第23話 街の現状
「つ、つえぇ……ぐふ」
まぁ、チンピラ風情が相手になる俺ではない。
武器だって使わずに全員地面に叩きつけて終わりだ。
チンピラは全員動かなくなり、俺はどうしようか迷う。
「この街のことを考えたら殺しておくのがいいのか? 金にもならないだろうしな……」
「流石にそれは……」
「まぁ……そうか。なら一応衛兵に突き出そう」
かといって、ゴーレムを造るのもな……。
この辺りの地面などを材料にしてしまったら街の人間が困る。
「面倒だが……こうするか」
俺は転がっていた全員を積み重ね、ざるそばを積み重ねたように持ち上げる。
一番下の奴がかなり苦しそうな顔をしているが、自業自得だろう。
「え、エクスさん。それは流石に……」
「そうか?」
そんなことを話しながらもと来た道を戻っていると、小柄な人が正面から歩いてくる。
フードを被り、顔などは見えない。
「ごめんよ」
すれ違う際に彼はそう言って俺と少しぶつかってしまう。
「ふむ……」
彼はそのままスタスタと裏路地の奥に歩き去る。
立ち止まったままの俺に、シーナが口を開いた。
「エクスさん?」
「シーナ。追いかけるぞ」
「ええ!? どうしてですか?」
「財布をスられたらしい」
「早く追いかけないと!」
「ああ」
ということで、俺たちは追いかけっこを始める。
先ほど逃げていった奴の後を追い、詰みあがった人間はなるべく傷つけないように。
ただあくまでなるべくなので、時折壁などにぶつかってしまう。
「見つけた」
「すぐに捕まえましょう!」
「いや、こういう奴らは他に仲間がいるかもしれない。一網打尽にして衛兵に突き出そう」
「なるほど、流石エクスさんです」
ということで、彼には気づかれないように、こっそりと後を付ける。
少しすると、彼はボロボロの小屋に入っていった。
「ここに入っていったな」
「ですね。でも……それを持ってはいけないんじゃ……」
「……地面に埋めておけばいいか?」
「わたしの魔法でなんとか……そこに置いてもらえます?」
俺は言われた通り6段重ねのゴミを置く。
「『風の牢獄』」
彼らの周囲に風の壁が出来上がる。
「これで当分は大丈夫だと思います」
「ありがとうな」
俺はそう言ってシーナの頭を撫でる。
「子供扱いしないでください!」
彼女はそう言いながらもされるがままだ。
むしろこの辺りを撫でてくれと頭の位置を変えている。
しばらくそうした後、俺たちは小屋の中に入った。
「入るぞ」
「誰だ!」
俺たちが小屋の中に入ると、広さは10畳くらいはある部屋だった。
でも、驚くべきはそこではない。
10畳の中に、20人を超える子供たちが身を寄せ合っていた。
彼らは全員おびえたような目で俺を見つめてくる。
「さきほど俺とぶつかったのはお前か?」
その中でひときわ背の高い子供に声をかける。
彼は土や汚れでくすんだ赤髪を持つ少年だった。
顔立ちは中性的で見ようと思えばかわいい感じで、声もどことなく高い。
ただ、その視線は俺を敵だとみなして睨みつけている。
「だからなんだ!」
「人の財布を盗んでおいてずいぶんな言い草だな」
「……悪かった。返すから許してくれ」
しかし、彼はすぐに俺の財布を投げてよこし、謝罪してくる。
「分かればいい」
俺は中身があることを確認し、それだけ言って小屋を出ようとする。
「おい、何も……しないのか?」
「ん? ああ、別に返してくれればいい。こうしているのは事情があるんだろう?」
「……ああ」
「なら……いや、ちょうどいい。お前、ついてこい」
「……わかった」
彼はそう言って諦めたように進み出てきた。
財布を取られたと言っても大部分はマジックバッグの中にあるから、割と本当にパクられても問題ない。
ただ、この子たちの事情……とやらは少しだけ気になる。
「俺たちを衛兵の詰め所まで案内してくれ」
「詰め所……いっちゃなんだけど、オレを連れて行っても大した金になんねーよ」
「お前じゃない。こいつらを突き出そうと思っている」
そういって、さっき持っていた連中を指さす。
「こいつらは……まぁ、それなら多少は金になるか。こっちだ」
彼はそう言って案内を始めてくれた。
