第28話 追放サイド 3馬鹿の旅
わたしはガーランド。
最高のゴーレム製造クランと名高い《アクリスケディアス》のクランマスターだ。
しかし、そんなわたしは今、危機的な状況にあった。
「クランマスター。貴族の方々からの締め切りはとうに過ぎている。早く打ち合わせをしろ、納品しろという書状が届いております。いかがされますか?」
そう言ってわたしを追い詰めるのはジュディ・ヴァセラ女史。
貴族とのつながりのために秘書として雇い入れたが、わたしをせっつくばかりで何もしない。
それどころか貴族とのつながりを少し考えさせて欲しいと言われたくらいだ。
ならこいつを雇ったのはなんだったのか。
身体はそれなりにいいが、彼女にそのつもりもなく本当に雇ってやった恩というのを知らない。
「トライマイスターが戻ってくるまでしばし待ってもらえ」
「……今回はそれでごまかしますが、手紙には次以降はない。覚悟しろ……とも書かれています。これが続くとこのクランは存続できませんよ?」
「わかっている! あいつらが帰ってくるまで! それまでの辛抱だ!」
「……はぁ。かしこまりました。そのようにお伝えします」
「任せた」
彼女は露骨にため息をつき、残念な人間を見る目でわたしを見た後に部屋から出ていく。
わたしと一緒で残業続きで連日の徹夜。
顔色も悪いがだからと言ってそこまでしていいものか。
なぜだ……なぜこんなにもうまくいかない。
わたしが決めたゴーレムの価格は、前のままでは絶対に赤字になるという報告があった。
そして適正価格でも製造が追いつかないどころか材料の調達すら困難。
なんとかかき集めても、量産の奴らは間に合わないというのに定時で帰り続ける。
トライマイスターにぶら下がっているだけのカス共では全く仕事にならない。
高い給料を出してやっていたのに、何をしているのか。
無駄飯食らいのゴミ共が……今回の騒動が終わったら直々に肩を叩いてクビにしてやる。
「トライマイスター。貴様らだけが頼りだ……旅は苦しいかもしれんが、成し遂げて帰ってきてくれると信じているぞ……」
わたしはそう思い、仕事を少しでも減らそうとする。
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「いやぁ! お前たちがこんなにも気のいい連中だと知っていればな!」
「全くだ! 話の分かる奴で助かった!」
「違いない! こんなことならもっと前から話しておけばよかったぞ!」
ワシはカンテとティダーの2人と共にエクスを探す旅をしていた。
その道中、ずっと一緒にいて、数々の苦難を乗り越えてきた
苦難を共に乗り越え、同じ釜の飯を食ったワシらは昔からの親友のようになっていたのだ。
そして、今は3人でオードリアへと到着した所。
何としてもエクスを連れて帰る。
3人で桃の園で誓った絶対の決め事だ。
それから3人で話しあっていたギルドへ向かう。
エクスが冒険者になっていたことはドチュウの村で知っていたからだ。
「エクスさん……ですね。どなただろう」
ギルドの受付嬢はそう言って首を傾げている。
「黒髪黒目でそれなりの身長がある男だ!」
「えーっと、誰だろ……あ、もしかして綺麗なエルフの女性を連れた方ですか? 鉱山の魔物を倒してくれるとか」
「鉱山? エルフ? それは知らないが……」
「あ、鉱山の件は秘密でした。言わないでくださいね。エルフの方ですが、かなりお似合いでしたよ」
エクスめ、ワシらが苦労している間にエルフを連れているとは……。
いや、逆に考えれば、そのエルフを人質に取れれば……実際に何かせずとも、ちょっと招待するくらいならいけるのではないか。
ワシが後ろを振り向くと、無二の親友たちも頷いていた。
ただ確定という訳ではない、間違っていたりしたら大変だ。
もう少し彼女に話を聞かねば。
「ちなみに、それは本当にエクスか? 以前ここに向かったと《星導》? という者が言っていたのだが……」
「《星導》様がですか!?」
ワシがその名を口にした途端、受付嬢は驚きに目を見開く。
「し、知っているのか?」
「知っているも何も、領主様よりよっぽど有名ですよ!」
