ヤオヨロズの遣い
三話目になりました。
前回まで読みづらかった点を反省して
改行を多めに設定しております。
今回は少し長めになっております。
さちおばあちゃんが、よく話していたこと。
それは、中峰家は八百万の神を大切にしていること。
それに、中峰家は八百万の神に従って繁栄していること。
八百万の神とはヤオヨロズのことだったのか。
あやめは気付いたのであった。
しかし、この世界はなんなんだ?
なんとなくはわかったけど、ちゃんとは理解できない。
そして、なぜ私は今死後の世界に来てしまっているんだ?
あやめは混乱していた。
本来なら死後の世界に来てしまって、泣くべきところなのかもしれないが、頭にいろいろな考えが浮かんでしまって、涙の一滴も出なかった。
「まあ、そういう世界なんだ。」
シキネは話し終えた。
「ええと。混乱してます。」
シキネは困った様子だ。
「そうか。ただ私も混乱していてな。俗世の魂がまだ生きた状態で、こっちの世界にやってくることはほとんどないんだよ。あなたは、どうしてここに来たのか、わかるかい?」
そんなこと言われても、私にもわからない。
ただ、こちらの世界にくるまでに、母親の悲痛な声が聞こえたことはわかっている。
実は私は死んでいるんじゃないか。
冷静に考えたらそうだ。
死んでいないのに死後の世界にくることなんてないでしょうに。
シキネが、私が生きていると勘違いしているんじゃないか?
「シキネさん、私、実は死んでるんじゃないかと思うんです。私、ここにくる前に、母親が私に悲痛な叫びをあげたことを覚えているんです。私はその時に倒れて突然死したんだと思うんです。」
あやめは必死に訴えた。
自分が死んでしまったと思うと一気に涙が出るようになった。
そして、あやめは泣き崩れた。
「あ、いや、あなたは死んでない。だってあなた人の形を持ってる。死を経験した魂は浄化されているから、邪気を持っていない。つまり、ヤオヨロズの一部となる資格を待つ。だから、私のような形を持って帰ってくるはずなんだ。」
えーと。
私は死んでいないのか。
だけど、どうしてここにやってきたんだ。
ここから俗世へ戻る手立てはないのか。
あやめがさらに混乱した様子でいると、シキネは続けた。
「あなたは、特別な役割をヤオヨロズから与えられた魂なんだと思う。たまにここに人の形をした魂がやってくるのだが、その魂たちも大体何かしらの俗世での仕事を受け継ぎに来ている。」
俗世での仕事?
特別な役割?
もうどんどん訳がわからなくなったよ。
あやめは色々と聞いてみることにした。
「シキネさん、俗世での仕事って何ですか?」
「ああ、説明するのを失念していたな。先ほど、俗世は魂が修行する場所だと言っただろう。その修行を手伝うのが、特別な役割を与えられた魂なんだ。こういった魂をヤオヨロズの遣いと言うのだ。あなたもきっとヤオヨロズの遣いだと思うんだ。そうじゃなかったら、私にもわからない。」
「色々教えていただけてありがたいのですが、結局私は何をすれば俗世に戻れるのですか?」
「ヤオヨロズの遣いは、一般的にその魂がある程度俗世に慣れた後で、一度こちらに戻り、仕事を前任者から引き継ぐことになっている。きっとその仕事を引き継いだ後に戻れるはずだ。」
「えっと、前任者って…?」
「誰かはまだわからないけど、きっともうこちらの世界には来ているはずだ。ヤオヨロズからの命を受けてあなたを迎えにくるだろう。俗世での細かい仕事の内容もその時にはわかるだろう。」
なんか、話を聞いていたら素直に受け止められるようになった。
これも、ヤオヨロズの力なのだろうか。
「しかし、それにしても迎えが来ないな。何だろうか。」
シキネは慌てた様子であった。
なかなか迎えが来ないので、シキネとあやめは暇つぶしに話し始めた。
あやめはさちおばあちゃんの話をした。
するとシキネは、
「それは、さちおばあちゃんがきっとヤオヨロズの遣いなんだ。」
と言った。
さちおばあちゃんにもしかしてまた会える?!
