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最後の夜明け

作者: かなき。

とあるジオラマに感銘をうけて衝動的に書いたやつです。

短いのでサクッと読めます。

といいうかこれ厳密にはオリジナル?二次創作?どっち?



 夜明け前に見る夢は、いつもどこか懐かしい。

 生まれてはじめてみた空の色。

 小さくて臆病なくせに、鋭い嘴を持つ鳥のわめく声。

 珊瑚の森に潜むちいさな小魚たちのざわめき。

 海の底から見たきらきらと光る水面。

 海藻の隙間からさしこむあたたかな太陽の光。

 そして、わたしの頭を優しく撫でる彼の、手の感触。

 剣を握る彼の手は、大きくてごつごつしていて傷だらけ。

 いくら言っても力加減の下手な彼は私の頭を力任せに撫でるのだ。

 懐かしさと切なさに胸がきゅうと締め付けられる。


「  」


 彼の名を呼ぼうとして、そうして、わたしはひとりぼっちの朝に目を覚ますのだ。

 ぼんやりと目を上にやれば、朽ち果てた遺跡の中で。壊れかけのステンドグラスから朝日が差し込んでいる。

 夜が明けたらしい。

 憎たらしいほどに美しい朝日が崩れかけたガラスの隙間から覗いている。

 耳鳴りがするほどに沈み込んだ静寂に、涙がこぼれ落ちた。

 あぁ幾度。幾度この絶望を味わってきたことだろう。

 眼下に目をやれば、彼の眠る棺がひっそりと佇んでいる。


 あなたがいなくなって、もうどれほどの時が経っただろう。

 あなたが剣を捧げた王も王国もとうになく。

 あなたが剣を向けた敵も遠い昔に戦乱の果て消えていった。

 昔は荘厳な佇まいで数多の人間が訪れたこの神殿も、長い時の中で朽ち果て、崩れ落ち、無残な骸を晒している。

 わたしは、わたしだけが今も取り残されたまま。

 ここにこうして独りで、彼の眠りを守っている。

 いつまで?

 

 水がゆらゆらと頬を揺らす。

 はっと目を覚ます。

 また、意識が飛んでいたらしい。最近はこんなふうに、ぽつりぽつりと時間が抜け落ちていく。

 あぁ、きっと、わたしもそう永くはないのだろう。

 とくりとくりと耳に自身の鼓動が響く。

 これが止まれば、わたしは二度と目覚めないだろう。

 だが、それでいい。

 現実はいつだって残酷だ。この世にもう彼がいないことをわたしに突きつける。

 ゆっくりとまぶたを閉じる。

 意識が再びゆっくりと闇の中に沈んでいく。

 またあの人の夢をみよう。

 あの人の隣で幾たびの戦を渡り歩き、殺し歩いた夢を。血と炎に炙られた、幸せな夢をみよう。

 もう二度と、残酷な現実(ゆめ)に目覚めぬように……

 

 



 

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