第24話 《トレメス》へ行く方法
「またか!?」
「また?」
声の方を向くと、かなり筋肉質な身体を持ち、刈り込んだ頭を持つ男が話しかけてくる。
ただ、さきほどのチンピラとは違う。
立ち居振る舞いでなんとなく強い感じがした。
しかも、俺たちのことをちゃんと警戒している。
「いや、気にしないでくれ。それで、《トレメス》へ行きたいとなんなんだ?」
「おいおい。そう警戒しないでくれ。それに関する情報をやるよ。だから金で買わないか? って話だな」
それならさっきよりは信頼できる……か?
「いくらだ?」
「1万ゴルだ」
俺は1万ゴル硬貨を取り出し、奴に投げ渡す。
「決断が速いな」
食事に関しての早さなら鱗〇さんも納得してくれるだろう。
「それで、情報を教えてくれるんだろうな?」
「ああ、方法としては3つだけある」
「3つ?」
奴は3本指を立てて説明してくれる。
「1つはここの領主様と仲良くなる。もしくは部下になって自分は有能だと示すこと」
「却下」
貴族となんか関わりたくない。
クビになるきっかけもそれだったし。
「なら2つ目……大きな商会と仲良くなる」
「それも断る」
商会は腹の探り合いが面倒くさい。
クランで働いていた時も、一回頼みを聞いたらそれが当たり前みたいに言ってくることもあってあんまりいい印象がないからだ。
「なら最後。3つ目。ギルドに恩を売る」
「ギルドに?」
ギルドと《トレメス》って関係あるのか? と考えると、彼がちゃんと説明してくれる。
「領主様ほどではないが、ギルドも《トレメス》の席を毎月予約している。優秀な者たちや関係にある者に斡旋できるようにな」
「なるほど」
「だから、ギルドに恩を売り、《トレメス》に行きたいと告げればいけるかもしれない」
「ほう」
割と現実的な方法だったし、納得がいく。
予約が取れない超有名店を接待で使う。
それだけで行けた相手はギルドに対して好意的になるだろう。
なにより俺はそれだけの目的でギルドと仲良くしたい。
「つーわけだ。これでいいか?」
「ああ、感謝する」
「ありがとうございます!」
俺の言葉にシーナも頭を下げる。
「いいってことよ。エルフを連れてると色々と大変だろうからな。気をつけろよ」
「言われるまでもない」
彼はそう言ってさっと去っていく。
「本当に金のためだけだったんだな」
「ですね……」
「ギルドに行って仲良くして、《トレメス》につれていってもらうぞ」
「はい! 食べると知れてお腹が減ってきました!」
「俺もだ」
俺たちはそれから、急いでギルドに向かう。
******
彼はエクスと別れた後、すぐに裏路地に入る。
そして、フードで素性を隠した部下と話す。
「どうでした。隊長」
「無理だな。手を出したら洒落にならん被害が出そうだ」
「そりゃ残念。領主様もエルフがいれば少しは街が良くなるかも……って言ってましたが」
「自発的に彼女の方から来てくれたらそうかもしれねーが。男の方についていく以外考えてない。その男も貴族は嫌っていそうときた。俺たちのように部下になれとはいえねーな」
「そうですか……ならそう報告しておきます」
部下がそう言ったけれど、男は首を横に振る。
「いや、俺も行く。ちゃんと説明しておかねーとやばいからな。竜の尻尾を踏むようなことはしたくない」
「なるほど、それほどの男ですか」
「ああ、貧民のガキに施してやる優しさがあるんだ。敵に回さず好きにさせるのが一番だろうよ」
男たちはそう話して裏路地へと消えた。
******
「ここがギルドか」
「ですね」
ドチュウの村のギルドの倍以上は大きく、人数は……あんまり変わらないかもしれない。
なんでだろう。
「まぁいい。さっさと話して《トレメス》に行くぞ」
「はい!」
ということでギルドの中に入ると、作りは基本的に一緒。
入って左側にはギルドの受付があり、正面にはポーションや武器などが置かれている。
右側はテーブルや椅子、食事や酒を出す場所になっていた。
俺たちが用があるのは左で受付は時間の問題か、並ばずに話すことができた。
彼女は綺麗な黒髪を背中に流した美人さん。
「すまない。《トレメス》に行きたいんだが」
「はぁ、ご自身でご予約していただくのがいいかと思いますが」
「え? ギルドに行けばいいって……」
「エクスさん。ちゃんと自分の身分を見せないと」
「あ、そうか。悪かった。これが俺の冒険者ランクだ」
俺は流石にこれならいけるだろうと思い、Cランクの冒険者証を見せる。
「拝見します。なるほど、ギルドの接待で……ということですか」
「はい。これでいけるか?」
どんな食事がでるのだろうか。
早く《トレメス》で食べたい。
食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。
「申し訳ありませんが、そう簡単にギルドの枠をお使いすることはできません」
「え……」
「ギルドの接待用は予定を超えて埋まっているのです。それでもやりくりしてなんとか……という段階ですので、Aランクはないと厳しいかと思います。ギルドマスターに話をするだけでよければしてみますが……」
「え……あ……はい……」
自分の身体がガラガラと崩壊していく気がした。
折角きたのに……食べれないなんて……。
終わった。
ああ、ここで1年半も適当にゴーレムでも造っていようかな。
折角だし遊園地でも作ってみるか。
あの子たちが笑顔になってくれるように……ふふふ。
「……さん。エクスさん!」
「え? はい? 〇ィズ〇ーは作らないよ」
「なんの話をしているんですか……ドチュウのギルドマスターさんにもらったものがあるじゃないですか」
「! 流石シーナだ。俺を超えたようだな」
「そんな冗談言わないでください! ほら!」
「ああ!」
俺はきっと力になってくれると言われて渡された手紙を受付さんに渡す。
「これは……?」
「ここのギルドマスターに見せればわかると言われた」
「拝見しても?」
「構わない」
彼女は頭に? を浮かべながらも、それを開いて読む。
すると、彼女の顔はものすごい表情に変わっていく。
さっきまでの美しい受付さんが山姥になっていると言ってもいい。
返して。
「エクス様、シーナ様。すぐにギルドマスターの部屋にお越しいただいてもよろしいですか?」
「え? ええ。いいけど……」
「どうかしたのですか?」
「なんでもありません! こちらです!」
受け付けは俺の手を掴んで、そのままツカツカと奥の部屋に入っていく。
一体何が書いてあったのだろうか。




