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2/14 なんてことない日

作者: Nixe

初めての試みなので面白味があまりないかと思いますが、これからよろしくお願いします。


なんてことない朝だった。

 昨日と比べ、少し早めに鳴る目覚まし時計を止め、体を起こした。いつもならギリギリまで寝ているのだが、今日は週末という事もあり体が軽い。若いというのは素晴らしいな。

 朝にしては少々重い朝食を済ませ家を出る。いつもなら早歩きの道をのんびりと歩く。普段と雰囲気の違う道を歩いていると心が弾む。浮ついた気持ちを抑えようとするが、結局早歩きになっていることに僕は気付いていなかった。

 

とうとう学校へ着いてしまった。

想像よりも早く着いたことに、少し悲観する。この時間はあまり人が居ないのだなと感激していると、昇降口にたどり着いた。

昇降口にいるのなら下駄箱を開けるのは必然だ。そっと後ろに人が居ないのを確認し錆び付いたドアをおもむろに開く。錆びた金属の臭いに顔を顰め、そそくさと靴を履き替えた。


一一一一一


 一日に何度も聞いた鐘が鳴り響き、皆がぞろぞろと教室を出て帰路につく。僕はいつも通りだった日常に肩を落とす。

 すると、背後から聞き馴染みのある声で名前を叫ばれ、肩をびくつかせた。

「それ辞めろって言ったばかりだろ」

とそっけなく言い放つ。

「だって、普通に呼んでも無視するじゃんか」

あっけなく反論された。


 こいつは小学生の頃からの幼馴染だ。

まさか高校まで同じになるとは思わなかったが。


「そうだ、この前の漫画まだ途中だったから、帰りに読みに行きたい!」

「無理」

「なんでよケチ」

「ケチじゃない。今日は部活のミーティングがあるし。そもそも期末試験が近いだろ」

「勉強なんていつでもできるじゃん」

こいつはどうせ試験当日まで勉強しないのだろう

『勉強しないのなら、いつでも遊べるだろ』

と思ったが口には出さないようにした。

「そうだ、部活に行く前に甘いものでもどう?」

普段ならば魅力的な提案なのだが...

「いやぁ、今朝チョコ食べ過ぎちゃったから、今はいいかな」

朝食後に母親から貰ったチョコレートを食べた僕には、少々重たかった。


するとこいつは引き攣った顔で「え?」と言い1歩下がる


この歳になって親からチョコを貰ってる僕がそんなにおかしいか。少し腹が立った。

「じゃあ、もう行くから」

「ちょ、ちょっと待って!」



「終わるまで待ってるから!」


いくらなんでも真冬にそれは、待たせる側は気が気ではないだろう。

「遅くなるかもしれないんだから、先に帰ってろよ」

そう言い残し、僕は走って部室へと向かった。


一一一


部室に来るなり他の部員の声が聞こえてきた。

「お前らチョコいくつ貰ったのよ」

そうだ。現実を見たくないがあまり、考えないようにしていたが今日はバレンタインだった。


今日は朝から、ロッカーや机の中を何度も覗いた。しかし女友達のいない自分には期待するだけ無駄だという事に気付き、目を潤わせた。


部屋の中では

「今年は2つ貰ったぞ、両方義理だけどな」

「俺は1つ、彼女から本命」

と、自慢話のような掛け合いが行われていた。


 母親から貰ったチョコレートを嬉々として食べていた自分への当て付けか。そう思いもしたが、ふと些細な事に嫉妬をする自分は、極めて惨めな存在なのではないかと感じ、この感情は抑え込むことにした。

同時にアイツに普段優しく接していれば、義理の1つでも貰えたのかと思い少々の後悔をした。


 皆が集まり、満を持して開始されたミーティングは思いのほか早く終わった。

後半などほとんど雑談だったようなものだ。

話も終わったのなら、これ以上留まる理由もないし足早に校舎を出ることにする。


確か今夜は冷えると言われたな、と今朝の母に感謝しつつマフラーを巻く。すると首元を何かに守られている気がして、ほんの少しだけ自分が強くなった感じがする。まぁ、気の所為だろうが。