「な、なんだと?」
彼女は嬉しそうに話してくれて、曰く。
最高の予言魔法の使い手で、彼女の予言が外れたことはなく貴族であってもおいそれと手出しできない。
予言だけではなく、目の前の者の未来も見ることができて人々が災害に遭うのを防ぐとか。
なんなら時折国王の元にも助言を与えているとかなんとか。
「ちなみに……そんな奴の敵になったら……」
「とんでもない! 国中から指名手配されますよ! 彼女に名前を憶えてもらおうとする平民どころか貴族だってたくさんいるんですから! 《星導》様が奴は敵。そう言ったらこの国どころか近隣の国にも居場所なんてなくなりますよ!」
「それ……ほんと?」
ワシはドキリとしながら彼女に聞く。
彼女はワシらを手招きして、小さい声で話す。
「以前《星導》様を詐欺師呼ばわりしたバカがいたんです。《星導》様は何も言わないのに、そいつの首が広場に見えるような所に置かれていました」
「ふ、ふーん。そ、そうなのか」
ドキドキで冷汗が止まらない。
シャツの背中がビッショリ濡れているのが分かる。
え? あの人そんなやばい人だったの?
敵に回したら……国中から狙われる?
これは……人質作戦は流石にダメだ。
「そうなんですよ~。お3方は……もちろん、敵ではないですよね?」
「「「もちろんだ!」」」
「良かったです!」
受付嬢の笑顔が引くほど怖かった。
ワシらは場所を変えて、適当な酒場で話をする。
「ではどうする……」
ワシが口を開くと、製造のカンテが続く。
「先ほどの受付嬢。鉱山と言っていただろう?」
「ああ、言っていたな」
「そのことについて調べてみないか? 人質は……よくない。なら、エクスの力になって助けてやれば、喜んでまた俺たちの部下になるんじゃないのか?」
「なるほど……流石カンテだ」
ワシがそう言うと、量産のティダーも頷く。
「全くだ。流石じゃないか」
「では早速情報を集め、行動開始だ!」
「おう!」
それから、ワシらは情報を集め、エクスが鉱山の魔物を討伐に行こうとしていることが真実であると知った。
あんな簡単に口を滑らす受付嬢の話が本当だとは信じられなかったくらいだ。
ということで、ワシらもそれの後を追い、鉱山へ行く。
途中、監視の兵士がいたけれど、ワシらの身分を明かしたらそれならと認めてくれた。
そうやって入った鉱山の中に人の気配はない。
「エクスの奴め、どこに行ったのだ」
「全く、肝心な時におらん」
「まぁまぁ、それも含めて我々がキチンと指導していってやろうではないか」
「「「はっはっはっはっは」」」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「?」
ワシらが笑いながら鉱山の中を歩いていると、腹の底に響くような地鳴りが聞こえる。
ズン!
少し先で、大きな足音が聞こえた。
「ゆけい! 我が最強のゴーレムよ!」
しかし、こんなこともあろうかと製造のカンテが、造っていたゴーレムを音のする方に差し向ける。
バガアアアアアアン!!!
しかし、次の瞬間にはそれは破壊されていた。
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!』
「逃げるぞ!」
「おう!」
「エクス! 今だぞ! 今なら褒めてやる!」
突如聞こえた咆哮に、ワシらは即座に回れ右をして走り出す。
ワシらは所詮技術者、強い魔獣と戦えるわけがない。
ここに来たのも、エクスが戦っている間に最適なゴーレムを造って助けてやろうと思っていたからにすぎない。
だが、ワシらが襲われるのであれば話が違う。
ここは一度引いて護衛用のゴーレムを造ってから来るとしよう。
まぁ……そうなると設計はワシになるんじゃが……そうそういい物が作れるか……ということになっていてな……。
『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!』
「ひぅ! 急いで逃げるぞ!」
「「おお!」」
こうして、ワシらは鉱山から脱出し、何とかオードリアの街まで戻ってくることができたのだった。