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第15話 追放サイド ジュディの叫び

 私はジュディ・ヴァセラ。

 最近アクリスケディアスでクランマスターの秘書として働き始めた。

 しかし、このクランの現状はひどいものだった。


「この書類はどうなっているんですか?」


「さぁ……エクスがやってくれていたから、秘書で色々と担当してくれていたんだよね。ヴァセラさんにも期待しているよ」


「いや……これは普通にあなた方経理処理を担当される方の範囲では?」


「え? そうなの? 頼めばやってくれたから……困ったな」


「……これからはちゃんと仕事をしてください」


「はぁ……わかったよ。わかりました」


 そう言って経理担当の彼は頷いてくれるが、すごく嫌そうだった。


 私は表情を必死に取り繕い、部屋から出る。


「おかしい。ゴーレムの材料の支払いは経理部の担当でしょ……? なんで秘書がやっているの? 理解できないんだけど……」


 というかこんなことがいくつもある。

 素材調達部はこいつら戦えるのか? と思うような感じだった。


 量産工場部の雰囲気もめちゃくちゃ緩い。

 そろそろ本気にならないとまずそうな生産量なのに……。


 まぁ、トライマイスターがいるということで、緩んでいる部分があるのだろうか?

 これを修正できれば私の評価も上がるが……。


 けど、秘書はあくまで上司であるクランマスターをサポートする業務だ。

 私の仕事からはかけ離れている。

 というかなんで前任者はやっていたのか……それとも優秀すぎて任されていた?

 でも、それならなんでクビなんかに……。

 あり得ない量の仕事をこなしていたようだけど。


「まぁ、いいでしょう。ここにはトライマイスターがいるのですから。彼らがいれば安泰というものです」


 私は関係各部に挨拶周りして、定刻になるまで上司の側に控え続ける。

 特に忙しいことはなく、その日は終わった。



 翌日、私は開発の進み具合を聞きにクブリさんの元へ向かう。


 コンコン。


「返事がない……大丈夫かしら? 入りますよ?」


 扉の鍵は空いているようだった。


「失礼します」


 そう言って中に入ると、一番目立つ机の上に紙が置いてある。


「何……?」


 私は近づいてそれを読む。


『開発の案を練るために旅に出てくる。探さないで欲しい』


「は……?」


 私は目を何度も凝らし、何度も読み直す。

 しかし、書いてある言葉は一言一句同じだった。


「は……? え……いや……は……? 旅に出る……? いや、そんな……近場で済ますってこと?」


 旅ってなんだ。

 少年か?

 自分探しをする年齢でもないだろうに……。


「まぁ……これは流石にクランマスターに報告しないとまずいですか」


 私はそう思ってクランマスターの部屋に向かおうとして、嫌な予感に足を止める。


「もしかして……」


 私は急いで製造のカンテさんの部屋へと向かう。


 コンコンコン。


「カンテさん! いますか!? いたら返事をしてください!」


 しかし、返事はなかった。

 だが、一応……。


 ガチャガチャガチャ。


「よし、カギはかかって……ん?」


 鍵がかかっていて、安心したのもつかの間。

 扉と床の間に何か手紙が挟まっている。


 私はそれを取り開く。


『新型ゴーレム製造のため、素材を取ってくる旅に出ようと思う。帰ってくるので安心して欲しい』


「取りにいかせろ! なんのための素材調達部だ!」


 私は誰もいないのにそう叫んでしまう。

 っていうかなんで旅にするんだこいつらは!


 しかし、嫌な予感は当たっていた。


 もうそうなっている気しかしないが、万が一の可能性を求めて量産のティダーさんの部屋に行く。


 部屋の扉には、1枚の紙が貼ってあった。


『量産の技術を磨くため旅に出てくる。何かあったら他の2人に頼んでくれ』


「2人とも旅に出たんだよ畜生! どうなってるの? ねぇ、なんで突然消えるの? こいつら社会人か!? クランマスターもクランマスターよ。何が『彼らは気難しい職人の中で性格のいい素晴らしい者たち』よ! いきなり3人も消えるとかこれどうなっているのよ!」


 イラついて思わず扉を蹴りつけそうになる。


「ふぅ……落ち着け、落ち着くのよジュディ。きっと今までもこんなことがあっても乗り越えてきた。だからトライマイスターと言われてもてはやされているに違いないわ。そう、落ち着くのよ」


 私は深呼吸を繰り返し、報告のためにそれらの紙を持ってクランマスターの部屋に向かう。


「失礼します」


「おお、ジュディ女史、どうされたかな?」


「これを」


 私はツカツカと彼の机に近づき、極めて力をセーブしてそっと机の上にさきほど集めた紙を置く。


「これ……は……」


「トライマイスターの3名とも旅に出られました」


 単刀直入にそう言う。

 焦る必要はない。

 きっとこれがいつものこと。

 そう、いつものことなのだ。

 私もその当たり前に慣れなければならない。


「なん……だと……!?」


「いや当たり前じゃないんかい!」


「ジュディ女史?」


「すみません。口が滑りました。それで、この後はいかがなさいますか?」


 わたしは表情を取り繕って上司に聞く。


「ど、どう……とは、彼らがいなければ新しいゴーレムも、量産体制に入っているゴーレムも作れないではないか!」


「というか、素材調達部ってこれらの素材をどうやって集めていたのですか?」


 私は昨日、クランマスターの側で仕事を待っている間、クランの帳簿やゴーレムに使われている素材を見ていた。

 そこには蒼巨蠍の外殻、トツゲキダチョウの羽毛、アイスドラゴン角の粉末等が書いてあったのだ。

 それらの品は高い上、そもそも市場に出回らない。

 じゃあどうやって集めているのか……という話になるが、素材調達部にそれらを集められそうな者はいない気がする。


「ああ、その素材はカンテやティダーが自ら集めていたようだな。わたしも知らないルートで素材を集めていたらしい。わたしとしても自主的にやってくれるのなら文句はないからな」


「え、それで販売価格に材料費は追加してあったりは……」


「当然だろう。彼らが自ら取ってきたのだ。その分は入れているとも」


「なるほど」


 そう言って帳簿を見るけれど、市場価格よりだいぶ安くされている。

 だからあの性能でこの値段を……。


「それであれば、しばらくは問題ないということでしょうか? そろそろ次のゴーレム納期が迫っていますが」


「ああ、それならティダーが量産工場部をしっかりと指導してくれている。だから問題ないだろう」


「はぁ」


 本当に?

 とかなり心配になる。


「早いですが、昼休憩をいただいても?」


「ん? ああ、好きにしたまえ。前任者は1週間いなくなるようなふざけたこともあったのだからな」


「……はい。ありがとうございます」


 私は一礼をして、手紙を書くために部屋に戻る。

 食事などしている場合ではない。


 至急、父にこのクランと手を結ぶのを考えるように手紙を送らないと。

 今はまだ問題が起きていないが、これからどうなるか……。


 頭の中で嫌な予感が叫び続けていた。


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