 完全防備になった僕は、靴を履き帰路に着く。しかし、校門に差し掛かった時、そこには思いもよらない人物がいた。唖然とした。


「どうしてお前。帰ってなかったのか?」

「待ってるって言ったじゃん」

確かに言ってはいたが、さすがに寒さに耐えられずとっくに帰っているものだと思っていた。

「風邪引いても知らないからな」

「大丈夫だよ、私風邪引いたことないし!」

それはツッコんだほうがいいのだろうか。

「ほら、帰ろ!」

先導する彼女は、僕と比べるとかなりの薄着である。人間生まれながらにして備え持っている寒さへの耐性は、こんなにも差があるのかと衝撃を受ける。

そして、この後のこいつの突拍子もない発言に重ねて衝撃を受ける。

「ねぇ、公園で遊んで帰ろうよ!」

「急にどうした?!」

「だって、もう家で遊ぶ時間もないし、昔みたいに公園で遊びたいなって」

だが日没まであと1時間も残っていない

「早く帰らないと暗くなっちゃうぞ」

「だーいじょうぶ!すぐ終わるから」

なにを終わらせるのか全くもってわからないが

「本当に少しだけだからな」


一一一


 そうして僕たちは、学校からほど近い公園に来た。幼い頃、僕らが常連だった公園と比べると見劣りするが、ブランコにシーソー、砂場も付いている。滑り台なんて2つだ。

 これなら思う存分遊べそうだ。


「思ったより広いね!」

そういう彼女の目は輝いているように見えた。


想像よりも好条件な公園で、気分の上がった僕がどの遊具から行こうかと悩んでいると。


「ブランコ!」

と、まるで幼稚園児のように駆け寄る高校生がそこにはいた。すかさず僕ももう片方のブランコに座り、隣で凄まじい勢いで立ち漕ぎをする高校生を眺めた。すごい迫力だった。


 やがて満足したのか、少し勢いが落ちてきた。

そろそろ帰る準備するかと、立ち上がろうとした瞬間。隣のブランコからなにかが射出された。それはブランコから数メートル前方へ着陸すると、Yの字に両手を広げた。

 思わず僕は拍手を贈るが、すぐさま「危ないからやめなさい」と釘を刺した。

 夕陽に照らさられ、悪びれる様子もなく頭をさする彼女を横目に、鞄を取りにベンチに向かう。そこで鞄と鞄の間に挟まれた赤い紙袋を見つけた。

 得体の知れない"それ"に手を伸ばす。しかし、「待って!」と声が聞こえた刹那、先程までブランコにいたはずの人物が間に挟まり、触れることは叶わなかった。間を置かず"それ"の事について聞こうかと悩んだが、まずは息切れをおさめてもらうことにしよう。


一一一


 肩で息をする彼女は、全力疾走をしたからなのか、夕陽に照らされているからなのか、頬が赤く染まっていた。

やがて、落ち着いた彼女が口を開く。

「ねぇ、お腹空いてない?」

もうすぐ夜になるのだから、お腹が空いているか空いていないかで言えば空いていると言えるのだが。

 それよりも今はあの紙袋が気になっていた。

「お腹は空いてるけど、あの紙...「そうだよね!」」

言い切る前に遮られてしまった。

よほど人に知られたくない代物なのだろう。

「実は、おやつ持ってきたんだ

本当は、帰りに家でお茶でも飲みながら食べたかったんだけど...」

僕の家だがな


そう言いなんと、赤い紙袋"それ"からお菓子を取り出し始めた。

マフィン、カップケーキにドーナツ。よくもまぁ大量のお菓子を学校に持ち込んだものだ。

「そういえば、甘いものって今食べられないんだっけ...」

「さすがにもう食べられるけど、これからまた夜ご飯も食べないといけないからな」

気がつくと周囲の家から様々なら夕飯の香りが漂ってきている。

「それもそうだね...」

横を向いていて、よく見えないが少し悲しそうな表情に見えた。

「じゃあ帰るかぁ」

「うん」


太陽が隠れ始め、冷たい風が吹き始めた。


結構歩いたが、今までの道中で会話を交わすことは無かった。

どうにかこの空気を打破するために、なにか声をかけたいがこの場面にちょうど良い言葉を僕は生憎知らない。それならば、

「今日ってさ、バレンタインなんだってよ」

「そうなんだ...」

「でもさ、結構意気込んでたはずなのに、結局学校じゃ1つも貰えなくてさ、母さんからのが最初で最後だったんだよなぁ」

 この期に及んで自虐ネタとは、我ながら間抜けだな。


「今なんて...」

「だから、学校で1つも貰えなくて母さんからしか貰ってないって、恥ずかしい」

ふと彼女の口元が緩んだ。


「なんだぁ、朝のチョコレートってお母さんからのだったんだね!」


現実を再度突きつけられてなんだか癪だが、元気になれたのなら良かった。


「そうだ、今ならちゃんと渡せるね」

そう嬉しそうに言い紙袋の1番奥を漁り始めた。

まだあの中になにか入っているのか。

「あったあった」と言いつつ取りだしたものはリボンの付いた、可愛らしい柄の袋だ。


「はい、これ頑張って作ったんだから、大事に食べてね」

 手渡された袋の中からは、甘ったるい香りが漂っている。


「今までくれた事なんてなかったのに、どういう風の吹き回しだ?」

初めての贈り物に照れくさくなり、つい茶化してしまう。

「理由なんて聞かないでよ...」

と口を尖らせながらボソッとつぶやく

想定外の返答をもらい、時間が止まったような感覚になった。


「そうだ、明日あまったお菓子を食べながら勉強会しようよ!」

ぼうっとした頭に声が響き、時間を取り戻す。

「どうしたの?」

「あぁ、ごめん、勉強会だっけ?明日はちょうど暇だったから大丈夫だよ」

「じゃあ、決定ね!また明日連絡するから、起きててよ〜?」

ふぅ、と一息つき再び口を開く

「じゃあ、私こっちだから、また明日ね」


気付けばもうこんな所まで帰って来ていたのか

少し名残惜しいと思っている自分がいた。


「もう薄暗くなってきてるから、送っていくよ」

らしくない台詞を吐く自分に驚く。

冬だというのに顔が熱い。


「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて〜」

「今日は寒いから風邪を引かないように気をつけろよ」

そう言い、僕は必要のなくなったマフラーをとった。

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