俺は6段の奴らを持ち上げ、ついていきながら話を聞く。
「それで、なんでお前たちはあんな子供だけで集まっていたんだ? 親はどうした?」
「親は出稼ぎに行ってるよ」
「出稼ぎ? 子供を置いてか?」
「ああ、このオードリアは近くに鉱山があるのは知ってるか?」
「鉱山? 知らん」
「オレたちの親は全員そこの近くの村で働いていたんだよ。だけど、いつからか鉱山に魔獣が住み着き始めた」
彼は歩きながら説明してくれた。
それをまとめるとこうだ。
かなりの埋蔵量を誇る鉱山があった。
しかし、突如としてそこに魔獣が住み着き始める。
そこで領主は当然として兵士を派遣したが、撃退された。
ならばと優秀な冒険者を呼んで討伐を頼んだけれど、敗北こそしなかったものの討伐には失敗した。
それから冒険者たちは何度も鉱山へ入ったが、魔獣は隠れたまま出てくることはなかった。
優秀な冒険者がいれば魔獣は出てこないが、優秀な冒険者を遊ばせておく余裕もギルドにはなく、領主にも資金はなかった。
よって、冒険者は帰り鉱山に再び魔獣が現れるようになる。
彼らの両親は鉱山に潜ってなんとか鉱石を採掘しようとしているが、見つからないように静かにやっているためかなり効率は悪い。
しかも入るためには高ランクの冒険者を護衛として雇わないといけないらしく、その支払いで稼ぎも細々としたものなのだとか。
かと言って他にいい場所はあるかと言われるとなく、少し離れた環境の悪い場所でなんとか稼ぎをしようとしているらしい。
「それでこの街の景気が悪かったのか」
「ああ……それも結構長くて、街はお通夜ムードさ。話では鉱山近くの食材が取れないせいで、《トレメス》も客を絞っているって話らしいぜ。聞いた話だけど」
「ほう……」
つまり、その鉱山に住む魔獣を倒せば、《トレメス》は客をもっととれるようになり、俺たちが食事をできる確率も上がる……という訳か。
いいことを聞いた。
そんなことを話していると、彼がある場所を指さす。
「あそこが詰め所だ」
「よし、ではシーナと一緒に待って……いや、一緒にこい」
「え? なんでだよ。オレまでなんか言われるのは嫌だよ」
「いいからこい」
シーナの美貌はとても目立つ。
本当に目立つ。
本人は今ぽやっとしているが、そのぽやっとした表情でも多くの男たちが振り返って姿を何度も見ている。
それを2人だけにしておくのは余計なことが起きそうなのでやめた方がいいだろう。
ということで、俺は2人を連れて詰め所に入る。
「入るぞー」
「おい! 誰だ勝手に入るのは!」
「この襲ってきた奴らを突き出しに来た。文句あるか」
俺はそう言って重ねていた重りを床にドサっと投げ出す。
「も、文句はないが……こいつは! 最近暴れ回っていた!」
という感じで、実はそこそこ名前のあるやばい奴がいたらしい。
30万ゴルもらえた。
やはり悪党狩りは美味しいな。
金も入って世直しもできる。
賞金首狩りになる理由もわかると言うもの。
「これで満足か?」
「ああ、こっちにこい」
「まだあるのかよ……」
俺は裏路地に彼を連れ込む。
そして、人の目から彼を隠すと、先ほど受け取った30万ゴルを渡す。
「は……なんだよこれ。同情でもしてくれたのか?」
「案内を頼む。そう言っただろう? その報酬だ。大事に使えよ」
「……ありがとう」
そういう彼の表情はちょっとかわいく感じてしまう。
違う、俺は決してそっちのケはない。
ないけど彼からは何か感じるものがある。
「誰かに取られるなよ。じゃあな」
「……気を付けてね」
俺とシーナはそう言って彼に別れを告げる。
「ああ、ありがとう」
彼はそう言ってお金を懐に隠し、裏路地を走り去っていく。
「もう……あの子にあんなに優しくするなんて……エクスさんってば……わたしだけに……」
「どうかしたのか?」
「どうもしません! それで、次はどこに行くんですか?」
「ギルドに行こうと思う。鉱山の魔獣討伐依頼を受けて《トレメス》に行くぞ」
「はい!」
俺たちはそう話して、ギルドへ向かおうとした時に声をかけられる。
「お前達、《トレメス》に行きたいのか?」
そう再び声をかけられた。
「またか!?」