あやめはちょっと嬉しくなった。
「ヤオヨロズの遣いは、次の遣いの候補に対して八百万の神についてある程度話をしておくことになっているんだ。そうでないと、こちらの世界に来た時に混乱してしまうからだ。」
なるほど。多少は混乱したけど、そのあとすんなり自分の宿命を受け入れられたのはそう言った理由なのか。
「それに中峰家は八百万の神に従って繁栄したと言っているのだろう?」
「はい。そうですよ。」
「なるほど。では、中峰家は、きっと代々ヤオヨロズの遣いをやっている三大明家のひとつなのであろう。」
「三大明家、それは何ですか。」
「また、歴史の話になるんだがな。ヤオヨロズに邪気が入ってしまった時に、邪気を帯びて出ていってしまった魂とは別に、自ら清らかなまま出ていった三つの魂があったんだ。それを継承しているのが三大明家なんだ。」
「じゃあ、私は特別な家に生まれたってことですか。」
「まあ、そうなるな。三大明家のメイは明るいと書くんだが、これはその清らかな魂が輝いていて、この世界から俗世のどこにその魂がいるのかわかることからこの字が使われたんだ。」
「ということは、私はこれからこの世界の魂から監視されてしまうってことですか?!」
「監視はしないよ。見えてはしまうがな。」
シキネは笑うように言った。
「ただ、この清らかな魂を持つ者は、こちらから見えてしまう代わりに、清らかであるからこちらの世界と俗世を行き来できるんだ。」
さちおばあちゃんは、死後の世界と俗世を行き来してたんだ。あやめは驚いた。
「それだから私はこちらに来られたのですか。」
「そういうわけではない。行き来できるのは、清らかな魂を持つ者だけだ。清らかな魂は俗世に三つしかない。つまり、三大明家の人間であっても、継承した一人の人間だけが行き来できるのだ。あなたは、おばあさんから呼び出されて、おばあさんの力でこちらへ来たのであろう。」
あやめは、一つ疑問に思った。
「三大明家以外の人間が遣いになることはあるんですか。」
「たくさんある。その人たちは、何度も修行を経験してほぼ清らかな魂となった人なんだ。ヤオヨロズ直々に、俗世が乱れているからこんな仕事をしてきて欲しいと命令するのだ。」
「三大明家以外の血統の人が、三大明家の清らかな魂を継承することはできないのですか。」
「できない。三大明家の初代が、ヤオヨロズを出ていった後俗世で独自の体を作ったんだ。これは、邪気を帯びている魂が自由に作った体とは違うんだ。清らかな魂を受け入れるには、この独自の体の遺伝子が入る必要がある。」
あやめの容姿は確かに他人とは違う。
背が異様に低くて、顔のパーツが大きい。
極め付けは、背中に入るアザである。
このアザは中峰家の直系の人全員が持っている。
今となって考えれば、アザの形は魂の形である。
シキネを見て、あやめはそう思った。
あやめは、妙に納得したのであった。
その後も、さちおばあちゃんの迎えは来ず、毎日シキネとこの世界のこと、俗世のことを話して楽しく過ごした。
あやめがこちらの世界に来てから、だいたい一ヶ月ぐらいたった頃のことだった。
あやめは、夜も朝もないこの世界で寝ることもなく、ただただシキネと一緒に話しながら、さちおばあちゃんがあやめのところに来るのを待っていた。
「さて、そろそろ四十九日か。心配だな。」
シキネは深刻そうな言い方をした。
「何か問題なんですか?」
「死を経験した魂は、ヤオヨロズの一部になるか、俗世へもう一度戻るかの選抜を私から受ける。この選抜を受けずに、四十九日を過ぎると自動的に抹消されてしまうんだ。それが一番怖い。魂が清らかな魂としてヤオヨロズの一部になることもなく、逸れ者の浄化できない魂として処分されてしまう。たとえ、それが三大明家の魂であっても、だ。」
私は、さちおばあちゃんにもう一度会いたい。
しかも、さちおばあちゃんの仕事を継承しないと、私は俗世には戻れない。
おばあちゃん、早く!
あやめが迷い込んだ世界の謎がだんだん解けてきたと思います。
あやめの感情の書き方を少し変えたので読みづらかったらごめんなさい。