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第25話 オードリアの現状

「失礼します」


 黒髪美人の受付嬢はそう言ってギルドマスターの部屋に入っていく。


 俺たちもそれに続いた。


 部屋は普通の執務室という感じで、机に向かっている1人の中年の男性がいた。

 茶色い短髪には白髪が混じり、身体が衰え始めてくるころだろうか。

 しかし、背筋はピシッとしていて、眼鏡も似合っており凛々しくかっこいい。


「どうしました」


「こちらを」


 黒髪の受付嬢はそれだけ言うと《星導》さんから受け取った手紙を彼に渡す。


「………………(プルプル)」


 ここのギルドマスターの表情が次第にムンクの叫びのように恐ろし気な表情に変わっていく。

 その変わっていく様はまさにアハ体験を受けているよう。

 かっこよかったギルドマスターは絶望した人のようになっている。

 返して……いや、別にいいか。

 野郎とか興味ないし。


「これは……君が受け取った。ということでいいんだな?」


「ん? ああ、その通りだ」


「そうか……あの《星導》様にここまで言わせるとは……」


「その《星導》って何なんだ?」


「知らずに相手をしていたのか?」


「ドチュウの村に入ったら強引に勧誘されたもんでな」


「そうか……それほどの人材か……なるほど」


 そんなに《星導》って名前はすごいのか?

 気になるので聞いてみよう。


「《星導》っていうのはどうすごいんだ?」


「《星導》様はこの国……いや、近隣諸国で最も腕の立つ予言魔法の使い手だ。その精度や危険度の把握など、本当に危険な予言を幾度となく当てている」


「そうなのか」


 そんなすごい人だったのか。

 ん? でもそれなら……。


「なぜ……言っては悪いが、小さな村にいるんだ?」


「彼女がそこがいいと言うからだ。まぁ……自然の中にいた方がいい……ということも言われていたらしいが、詳しいことはよくわからない」


「そうか」


 彼女には彼女なりの理由があるのだろう。

 それを調べようとするのは良くない気がする。

 ということで、俺は要求をした。


「では、さっさと《トレメス》へいけるようにしてくれ」


「わかった。なんとかやってみよう。ただ、今ねじ込めるのは来月の中旬になる」


「来月の中旬……」


 今が中旬なので、ちょうど1か月くらいになる。

 1年半待つということを考えたら短縮はされている、されているが……。


「もっとなんとかならないか?」


「ならん。これでも相当ねじ込んでいるのだぞ? これ以上早くしようとすればギルドの立場が悪くなる」


「そうか……」


 それは本当のようで、かなり頭を悩ませているようだった。


 しかし、盗人の彼に聞いた話を思い出した。


「なら、鉱山で素材を手に入れてきたらいいのか?」


「……よく知っているな」


「たまたま耳にしてな。鉱山からとれる材料を採れば席を増やしたりできないのか?」


「それならいけるかもしれないが……いっそのこと鉱山に住む魔獣を狩ってくれればもっと話は早いのだがな」


 まぁ、無理だろうがとギルドマスターは言う。


「なら鉱山の魔獣は俺が狩ろう」


「無理だ。いくら《星導》様のお言葉があるとはいえ、奴はSランクパーティが討伐できなかった相手だぞ」


「Sランクパーティが……」


 一番高いランクの冒険者パーティが勝てなかったということか。

 だが、敗北もしていないという話だったのはどういうことなんだろう。


「ただ、負けもしなかったと聞いたが?」


「ああ、Sランクパーティが鉱山に踏み込み、深手を負わせることに成功した。だが、奴はそのまま逃げ、以降Sランクパーティの前には決して姿を見せなかったのだ」


「それで討伐できなかったのか」


「ああ、Sランクパーティは貴重だ。ずっと鉱山での監視をさせ続けることもできん」


「Sランクパーティ以外の人が入った時は襲う……ということか」


「そうだ。何度か力自慢が勝手に向かい、奴に襲われた。何度もこの街に逃げ帰ることで事なきを得てきたが、奴はSランクパーティがこの街にいないことに気づき始めている。だが、それは決して気づかれてはいけないんだ」


「なぜ?」


「奴は鉱山で鉱石をこれでもかと食い、Sランクパーティに勝つための力をつけている。そんな奴がこの街に来た時、どうやって守る? Sランクパーティのいないこの街で」


「なら、別のSランクを雇い、討伐した方がいいんじゃないのか?」


 俺の言葉に、ギルドマスターも受付嬢も暗い顔になる。


「それができれば苦労はしない。Sランクパーティを呼び寄せるだけでも相当の費用が必要になるんだ。鉱山が稼働していればその資金で行けたかもしれないが……領主もその資金を稼ぐのに必死なんだ」


「なるほど、なら……俺が討伐してこよう」


「無理だと言っている」


「なぜだ。ドチュウの村で俺はSランクの魔獣、ブルームバイソンを狩った。なぜできないと思う?」


 敵は同じSランク。まぁ、そこに色々と差はあるだろうが……。

 捕獲れべ……ランクとかあったらよりわかりやすいかもしれないが、ないものは仕方ない。


 そんなことを考えている俺に、彼は答える。


「受けるランクが足りない」


 あ……そういう……。


「受けるのにランクがあるのか」


「当たり前だ。本当ならSランク認定を受けた相手ならSランクは必要だが……《星導》様の後押しがある。超特例ということでBランクでも受けられるようにしよう」


「なら、適当な魔獣を狩ってくればいいのか?」


 俺のランクはCランク。

 ここに来たら上げてくれるように手配するとも言っていたし、ついでに魔獣も狩るのもいいだろう。


「そうしてくれると助かる。高ランクの冒険者が減ってしまっているからな……」


 確かに、冒険者の数がギルドの大きさに比べて少なかったように思う。


「わかった。なら美味い魔獣を紹介してくれ」


「美味い……そこが大事なんだな」


「ああ。《トレメス》で美味い物を食うための腹ごなしだからな。行くぞ、シーナ」


「はい!」


 ということで、俺は紹介された依頼を受け、魔獣狩りをすることになった。


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