第12話 ブルームバイソン
ブルームバイソンを倒したと思ったら、まだだった。
奴は首が飛ばされた時と同じようにして、断面からツタが伸びて元に戻る。
「さて……とりあえず引くか」
「ええ!?」
俺は一度奴から距離を取る。
そして、対策用のゴーレムを造る。
「『設計図』」
「あ、あの! ゴーレムを造っている場合ではないんじゃ……」
「なぜだ。ああいった強い仕掛けのある魔獣相手には何度もトライ&エラーしかない。もちろん、何度も許してくれない奴もいるが、幸い奴はすぐにこちらを殺しにこれる火力を持っている訳ではない。楽な相手で助かったな」
「楽って……そんな……」
シーナの言葉をよそに、俺は新しいゴーレムを造る。
今度は火力で全て燃やしてみようか。
魔石以外残らないくらい強火で燃やしてみれば、どのような変化をするのだろう。
Sランクの魔獣とやらを食べてみたい気持ちはある。
だが、死んでは元も子もない。
というよりも、おじいさんに教わった料理を食べることが最優先だ。
使用する核は山賊からもらったサラマンダーの魔石。
これはBランクの魔獣で、俺なら7個能力を付与できる。
そして、同系統の能力を付与する場合、ボーナスが付く。
先ほどの土の壁を作った時も、土属性なら能力が上昇するのだ。
だから、使用する核もちゃんと考えなければならない。
そして、今回は火を放つ能力と、その威力強化だけに注ぎ込む。
後はオンオフのスイッチくらい。
「『土人形製造』」
俺の右手に30センチほどの人形が造られる。
形は大きめのトカゲ……サラマンダーと同じようなものだ。
俺はそれをブルームバイソンに向け、起動する。
ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!
「熱い熱い熱い熱い熱いですぅ~~~!!!」
シーナが思わず叫ぶほどの熱気。
後ろにいるはずなのに、コンロで焼かれているのではと錯覚するほどだった。
「『水の円舞』」
シーナが魔法で俺たちの周囲を覆い、熱された空気を冷ましてくれる。
「ありがとう。シーナ」
「いえ、それで、ブルームバイソンは……」
「足だけ残っているな」
「なんという火力……っていうか森が燃えていますよ!?」
「壁で囲っているから問題ない」
俺は視線を前方に向ける。
すると、その辺りの地面からツタが伸びてきて、それは確実にブルームバイソンの形を造った。
「あれは……不死身……なんですか?」
「今ので確定したな」
「何がですか?」
「奴の本体はあれじゃない。地下に潜っている何かだ」
「!」
ということであれば、後はそれを引っ張り出すか、そこまで掘り進めばいい。
そういえばさっき土の壁を作った時に奴が慌てていたのも、本体が近くにあったからかもしれない。
「『設計図』」
今度はトレントの魔石を使う。
そして、目的はただ一つ。
木属性の魔獣の探知だ。
探知系統のゴーレムはなかなか作るのが難しい。
周囲の索敵の能力に、範囲を拡大させる能力、そして、それを俺に伝える能力。
ということが最低限必要で、範囲拡大にもそれなりにコストがかかる。
だが、俺なら造れる。
「『土人形製造』」
俺ははにわ型のゴーレムを造り、即起動する。
そのはにわが向いた方向に、奴の本体がいる。
地下50mという所くらいか、地下に姿を隠しているからか、奴自身の動きは遅い。
ならば……。
「よし、シーナはあの5人を連れて壁ゴーレムの上で待っていてくれるか?」
「無理ですよ? わたしだけなら行けますけど、5人を連れて壁を登れるようなすごい魔法持ってません」
「そうなのか。なら連れて行くから、そこで待っていてくれ」
「でも……わたしもエクスさんの力になりたいです!」
「これからすることはちょっと威力が高くてな。この中にいるとケガをしてしまうと思う。かといって外に出しておくと魔獣がいて危ないだろう? だから上で待っていて、もし、余波がきそうなら魔法で防いで欲しいんだ」
「余波? あんな上空にですか?」
シーナは高さ50m上を見上げる。
「そうだ。上に連れていくぞ」
「はい」
ということで、彼女と5人を拘束しているゴーレムを持って土壁ゴーレムの上に出る。
5人の拘束ゴーレムが下に落ちないように壁ゴーレムに突き刺す。
「出来る限り強い防御魔法を中に向けておいてくれ」
「は、はぁ……分かりました」
俺は彼女にそう言って、一人で下に降りる。
「さて……これで……好きにやれるけど……どうするかな」
土は結構使えそうなのと……ここら一体の木も先ほどの戦いの余波で使えるか。
燃えているので、早く使わないとなくなってしまう。
今手に残っているのは、サラマンダーの魔石が2つにロック鳥の魔石が2つ。
後はトレントの魔石が10個以上あるくらい。
それ以下のは今は使わなくていいか。
「『設計図』」
造るのは大きな槍……いや、ドリルの方がいいか。
先端が回転し、貫通力をこれでもかと上げていて、頑丈にした物がいい。
それはトレントの魔石を核にして、1つ作ってそれを上から補強する形で大きく頑丈に、そして強力にしていく。
土と木を使った特別製だ。
「『土人形製造』」
とりあえずは出来たか。
これで掘り進めることはできるだろう。
後は……。
「どうやって掘るための勢いをつけるか……だが」
そこで活躍するのは異世界の知識。
それも、有名なロボットたちが背中につけているあれだ。
サラマンダーとロック鳥の魔石が2個ずつ。
火属性と風属性。
であれば、作る物は1つ。
「『設計図』 ブースター……使ってみたかったんだよなぁ」
自身の両肩に装備する形でゴーレムを造っていく。
能力は俺が操作することなどにも使わなければいけないので、たくさんは付与できない。
だが、両肩分あればいけるだろう。
先端の空いた円錐のゴーレムを造り、大きくなっている方に向かって炎を噴出するゴーレムを造る。
そして、先端の方にはロック鳥の魔石を最大出力で大きくなっている方へと向けて放出させる。
しかも一回切りの使い切りにすることで、通常の何倍もの効果を発揮するように。
「『土人形製造』」
ちなみに色は白にした。
やっぱり主人公機ってあこがれるじゃん?
