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殺人  作者: つくし
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四番目と六番目vsナナシ

「特に目立った能力のない殺人です」


 カトウは運転しながら伝える。


「じゃあ、ナナシだね」

「あれ、イトウとコバヤシは?」


 僕もサトウの発言で気づいた。


「先ほど、お腹を下したと。昼食の豚カツに運よく当たってしまったみたいです。体を起こすのすら困難だと連絡が入りました」


 タナカが答える。


「ユイ君は何食べたの?」

「ラーメンです」

「カレーは嫌い?」

「今日はラーメンの気分でした」


 車は速度を増し、現場へ向かう。

 到着すると、噴水の上に佇む殺人、ナナシの姿があった。


「思ったより静かだな」


 タナカとワタナベが準備運動をする。


「準備は車内で済ませるように教えなかったっけ?」

「初めて聞きましたけど」


 そう答えるワタナベは冷たい目をしていた。


「ユイ君、何か聞こえる?」

「いえ、何も」

「じゃあ、サツイだね」


 スズキの目から涙が流れていた。


「タナカ君、ワタナベ君、頼めるかな」

「そのつもりです」


 冷たい声でワタナベが答えた。

 能力のない殺人は身体能力がずば抜けた人間にすぎない。しかし、腕を振れば刃に、突き刺す拳は岩になるほど、細胞が強化されている。加えて反応速度も並はずれており、すでにこちらの存在に気づいて向かってきている。

 ナナシが腕を勢いよく振りかぶると、タナカとワタナベの背後以外は建物ごと切り刻まれていた。飛んでくる刃を受け止めた二人の腕は、赤みがかるも、数秒経てば治っていた。


「二人は何者なんですか?」

「飛躍した能力を持つ人間。すごい簡単に言えば、殺意を持たない殺人って感じかな。いわゆる才能人間さ。私は苦手だけどね」


 最後のセリフを聞いたサトウが不思議そうにスズキを見るも、笑って返されていた。

 ナナシは自分の攻撃を止められて驚いていた。その隙に、タナカとワタナベはナナシを左右から挟み撃つ。硬い皮膚により生み出された岩石のような拳をナナシの顔面にヒットさせる。しかし、殺人であるナナシには効いていないようだった。

 二人はナナシから距離を取る。


「少しずれましたかね」

「いや、完璧だった。今までのに比べて硬すぎる。何かおかしいぞ」

「このまま殴り続けます?」

「弱点を探りながら、やられないことだけ注意して動こう」


 タナカとワタナベの戦闘を見ていた僕の鼓膜が揺れた。振り返って見回す僕にスズキが気づく。


「声?」

「はい。後ろから聞こえてきたんですけど」


 立ち並ぶ建物を見ていると、影から筒状のものが引っ込むのが見えた。僕は何も言わず、その方へ走り出した。

 スズキはサトウにその場を任せると、ユイを追う。しかし、ユイが曲がったはずの角には誰もいなかった。


「お前のことハ、ミントン地クのやつから聞いていル。ワン、と言った方がいいカ」

「好きな方で」


 僕は建物内に連れ込まれた。目の前にいるのは、応援団長のような格好をしている殺人だった。穏やかな雰囲気で、襲いかかってこないことから、ワンと同じザイアクなのだと理解した。

 殺人と話すことに徐々にだが慣れてきている気がして、少しだけ嫌だった。


「なぜ僕を呼んだ?」

「何にも言わずに帰ったもんだかラ、答えを聞きたくてネ」

「ワンとは知り合いなのか?」

「あア、ザイアク同士の繋がりでナ。そしテ、ザイアクのボスを倒したいという同じ目的を持った者同士でもあル」

「ザイアクの…ボス?」

「それも他のことも含めテ、ユイ、お前の答えを聞きたイ。殺人を根絶やしにするために協力すル。だかラ、力を貸してほしイ。俺たちがいるべき世界はここじゃなイ」


 僕の答え…そんなの決まっている。情報と住民を天秤にかけたら、住民の方に傾くに決まっている。けれど、ハジメと住民をを天秤にかけたら…本当に答えは決まっているのか…?


「あの二人じャ、あのサツイには勝てなイ。準備ができしだイ、また会うことを約束してほしイ。そうすれバ、サツイの力を抑えてやル」

「力を抑えるって?」

「約束するのカ、しないのか答えロ」

「…わかった。約束する。万が一守らなかったら?」

「地獄が始まル」


 殺人の拘束が外れ、姿を消すのと同時に、スズキが迎えにきた。


「殺人はいた?」

「…見間違いでした」


 スズキさんにも聞くわけにはいかない。これは僕とハジメのためのものだ。第三者の意見を聞いても、流されるだけだ。期限は決まっていないが、決心は早いに越したことはない。

 スズキと共にナナシの現場に戻ると、すでに戦闘は終わっており、噴水に腰掛ける三人がいた。


「スズキさん、勝手にいなくならないでくださいよ」


 住民の避難誘導をしていたカトウが渋い顔をしていた。


「ごめんごめん、ナナシはどうだった?」

「急に弱くなったかと思えば、自ら意散(いさん)していきました」

「意散?」

「今の研修は本当に浅い部分しか習わないのか?」


 ワタナベがこちらへ歩いてくる。


「殺意と共に体が散っていくことだ。それくらいおぼえとけ」


 ワタナベは車内に乗り込んだ。


「ごめんね、ユイ君。ワタナベのやつ、怒りの感情をコントロールできなくてね。牛乳渡しておくから」

「さすが、次期課長候補は優しいね」

「聞いてないんですか?次の課長はカトウですよ」


 カトウは現場に来ていたヒビノに状況を伝えていた。視線を感じたカトウは照れながら会釈した。


「確かに、経験はあるし、歴も長いしね」

「自分とワタナベは誰かに従っている方が合っていますよ。運転するんで、先帰りましょう」


 三人も車に乗り、署へ戻る。

 イトウとコバヤシを心配していたが、早退したみたいで、その日はもう会えなかった。

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