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第10話 マックスのパーティ

「マックス! 今の話は聞いていたか!」


 俺が彼に問うと、彼が大声で叫ぶ。


「聞いていた! お前たちは戻ってみんなを避難させてくれ!」


「お前たちはどうするんだ!」


「ここに残ってこいつを狩る! 手柄はもらうと言っただろうが!」


 それは無理じゃないか……と思ってシーナをみるが、彼女は悔しそうな顔で頷く。


「勝てないと思います。でも、誰かが犠牲になって足止めをしないと、村人も全員が巻き込まれてしまうんです! エクスさん! 急いで撤退して村に報告しましょう!」


「ダメだ。それならみんなそろってからにしないと。シーナ。この胞子に対抗策はあるか?」


「え? 燃やせば行けると思いますけど……」


「なら火魔法を使って燃やしておいてくれ」


「あ、エクスさん!?」


 俺はシーナをおいて、前線で戦っているマックスの元に向かう。


 彼は前線で指示を出しながら、ブルームバイソンとその手下と戦っていた。


「おい、戻るぞ」


「な! お前たちだけで戻れ! 俺たちは……俺たちはここでこいつを殺す!」


「なぜそこまでこだわる? 命あっての物種だろう。俺なら時間を稼げる。それで退けばいいだろう?」


「……」


 俺の言葉に、彼はしばし黙った後に胸の内を話す。


「俺たちは……あの村で生まれ、育ってきた。生きるのも死ぬのも、あの村と共にしたい」


「今は逃げて復興したらいいじゃないか」


「……ああ、そうだな。そうだろうな。来たばかりのお前たちはそう考えてもおかしくはない。だがな、あの村には、俺たちが子供の頃から過ごし、共にしてきた場所なんだ。復興……言葉も意味も分かる。しかしそれは昔あったものの上に築かれるんだ。俺たちが暮らしたあの村を潰し、その上に築くということだ。俺にはそれが耐えられない」


「……」


 これは……感情論ではあるのだろう。

 そんなことは論理的ではないと切り捨てることは可能だ。

 でも、人は論理だけで生きているのではない。


 俺の想いとは別に、彼はふっと軽く笑って頭を下げる。


「俺たちはあの村を守るために全てを使いたいんだ。あんたは戻ってくれ。それに、最初の態度も悪かったな。よそ者の力を借りなければならないことが許せなかったんだ」


「それは気にしていないが……」


「器も大きいんだな。さ、話は終わりだ。頼める義理はないが、村人の避難を任せたい。頼む」


 マックスはそう言って頭を一度下げて、再び前線に戻っていく。


 他の4人も彼と同じ意見なのか、話を聞いていても動揺した様子はない。

 それどころか話し中頷いていたくらいだ。


「エクスさん! もういいでしょう!? 早く村に戻りましょう!」


 後ろではシーナがそう叫んでいるが、俺はマックスたちの戦闘を観察する。


 斥候が近づいてくる敵の報告、簡単に倒せる敵は自分で倒す。

 戦士はマックスの指示で周囲の魔物の足止め、できそうなら止めを刺す。

 魔法使いは後衛でマックスと戦士の支援で胞子を焼いて操られないようにしていて、敵がまとまっていたら魔法でまとめて吹き飛ばしている。

 聖職者は魔法使いの側で護衛を基本としていて、時折支援をしていた。

 そして、その中心になっているマックスはブルームバイソンのツタでの攻撃を防ぎながら指示を出し、時には敵の足や体などを切りつけている。


 みな一体感のある、とても素晴らしいパーティだ。

 危ない所などないように感じてしまう。


 シーナは足止めと言っていたが、このまま倒せてしまえそうにも思える。

 

 だが、敵は流石にSランクの魔獣。

 俺たちの周囲に多くの手下を配置している。


 退路を切り開くことは可能だけれど、どうせなら今頑張っているマックスたちの応援をしてやりたい。

 しかし、俺があそこに入っては邪魔になる。

 当初の左右から挟むという話も、それこそ邪魔をしてしまいそうだ。


 なら、俺ができることは……。


「エクスさん!? やっと戻る気にきゃっ!」


 俺はシーナを左手で抱える。


「え、えぇぇええ、エクスさん!? こんな時に一体何を!?」


「周囲の敵を消す。シーナは俺の周囲の胞子を焼き払ってくれ」


「! わかりました! 『炎の円舞(フレイムダンス)』」


 シーナが魔法を唱えると、俺たちの周囲で炎が巻き起こる。

 俺が移動するのにもついてくるので、移動しながら胞子を焼くにはちょうどいい魔法だろう。


「助かる」


「い、いえ、でも、敵の数……やばいくらい増えていませんか?」


「自分を囮にして包囲殲滅とは考える。先ほどのマックスたちの戦いも見ていたのかもしれないな」


「そこまで!? でも自分が死なないという自信がブルームバイソンにはある……ということでしょうか?」


「さぁな。とりあえず、動くから舌を噛むなよ」


「ふぐっ!」


 俺はシーナにそう言って、マックスたちを視界の端に収めながら敵を倒していく。


 グレートウルフ、トレント、サンダーホーンラビットは当然のように10体以上で囲んでいる。

 他にも、ゴブリンやコボルトも100匹単位で包囲を狭めていた。


 トレント以外は全員首を飛ばせば殺せる。

 なので、すれ違いざまに首を刎ねてマックスたちの負担にならないようにしていく。


「シーナ。トレントは燃やしてくれるか」


「わか、分かりました! ですからもうちょっとゆっくり!」


「悪い」


 俺は少し速度を落としてトレントに近づく。


「『炎の柱(フレイムピラー)』!」


『グゴオオオオオオオオ!!!』


 トレントの真下から大きな炎が立ち上り、トレントを焼き尽くす。

 魔法が消える頃には、トレントは炭になって魔石だけを残して消え去っていた。

 そういった魔石を俺は拾いながら、シーナと一緒に殲滅を繰り返す。


「やるじゃないか」


「はい! 足手まといにはなりませんよ!」


 トレントの魔石も10個以上集まって、かなり美味しい狩りかもしれない。


 それをやっていると、このままいけば問題ないと判断したところで、マックスたちもブルームバイソンを追い詰めていた。

 後は一太刀でブルームバイソンに致命傷を与えられる。

 そんな状況だ。


「これで終わりだ!」


 マックスがそう言ってブルームバイソンの首を両断した。


 次の瞬間、ブルームバイソンの首からこれでもかというほどに胞子が噴出した。


「な! あっ……がっ……にげ……ろ……」


「マックス!!!」


 他の者たちがマックスに呼びかけるが、彼は反応しない。


 メンバーが彼の元に走って近づく。


「ダメだ!」


 俺が叫ぶが、ブルームバイソンの身体からはさらに胞子が強まり、パーティメンバー全員が胞子を吸い込んでしまう。


「どう……して……倒した……のに……」


 マックスのパーティは全員が胞子を吸い込んでしまい動かなくなる。


 そして、首を落とされたブルームバイソンがのそりと起き上がった。

 奴の首と頭からはツタが伸びていき、お互いに絡まりあって元に戻る。


「……」


 マックスのパーティは全員が立ち上がるが、目は白目をむいていて意識はなさそうだ。

 全員が俺たちに向けて武器を向けてくる。


 奴らを周辺に従わせ、ブルームバイソンはこちらを馬鹿にするように口元を歪めた。


明日以降は毎日投稿をしていきます。

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