赤もいいし、個人的には黒とかも好き。
でも最初はやっぱり白だよね。
それを2つ造り、両肩に装備した。
俺は壁を登り、シーナに警告を出す。
「全力で守れ! いいな!」
「わ、分かりました!」
それから少しだけブースターを吹かし、さらに上空に登る。
ちょっとだけなので使った内には入らない。
試運転みたいなものだ。
後は、はにわの示す先に向けて突っ込むだけ。
「行くぞ。威力を高めたから1回しかできない使い捨てだ。ブースター点火!」
ゴゥ!!! キュィィィィィィィィィィィィン!!!!!
俺が起動させると、ブースターは過剰な設計にしたためか悲鳴を上げる。
その代わり、想像していた以上の速度で地面に向かって行く。
風圧で顔の皮膚がやばい。
でもこの速度感はたまらない。
もっと速く! もっと先へ! 限界を超えた威力を奴にぶつけてやる!
土と木で作った槍を正面に向けて、俺は叫ぶ。
「【極大穿孔破】!!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
地面が面白いように掘れていき、一瞬止まる。
「!」
次の瞬間にはそれを貫き、さらに潜っていく。
「あ! 威力を出し過ぎた!」
俺は慌てて背中のブースターを切り離し、足元のドリルを蹴りつけて上に向かう。
その時にすさまじいGがかかって身体がきしむが、仕方ない。
このままだと生き埋めになってしまうからだ。
上に戻る途中、一瞬止まった正体はブルームバイソンの本体だったとわかった。
大きさは5m四方はあるくらいだが、中心には大穴が開いている。
復活されたらたまらないため、たまたま無事だった奴の魔石を切りだし、マジックバッグにしまう。
後は魔石の抜かれた奴の死体を掴んで気合で登る。
登る……と言っても、上はすり鉢状に広がっていて、俺のいる場所がアリジゴクの中心のように地面を消し飛ばしていたらしい。
「やっぱりドリルは最強だな。カッコよさも段違いだ」
剣もいいけれど、やはりドリル。ドリルは全てを解決する。
でも、今なら巨大ロボとかも乗ってみたい。
クランで働いている時は考えている暇もなかったからな。
今なら頑張れば作れるかもしれない。
「エクスさーん! 聞こえますかー!?」
「聞こえるぞー! すぐに戻るー!」
「わかりましたー!」
俺はシーナの声に応えるようにして、足を速める。
外に出ると、シーナは1人で待ってくれていた。
降りてきたからか、少し髪が乱れている。
「待たせたな」
俺がそう言うと、シーナは思い切り俺に体当たり……いや、抱き着いてくる。
「どうした」
「心配したんですよ!? あんな威力……余波だけで防御魔法の上から飛ばされるのかと思いました」
「シーナの魔法を見ていたからな。あれくらいなら大丈夫だと思っていた。まぁ……想像よりも威力は出てしまったが」
「壁ゴーレムがなかったら洒落になっていなかったと思いますよ……」
シーナのいう通り、さっきの攻撃の余波はゴーレムでギリギリ食い止められている形だ。
ゴーレムがいなかったらこの森そのものが吹き飛んでいた可能性すらある。
「それもこれもゴーレムのおかげだ。というか、5人はどうした?」
「魔法で守ってあります。エクスさんが心配できちゃいました」
俺はそっと彼女の頭に手をのせる。
「心配させてすまない。さ、次にやることは決まっているな?」
俺は彼女の肩に手を乗せて、彼女の綺麗なエメラルドグリーンの瞳を見つめる。
すると、彼女のほほが徐々に赤くなっていく。
「え、こ、ここで……ですか?」
「魔物は来ないから大丈夫だ。さぁ」
「は、はい……」
彼女は目をつむり、じっと動かない。
俺は彼女に告げる。
ブースターorバーニアで1時間。
点火or起動で1時間。
どっちにするか迷ってました。