第19話 リフトゴーレムを造ろう
俺は1人でその墓を見に行く。
墓は村のすぐ外にあり、高さ5m、20m四方の大きさで作られていた。
話を聞くと、昔は普通の墓にしていたんだけれど、アースモール……要はモグラに荒らされたらしい。
なので、万が一のことと、荒らされないように村の外の高い場所に作ることにしたんだとか。
アースモールはDランクの魔物で肉食。
野菜とかの被害はなく、臆病なので人を襲うことはない。
ただ、死肉だけは別ということで、死体を持っていかれるらしい。
こうすればアースモールに持っていかれないということで、墓を作った理由はそんな理由からだ。
俺はその条件をクリアするようにゴーレムを造らなければならない。
「エクスさん! すみません! 考え事をしていました!」
そう言って走ってきたのはシーナだ。
「気にするな。料理はもういいのか?」
「はい。今わたしが考えられることはやりました」
悔しそうにしているのは、分からないからだろうか。
「そういえば、シーナ、今回の報酬はクロアさんが料理をシーナに教えてくれる。ということになっている。問題はなかったか?」
「え! シチューのレシピを教えてもらえるんですか!?」
「それはわからない。ただ、あの人の料理の腕は本物だろう?」
「……はい。かなりの高みにいると思います」
「そんな人が少しでもシーナに料理を教えてくれると言った。それでは足りないか?」
「そんなことありません! とっても……とっても嬉しいです!」
そう言うシーナはとてもうれしそうだ。
「なら良かった」
「はい! と、わたしにもできることはありませんか? 何もしないのは気が引けるんです」
「では魔獣を狩ってきてくれ」
「はい! え……ま、魔獣ですか?」
「ああ、この近辺にはアースモールという魔獣がいるらしい。その魔石があると嬉しいんだ。だから5、6匹狩ってきてくれ」
「わかりました! 任せてください!」
「頼んだ」
そうして、俺はゴーレム造り、シーナは魔獣狩りと役割分担をする。
******
わたしはシーナ。
エクスさんに頼まれたアースモール狩りを任された。
アースモールの生態や出現場所などはクロアさんに聞いたので、問題ないと思う。
さっきのシチュー……とっても美味しかった。
あれだけの味を出せるようになるまでに、すごく努力したんだと思う。
わたしもあんな料理を作れるようになりたい。
そして、そのきっかけはエクスさんがくれた。
だからわたしはできることに力を尽くすのだ。
「この辺りだっけ……」
村は森の側にあって、反対側には草原が広がっている。
その草原の川の近く……湿気が多い場所にアースモールは多いらしい。
「ではここで……『地面反響』」
魔法で地面の下を探索する。
そのさい当然のように魔法は自分の身体の一部だと思い込む。
これにより、前より消費魔力も減り、範囲も上がった。
やっぱりエクスさんはすごい。
教え方も丁寧でわかりやすいし、こんな魔法の秘奥義みたいなことをさらっと教えてくれる。
「だからこそ、ちゃんと……わたしも返したい。美味しい物を食べたいというエクスさんに、わたしが作れる全てを食べてほしい」
そして、魔法の効果でアースモールらしき魔獣の反応が返ってきた。
「見つけた」
わたしはその地点までいき、道中に狩っておいたゴブリンの死体を土に埋める。
少し離れて待っていると、地面の中のアースモールがゆっくりと近づいてきた。
後少しでゴブリンの死体に届く。
わたしはそのタイミングを狙って魔法を放つ。
「『魔法の矢』!」
ズドン!
魔法の矢は地中ごとアースモールの眉間を撃ち抜き一撃で仕留める。
「やった……これを後4,5回繰り返せばいけるよね」
わたしはそれを繰り返し、周囲の警戒をしながら狩りを続けた。
******
「さて……どういうゴーレムを造るか……だが。どうするか」
俺はクロアさんの家に一度戻り、『設計図』を拡げて考える。
戦闘用……俺が戦っている時に造るのは、一度限りなので適当に造っても問題ない。
無理をして壊れても、どうせ持っていくつもりなどないのだから。
でも、クロアさんに使ってもらうのであれば細心の注意を払い、長く使い続けてもらえるものを造るべきだ。
そのためにはどのように造るかを考え、テストしてみなければならない。
「だが、まずはどうやってあの上まで運ぶかを考える必要があるか……だが」
どんな体の状態でも、なんなら天気がどうであろうと上にゆっくりと運ぶ。
ということを前提にしてやれるといいのではないだろうか。
やはりリフト方式ではどうだろうか?
乗っているだけでいいだろうし、5mを登るだけではそこまで労力もかからない。
頼んだアースモールの魔石で十分に機能が果たせるだろう。
しかも、それらを連結させて構築できれば、安全性は高まる。
リフト……と言っても、スキー場にあるような上から吊るす方式ではなく、地面や崖に固定した直線を昇降するタイプを採用しようと思う。
短い距離だし、その方が揺れなども少なく身体への負担も減る。
最初に地面と崖に打ち込むゴーレムを開発しよう。
「とりあえずこんなものか?」
設計としてはこうだ。
まずは地面と崖に支えになるレールのようなゴーレムを埋める。
それらは魔石に連結の設定をすることで、お互いに協力して効果を発揮できる。
色々と条件や細かい注意事項があり、説明は面倒だったりするので割愛。
そして、その上に台座を連結させておく。
これには振動軽減や落ちそうな時の安全装置と言った機能をこれでもかとつける。
後は、この2つを合わせて、昇降するように造るだけだ。
いざという時のために設計図は残していくので、修理の際も問題ないだろう。
俺はそれを設計し始めて3時間くらいだろうか、これくらいだというものが決まった。
「後はシーナが帰ってきてくれれば……」
「エクスさん! 取ってきました!」
「お、ちょうど良かった」
シーナが帰ってきて、必要な魔石を差し出してくる。
なので、それを使っていざ作っていくのだけれど……。
「これ……もっとできそうじゃないか?」
リフトの方も台座の方もかなり余裕を持って設計してある。
だから、もう2,3個くらい機能を追加しても問題なさそうな……。
「やっぱり……いざっていう時の防衛機能とかあった方がいいよな?」
魔獣と会うことがあると言っていたし、迎撃するための機能も追加してはどうだろうか。
ほかにも、これはリフトだが、やろうと思えば発射台のようにも使える。
いわゆるカタパルト方式という形だ。
これでやれば、いざという時にパラシュートを背負い、脱出装置として使えるかもしれない。
いや、いっそのことあの場所の墓のない辺りに秘密基地を造り、そこをいざという時の拠点にしてしまった方がいいのではないだろうか。
湖を割って出てくるとか、滝があるのが秘密基地の必要要件ではない。
ただ地面に隠れている方が、分かりにくいという点でもいいように思う。
「ふふふ、後はどんな可能性が……」
「エクスさん」
「ん? ど、どうした?」
俺は最高のリフトを考えていると、シーナがとてもいい笑顔で見てくる。
「エクスさん。防衛機能なんていらないので、早く作ってくれませんか? オードリアにはいかないつもりですか?」
「! そうだった。なら……早速造るぞ」
「はい!」
ということで、俺は防衛機能や脱出機能を排除したリフトの製作に取り掛かった。




