第13話 ブルームバイソンの味
俺はシーナの肩を掴み、手に持った物を彼女の前に出して告げる。
「早くブルームバイソンを調理してくれ! 戦って腹が限界なんだ!」
「へ……」
俺の言葉でシーナは目を開けて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
「シーナ、頼む。クタクタに疲れた。こんな時はお前の料理が食べたいんだ」
「あ……はぃ……そぅすか」
「シーナ?」
なんだかシーナの色が消えているような……いや、気のせいか。
「あ、はい。やります、ちゃんとやりますよ。任せてください」
ブルームバイソンから魔石をとったことで、奴はもう死んでいる。
シーナがやりたいというので、その解体も合わせて任せることにした。
その間俺は……。
「無事か?」
壁ゴーレムの上に登り、シーナに魔法を解除してもらってマックスパーティの容態を探る。
「……」
しかし、まだ意識は戻っていないのか、5人ともぐったりしたままだ。
「これは……村に戻るまでわからないか? ただなぁ……」
今回の戦闘で疲れているので、このまま運ぶということは正直避けたい。
というか、この壁ゴーレムの外にはまだ魔獣たちがいるのだ。
そのことを考えると、食事をして元気になってから……ということをした方がいいだろう。
「ただここに置きっぱなしはかわいそうか」
俺は彼らを拘束したゴーレムを持ち、下に降りる。
そして、シーナが解体してくれている近くに置いておく。
途中で目を覚ましたら一緒に食べてもいいだろう。
俺がのんびりと待っていると、シーナが大きな肉を持ってくる。
「エクスさん! できました!」
「おお! できたか!」
さっきから香ばしいいい匂いがしてると思っていた。
腹の虫が鳴きまくって出てくると思ったくらいだ。
近くにたまたま残っていた葉っぱに、それを載せる。
その肉は鳥のささみのように白く、焼いたはずなのにキラキラと輝いてとてもきれいな色をしている。
形はステーキのように切ってあるので、肉だと思うが最初から食材だと知らなければ芸術品と間違えていたと思うほど美しい。
「調味料があんまりなくて……塩でしか味付けしていませんが、十分だと思います」
シーナがそう説明してくれる。
「よし、なら食べよう」
「はい」
「……」
「……」
「座らないのか?」
「え? こういう時はやっぱりエクスさんからかなって」
シーナがそんなことを言うので、俺は首を横に振る。
「シーナだって頑張ってくれたじゃないか。胞子から守ってくれたし、こうやって料理もしてくれた。まぁ……そんなこと関係なく一緒に食べたいから食べよう」
「いいんですか?」
「当然だ。腹が減っている。早く一緒に食べよう」
「……はい!」
シーナも自分の分を持ってきて、俺と向かい合って地面に座る。
そして、フォークとナイフはあるので、それをマジックバッグから出して肉にナイフを入れる。
ささみのように脂身はないかと思ったら、じゅわっと少量だがあふれてきた。
その脂も輝いて見えてとてもうまそうだ。
俺はそれを一口サイズに切り分けて口に入れる。
「!!!」
「!!!」
口の中いっぱいにブルームバイソンの肉の旨味が広がった。
肉々しい味はささみのようにさっぱりとしているが、内包されている力強さがまるで違う。
あっさりなのに口の中のこれは美味いものだと脳が認識してしまう。
「……!」
少量の脂もただものではない。
口の中でこれでもかと主張する。
肉ばかりに気を取られている場合ではない。
いいから俺をもっと啜れと言っているかのようで、毎朝のドリンクにほしいと思うくらいだ。
俺はこの感動を共感したくて、シーナの方を見る。
彼女はその小さな口いっぱいになるようにステーキをほうばっていて、モッキュモッキュと美味しそうに食べている。
「美味いな」
「……ごくん。はい! こんなに美味しいお肉初めて食べました! さっぱりしているのに食べ応えがあって、最高の野菜と最上の牛肉を食べている気持ちになります!」
シーナはそう言って再び美味しそうにステーキを食べ始める。
「ああ、そうだな」
俺ももっと味わうようにして肉を食べ始めた。
「ふぅ~~美味かった……」
「ふふ、すごい量を食べましたね」
「ああ、こんなに食ったのは初めてかもしれない」
満腹で動けないという感じだ。
「それでもブルームバイソンの肉はまだまだありますからね」
「ああ、これだけあるんだ。村のみんなにも配ってもいいだろう」
「エクスさんは本当にお優しいですね」
「そうでもないさ。さ、片づけをして、元気になったら壁ゴーレムを壊して戻ろう」
「はい」
それから少し食い過ぎた腹を休めてから壁ゴーレムを壊そうとする。
自分で作ったから壊すのは簡単だ。
すると、5人の方から声が聞こえる。
「うぅ……」
「お、目を覚ましたか。あのまま持っていかなくていいと楽なんだが」
「それよりもまだ操られていないかが心配です」
「確かに……それもあるか」
俺たちは一応警戒しながら、彼らに近づく。




