかよ。ただ生かして街に突き出してみろ。それなりの金額で売れるかもな?」
「ほう。それはいいことを聞いた」
山賊って売れるのか。
なら、できるだけ傷をつけずに捕らえて、街に突き出せば美味い物の資金にもなっていいかもしれない。
でも、ここで問題が起きる。
こんな大人数……十何人も拘束しておくのはできない。
俺の身体は一つしかないからだ。
であれば……。
「『設計図』」
俺はゴーレムを造るための魔法を起動させる。
「こいつ! 魔法を起動しやがった! 殺せ!」
周囲の山賊が叫ぶ。
俺はそんな中、さっさとゴーレムを造る。
起動した設計図に必要な能力を決めていく。
今回はこいつらを拘束し移動できる能力だけでいい。
足は2足歩行で手は輪っかを造るようにして敵を拘束できる形だ。
後は壊されないように上半身をある程度固くして、俺を対象についてくるようにさせることと、拘束の方は何かを挟んだら離れないように締め付ける機能があればいいか。
ここまで決めたらさきほどゲットしたゴブリンの核を軸にして魔力を注いでいくだけ。
材料はそこらにある土で問題ない。
それを設計図に書き込み、魔力を流していく。
「『土人形製造』」
ズボォ!!!
ギィン!!!
俺と彼らとの間に、1体のゴーレムが立ちふさがる。
彼らは立ちふさがったゴーレムを斬りつけるが弾かれていた。
「何!?」
「一瞬で召喚しやがったのか!」
「こんな速ー召喚術は見たことねーぞ!?」
そんなことを言うので、俺は説明する。
「これは召喚術じゃない。ゴーレムを作ったんだ」
「はぁ!? 俺らを山賊だって馬鹿にしてんのか!? ゴーレムを造るのは何週間もかけてやるもんだろうが!」
「材料を厳選して、核もオークとかのある程度しっかりした奴を使わないと持たねぇんじゃねぇんだろ!」
「それにこのゴーレム硬いぞ! こんなのすぐに作れる訳ねえ!」
山賊は手に持った剣でゴーレムをツンツンしながらそう言う。
俺はそんな彼らに教える。
「この速度でやらないと納期に間に合わないんだよ」
「そんなふざけた仕事がある訳……」
「『土人形製造』」
俺はその間にゴーレムを同じ要領で作っていく。
量産も慣れたもの、敵の数と同じだけの拘束型ゴーレムが完成する。
山賊はそんな俺を見て、苦笑いをしながら話しかける。
「へへ、そんなすぐに作れるゴーレムの性能が優れている訳がねぇ! ゴーレムの硬さにだけ絞っただけなんだろう! だからゴーレムを避けててめぇを殺せば!」
「お前らに俺が殺せるならな」
「へ」
俺は答えながら、彼の首根っこを掴んでゴーレムに拘束させる。
ギュン!
ゴーレムの輪っかに山賊を入れると、きちんとしまって逃げ出せないようになる。
「うん。上手くいったな」
「て、てめぇ……ゴーレムだけじゃなくて、てめぇも強いんじゃねぇか」
「俺は元秘書だったからな。秘書は求められることをなんでもこなさないといけない。多少は強くなければ勤まらんぞ」
「どこの世界の秘書だよ!」
そんな訳で、俺は敵を全員ゴーレムで拘束させていく。
「よし、こいつら全員を連れて街に行けばいいんだな? これで儲かるんならもっとやってもいいな……」
俺がそんなことを考えていると、リーダー格の男が話しかけてくる。
「お、おい」
「なんだ?」
「そんなに儲けたいのか?」
「あって困るもんじゃないしな」
「なら、俺たちのアジトを教えてやるから、このまま行かねぇか?」
「突然どうした」
「だってよ。俺たちを街につきだしたら、アジトの金は街にも持っていかれるぜ?」
「ふむ」
そう言われると、正直アジトに行ってもいい気がする。
この程度の相手なら、お金のためにも、他の人の安全のためにも悪くはないだろう。
(おい! なんでアジトの場所を言おうとするんだよ!)
(馬鹿! このまま街に連れて行かれるより、アジトに一人で誘ってボスたちの力を借りてボコった方がマシだろうが!)
(なるほど)
「よし、では案内してくれ」
「は! はい! そっちの道になります! っていうかこれ外してくれませんか?」
「ダメ。そっちだな」
ということで、彼の案内でアジトに向かう。
「てめぇ、俺様をごうわんぐわぁ!」
アジトの奥にいた大男の顎をうち抜き、地面に転がして動けなくする。
「ふぅ……意外と数が多かったな」
洞窟のようなアジトは結構広く、山賊も30人くらいはいた。
でも、秘書として仕事をしてきた俺の敵ではなかった。
今の所敵は全員気絶させているし入り口も塞いだので、問題ないと思う。
「ふふ、お金になるし結構いいかも。財宝はどこにあるんだ?」
「……」
「おい」
「は、はい! そっちの本棚の裏に隠し通路があります!」
俺は言われた通り本棚を退けると、彼が言っていた通りの通路が出てくる。
とりあえず下に降りていくと、そこには壁際に牢屋があった。
「おい。財宝じゃないのか」
「へ、へへ。そいつは売れればそこらの財宝なんかよりも価値がありますんで」
そう言われて牢の中の椅子に座っている人を見ると、少し汚れた金髪にエメラルドグリーンの瞳。
服は旅人の物だろうか、普通の少女のような物に見える。
体形は少女から女性になる途中のような感じ。
ただ、特筆することがあるとしたら、その尖った耳だった。
牢の中に囚われているのは、今ではほとんど見ることのできない美しいエルフだった。