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殺人  作者: つくし
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vsシュウ

 僕、イトウ、コバヤシ、ヒビノの四名は、スズキに召集され、第一会議室に集まっていた。

 新人組で話していると、少ししてからスズキがやってきた。


「遅れて申し訳ない」


 ヒビノは不機嫌そうな顔をしている。


「集まってもらったのは、今後の方針について伝えることがあるからだ」


 僕たちは姿勢を正す。


「上の人から言われたことだが、今回の策には私も納得できるものだった。少しの間、集団で各々の巡回地区を回ってもらうことになったの。新人たちには安全な場所を選んだつもりだけど、ユイ君の件があってから、安全という言葉の重みがなくなってきてね。まずは、ヒビノさんが担当しているシー地区から回ってもらいます。シー地区の殺人について、詳しくはヒビノさんからあると思うけど、軽くしておくね。名前はシュウ。力は弱いものの、数が多く、乱暴な殺人の出現が報告されているわ。ヒビノさんも実力者とは言え、三人を庇ってだと十分に力を発揮できない。自分の命は自分で守るように、ね。それでは、ヒビノさん、よろしくお願いします」

「ちょっと待った」


 ヒビノが右手を真っ直ぐ挙げる。


「あと十分で出ないといけないのだが、この策に拒否権は使えるのか?」

「私の判断ではなく、上からです。開始日や日程についてはお任せします。私たちの仕事を減らすためだと思ってお願いしたいんですよ」

「一人でさえ、白髪の量が増えたというのに、三人なんて」


 僕は肩を窄めた。小さくなる僕を見て、ヒビノはため息をつく。


「…五分後、署の前に集合。遅刻したやつは置いていく」


 ヒビノはジャケットを肩にかけ、部屋を出ていく。

 僕ら新人組は聞いた話を頭の中で整理させていたが、意識を取り戻したかのように急に動き出し、ヒビノの後を追った。慌てて出ていく僕たちを、スズキは微笑ましく見送った。

 ヒビノの車に新人組が乗り込み、シー地区へ向かった。


「先に説明を済ませておく。頭に叩き込んでおけ。向こうでは最低限の巡回しかしない。少ない時間であれば、他の仕事をこなすことも可能だからだ。シー地区をナワバリとしているのは、スズキからもあったが、(つどい)の殺人であるシュウだ。個の力はそれほどだが、集団で襲ってくるのが厄介だ。それに、いつ襲われるかもわからない。周囲には気をつけつつ、且つ、歩く足を止めるなよ」


 僕ら新人はヒビノの圧に押され気味だった。強い口調のヒビノにイトウとコバヤシは少々苦手意識を抱いていた。

 シー地区には三十分ほどで着いた。車から降りると、早々に四方八方から、複数の視線を感じる。それも、殺意のある緊張感を抱かせられる視線だ。それに、微かだが声がいくつも聞こえてきた。

 これがシー地区。シュウがナワバリとしている地区か。


「おびただしい数の視線は殺人のものですか?」

「質問含め、私語は慎め。巡回が終わってからまとめて聞く。すでに三分の遅れが出ているんだ。君たちには申し訳ないが、少々、虫の居所が悪い」


 僕たちは目線で話し合う。


(いつもああなのか?)

(機嫌が悪いとね。僕もああなったらそっとしているよ)

(空気悪くしてしまって申し訳ない)

(コバヤシのせいじゃないよ。昔は温厚だったって聞いたことあるけど、全く想像できないよな)

(それ、多分うそでは?)

「おい、歩くペース遅いぞ」


 僕たちは慌てて歩くスピードを上げる。


「今、俺たちに殺意を向けているのは、能力のないナナシだ。単独で襲ってくることはない。シュウによって、思考も行動も完全に支配されている。ナナシと異なる殺意の乗った視線を感じたら、それがシュウだ」


