第17話 シーナのお願い
「魔法の起動が遅い! 速度型の敵に狙われたらやられるぞ!」
「はい!」
俺は鞘に入ったままの剣を持ち、シーナの相手をしていた。
シーナの戦いを見て、こうしたらいいと思ったことを戦いながら教えている感じだ。
俺はシーナに向かって剣を鞘に入ったまま叩きつけようとする。
「『風の衝撃』」
シーナはそれを魔法で真っ向から受け止め、自身は後ろに下がって距離を取る。
俺は剣の攻撃を魔法で受け止められ、追撃できない。
「『魔法の矢』!!!」
彼女はマックスが使っていた魔法を使い、俺に攻撃を仕掛けてくる。
ちゃんと後ろに下がりながら距離を取っていて、戦い方を分かっていていい。
俺は飛んでくる魔法の矢を全て剣で叩き落す。
「え! ちょっ!」
シーナが目をむいて驚いている隙に、俺は彼女に近づく。
「驚いている場合か?」
「!」
俺はそのまま彼女ののど元に剣を突きつけると、彼女は両手をあげて降参する。
「負けました……というか、あんなことできたんですね……どんな反射神経してるんですか」
「できないと死んでいたからな。秘書の仕事は」
「それって秘書の仕事なんですか?」
「ああ、あの時は気づかなかったが、今考えるとおかしいと思う」
前世の記憶を思い出して、その時と比較してもどう考えてもおかしい。
魔獣なんていなかったことを抜きにしても。
「まぁ、そんなことは気にするな。シーナは筋がいい。魔法もかなりの種類使えるのではないか?」
「魔法の種類は4大属性以外はわかりませんね。エルフは種族柄結構使えるはずなのですが……」
エルフは自然の魔力を取り込むようにして生きているためか、使える魔法の適正が多い……と言われている。
適正が高いとあって、人族よりも魔法の威力も発動速度も上だ。
だから魔法の使用がうまくなることが彼女の実力アップにつながっている。
長所は伸ばせ作戦だ。
「なら、もっと魔力速度も上げられるはずだ。そこを鍛えれば魔法の発動も早くできる。今は実戦式の訓練を何回もやって、それを上げるだけでワンランク上の実力になれるだろう」
ちなみに魔力速度とは魔法を早く起動するための魔力を伝達させるための速度のことである。
「前から思っていたんですが、エクスさんの魔力速度おかしくないですか?」
「遅すぎる……って意味だよな?」
「いえ、速すぎるって意味です。設計図の時も思っていましたが、あんな速度どうやって出せるんですか? 精霊とか竜人だったりします?」
「シーナ……早くやらねば仕事が終わらない。となれば、できるようにもなる」
「いやそんな……」
シーナは嘘だろう? っていう顔をしているが、やらなければならないのだからやるしかない。
できるようになるまで特訓をするだけだ。
「いえ……現にエクスさんができているんです。わたしもやってみせます!」
「ああ、シーナには期待してる」
「……はい!」
ということで、俺たちは戦闘訓練を続ける。
「魔力を魔力だと思うな! 自身の身体の一部だと思え!」
「ええ!? 魔力ってそれで変わるんですか!?」
「変わる! やってみろ!」
「戦いながらは無理ですって!? 『炎の柱』!!!」
「できる! シーナならできる! やってみせろ!」
「ええ!? 炎を剣の風圧で消さないでください!」
そんなように結構みっちりとやっていると、シーナの実力はメキメキと上がっていく。
俺はシーナ目掛けて突っ込む。
「『風の衝撃』!」
「ふっ!」
俺が剣で突風を防ぎ、そのまま彼女に向かって行く。
しかし、彼女はその間に魔法を発動する。
「『土の壁』 『水の飛沫』」
俺の足元に小さな壁、つまずきができる。
俺はそれを小さく飛んで回避した所に、水が飛んできた。
「いいぞ! その速度はかなりいい!」
俺はそう言いながら衝撃が生まれるように手を叩く。
パン!
すると、飛んできた水はすぐに打ち消された。
「ええ! 『風の衝撃』!!!」
シーナは慌てるが、それでもすぐに魔法を発動する。
できるだけ驚かせるようにして、彼女の攻撃をかわしたり消したりしたかいがあった。
しかも、彼女が発動した魔法は1つの魔法だ。
だけれど、俺の正面から1つ、足元を狙って1つ、そして左斜め後ろからも1つ。
計3つも放ってきている。
正面のは囮、最悪このまま突っ込んで当たったらラッキー程度だろう。
足元は当たってバランスを崩したらそこを狙うのだろう、避けるためには飛んだり横に移動したりしなければならない。
本命は斜め後ろの一撃。
驚いている割にはちゃんと狙いがあってうれしく感じる。
俺はそれを認めるために、剣を抜いた。
スパッ!
俺はシーナの魔法を切り裂き、無力化する。
そして、鞘に戻して彼女ののど元に突きつけた。
「うぅ……今回はいけると思ったのに……」
「だが、たった1日でかなり良くなっているぞ。マックスであれば勝てるかもしれない」
「本当ですか!?」
「ああ、それにまだまだ伸びしろもある。日常から魔力を自分の物として生活を続けろ」
「それってどれくらいですか?」
「一生だ」
「一生……」
シーナが遠い目をする。
「だが、それができるようになれば、いざという時にも反応しやすい。遠距離からの攻撃にも、反応できたりするからな」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
「シーナに才能があるだけだ」
「そんなことありません! エクスさんの教え方がとっても良くて、里の人たちよりもすごくわかりやすくて実力が上がっていくのが分かりました!」
「そう言ってくれるのはうれしい」
俺が軽く言うと、シーナは身体を寄せてきてさらに言い募る。
「あ、信じてませんね! 本当なんですよ!? 最初は『これほんと? ほんとにできるんだよね? できるんだよね?』っていう感じで思っていましたけど、ちゃんと意識し続けていると身体になじむっていうのか、やればやるほどうまくなるのが分かるっていうのか……」
「信じているよ。さ、そろそろ夕飯にしよう。昼も食べてないし、移動もあんまりできていないからな」
「あ……そういえばそうでしたね。少しくらい進んでからにしますか」
「そうだな。早くオードリアの飯も食べたい」
ということで、俺達は少し進んでそれから食事にする。
昨日宴で食べたブルームバイソンの残りがあったので、シーナが試行錯誤しながら料理を作ってくれた。
「うん! 美味い!」
「はい! ありがとうございます!」
それからは朝起きてオードリアを目指して歩く。
そしていい感じの時間になったら野営の準備をした後にシーナの特訓をする。
ということを数日続けた。
そして、そろそろ次の村に……という所で……。
「キャー!」
俺とシーナは目を合わせる。
そして、同時のタイミングで駆けだした。