 周囲を見ながら進む僕たちに対し、ヒビノは真っ直ぐだけを見つめて歩いている。


「俺の役目はシュウを確保することではない。今のこの状態を保っておくこと。もし、秩序が乱れれば、ナナシが暴れ出すからな」


 ヒビノの注意を聞きながら歩いていると、ナナシとは異なった雰囲気を漂わせている存在が正面に現れた。


「なんでそんな堂々と出てきているんだ…?」


 想定外のシュウの出現に、ヒビノは驚いていた。


「話が変わりましテ、あなたにハ…あなたたちには消えてもらいまス」


 シュウの発言は僕にしか伝わっていなかった。


「目的はわからないが、お前に出てこられると困るんだよな」


 ヒビノはメガネをつまみ、シュウに照準を合わせると…シュウはいなくなっていた。


「い、今のはなんでしょうか!」

「質問は帰ってからと言ったろ!今日はいつもと様子が違う!今一度、気を引き締めろ!」


 前を歩くヒビノの首筋を、一粒の汗が流れるのが見えた。


「シュウが姿を現したということは、ナナシに指示を送っている可能性が高い。急に襲ってくることが…」


 背後に人の気配がしなくなり振り向くと、誰もいなくなっていた。


「どこに行った!大丈夫か!」


 柄にもなく慌てているヒビノが前を向くと、シー地区にいたはずなのに、暗闇に誘われていた。そこには、鏡が一つ。映っていたのは、幼き頃の自分。

 笑い声が聞こえ、もう一度振り向くと、顔の見えない少年、少女がこちらを見て、くすくすと笑っていた。


「なんだこれは」


 みんながいなくなったかと思えば、いきなり暗闇の空間に飛ばされた。


「何を見せられているんだ?」

「今日は君を捕まえる予定ではなかったけド、好都合ネ」


 少年少女が霧のようにぼやけると、シュウが現れた。


「他の人らを倒さずとモ、君を手土産にすれば作戦は成功ダ」


 シュウは少しずつ、こちらへ歩み寄る。

 僕はシュウの動きを警戒しつつ、距離を詰められないようにする。


「無駄なことヲ」


 下がっていくと、やがて背中が見えない壁に当たる。


「ここはこの世で最も狭ク、居場所もなイ、閉ざされた空間である教室だからナ」


 その一言で、ユイだけでなく、他の三人の空間も教室へと変貌を遂げた。角にいる自分に対し、三十人ほどの生徒が笑いかけてきている。

 教壇に立っている教師らしき人物は、右斜めを向いて、知らないふりをしていた。時折、ちらっとこちらを見るが、すぐに目を逸らす。


「こんな狂った能力を隠していたのか!」


 ヒビノは教室を調べ始めた。出られる場所はないか、外部との連絡手段はないか。しかし、誰かがいるような気配もなく、窓も扉もない。それに、携帯電話も繋がらない。

 生徒たちは無限に視線を送ってくる。それも殺意のあるものだ。

 ヒビノはメガネをつまみ、照準を合わせるも、変化は起きない。次にヒビノは教師の元へ走り出し、手をナイフのように鋭くさせ突き出したが、直前で体が動かなくなってしまった。背後からさらに強まった殺意を感じる。

 突き出した手を引っ込めようとすると、体は動くようになった。ヒビノは背中で感じた殺意の方へ飛び出し、再び手を突き出す。無惨にも、一人の生徒の首を切り落とした。

 笑っていた生徒はヒビノを指差し始めた。ちらっと見る程度だった教師は、指線が集まっているところを見つめると、教壇を跳ね除け、勢いよく飛び出した。

 ヒビノの今の小さな体では受け止めきれず、壁に打ち付けられた。小さい体が幸いに転じ、普段より細くなった腕を体の脇から抜き出し、教師に向かって手を突き出す。しかし、また止められてしまった。

 首を掴まれたままのヒビノはしばらくして、意識を失ってしまう。


「早く席に着きなよ」


 笑われながらも、イトウは自分のな名前が書かれた席に着いた。


「先生のあの表情、絶対待ってる時のだって。私なんか見ててもおもしろくないよ?授業受けようよ」


 生徒は笑いながら各々の席に着く。一人、イトウの席の前で立ち止まった。


「ここは私の席。机足りないなら他の教室から持ってこれば?」


 席につけない生徒に対し、他の生徒が笑い始めた。


「今なんかおもしろいことあった?」


 その一言で笑い声が段々と小さくなり、イトウの意識が消えかけ始めた。


「え、なに、くらくらする」


 やがてイトウの意識は完全に消えた。

 意識が戻るのに時間はかからなかった。目を覚ますと、現実の世界に戻っていた。

 体を起こすと、他三人はうなされながら眠っていた。

 先ほどからの多くの殺意はなくなっていたが、遠くの方、ちょうどシー地区と署のあるジュン地区の境から感じたことのない種類の殺意を感じた。


 一方、コバヤシはと言うと、


「何がおもしろいんですか!笑うのをやめなさい!席に着きなさい!先生もお困りでしょう!あなたたち一人残らず席に着いたら自分も着きますから!」


 この言葉を延々と生徒たちに告げているだけだった。

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