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殺人  作者: つくし
36/37

なぜだか、ヒーローは遅れてやってくる

 私は巡回には出向かず、応援要請に備え、待機する日々。

 そのため、事務仕事をこなすことが最近の主な仕事だ。

 周囲からの視線と、上層部からの評価的に、もうすぐ私は課長になるだろうと思う。

 そうすればもっと世界が広がるし、活動の自由が利くようになる。そして、タカハシ君を……いや、私自身の成長につながる。

 あの事件から四年、サトウ君は目的を失ってしまったのか、ただ日々を過ごしているだけに見える。

 人は時間が経てば、容姿や思想、目的、何もかもに変化が生じる。

 私は変化が少ないから、少しだけ羨ましく感じる。

 それでも、サトウ君との距離には変化があり、雀の涙ほどかもしれないが、縮まっている……と思う。


「……?」


 信号を送られたかのように、私の体が反応した。ゾワッと、悪寒がする。

 七月も中頃に差し掛かっているため、夏風邪でもひいたのだろうか……いいや、違う。これは、


「殺意だ」

「カトウさん!?」


 私の机の上に資料を置きながら、ボソッと伝えてきた。


「あ、殺意です……だな」


 何が起きたのか、上の人の都合なのかわからないが、位だけを見れば、私の方がカトウさんよりも上にいる。

 だから、敬語で言い直したのだろう。かなりやりづらさを感じる日々だ。


「やめてくださいよ。私たちしかいませんし、いつも通りにしてください」


 カトウさんは咳を一つしてから、話し始めた。


「スズキも感じただろうが、そこらの殺人とは少し違う殺意を肌で感じた。ちょっと見てくるわ」

「わ、わかりました。でも、気をつけてくださいね。おかしな通報があったばかりなんで」

「まさかお前に心配される日が来るとはな」


 鼻が高いな、と言いながら部屋を出て行った。


(お願イ。助けに向かって欲しイ)


 私はすぐに周囲を確認した。


「誰か……いるの?」


 周囲には人影はなく、声をかけても返事もこない。

 じゃあ、一体誰が……?

 私は空になった缶コーヒーを片手に、廊下へ出た。


「ん?」


 気のせいだろうか。誰かに手招きされたような。

 気になった私は、手招きされた方へ向かった。その途中で缶を捨てて。


「研究室……?」


 ラボじゃ。

 ホボさんの訂正が脳内再生された。

 私は導かれるままに進むと、ラボに身を置かれていた。そして、顔を上げると、タカハシ君が入ったガラスケースが。


「どうしてここへ……?」


 気づくと、私の手が勝手にタカハシ君の顔の前まで上げられていた。

 なんだか変な気分だった。私の意志では動いていないのに。

 私はゆっくりと、ガラスケースに触った。


(ヨ、よかっタ……)

「へ?」


 突然聞こえた声に、思わずマヌケな声を出してしまった。


「やっぱり、誰かいるの?」


 周囲を探すため、手を離そうとした時、


(マ、まっテ!)


 また、声が聞こえた。


「もしかして、タカハシ君?」


 記憶にあるタカハシ君の声よりも、だいぶ若く聞こえたけど。


(詳しい説明してる暇ないけド、それだけは違ウ)

「そ、そうなのね」


 タカハシ君が目覚めたのかと思って、少し期待してしまった。

 声の主から殺意とは違った、何か、意志を感じる。

 私は真剣な声色に、話を聞かざるを得ない気にさせられた。


(君の友達ガ、危ない状況なんダ。助けに向かってほしイ)

「友達?」

(髪をボサっとさせて、何年経ってもスーツが似合わなイ……)


 もう、一人しかいない。


「わかった。行ってくる」


 話の飲み込みがあまりにも早かったからなのか、声の主は一拍空けてから、また声を出した。


(対策は聞かなくて大丈夫なノ?)

「大丈夫!そんなの、私が一番知ってるんだから!」


 私は言い終え、手を離す。そして、急いでラボを出た。

 じゃあ、さっきの殺意は……

 よからぬ妄想を振り払いながら、車に乗った。


「かからないかぁ」


 サトウ君、カトウさん、タナカ君、ワタナベ君に電話をかけたものの、誰一人として繋がらない。

 ジュンクン地区に進むにつれ、悪寒が強くなっていく。久々に嫌なものを思い出させられそうだ。

 車のスピードを上げたタイミングで、折り返しの電話がかかってきた。


「はぁ、すいません、出られなくて、はぁ」


 息を切らしたタナカ君からだった。意識しないと聞き取れないほどに、声が弱々しい。


「だ、大丈夫!?」

「なんとか、自分は。今、カトウさんが抑えてくれていますが、先輩が、サトウさんが」

「もしもし、もしもし!」


 電話は突然切れた。

 もう一段階スピードを上げ、不安の波に飲まれていく。


 ジュンクン地区に入ってから、人の姿は無く、静けさに包まれていた。

 車を降りて、小走りで周囲を探していると、上から車が降ってきた。


「あぶな!」


 続いて、人が降ってきた。


「タナカ君!?」


 見たことない傷の量だった。


「ちょっと、もう、限界、はぁ、かもしれません、あとは……」


 言い切ることなく、タナカ君は目をつむった。


「もしもし。はい、はい、なんとか。私がやります」


 ヒビノさんに応援要請の電話をかけた。

 重傷者を放置して現場へ向かうわけにはいかない。


「スズキさん!」


 背後からかわいらしい声が聞こえてきた。


「アオキさん、どうしてここに?」


 署内にて、主に事務を業務としているアオキさんが、来るような場所ではない。


「話は後です!タナカさんは私に任せて、サトウさんの元へ!」


 まさか、接点の少ないアオキさんにこの場を助けてもらうとは。


「わかった!助かるよ!」


 しかし、何故アオキさんがこのことを知っているのか、という疑問は一旦捨てて、サトウ君を探しに走り出す。


「お前は来るな!」


 走っていると、カトウさんの声が聞こえてきた。


「どうしてですか!」


 姿を捉えてはいないが、私は探しながら尋ねた。


「俺ですら、もう二回殺されてる。タナカとワタナベがいなかったらもっと多いだろう。サトウはとにかく暴れさせることが重要だ。四年前のようにな」


 ようやくカトウさんとサトウ君を見つけられた。

 二人より少し離れて、ワタナベ君がしゃがみ込んでいる。

 サトウ君は、一旦カトウさんに全部任せ、私はワタナベ君の元へ向かった。


「な、なんなんですか、あれ」


 血を流しながら、ワタナベ君が口を開く。


「サトウ君……だよ」

「どっからどう見ても殺人だろ!」


 私の言葉に被せて怒鳴る。


「知ってたように話してたし、警察は殺人擁護団体かなんかなのか!?」

「それは違うよ!」


 私はきっぱり否定する。


「ワタナベ君は、今のサトウ君が、暴れたくて暴れているように見える?」


 ワタナベ君は少し間を空けてから言った。


「……そりゃ、そうでしょ」


 その通りだ。過去を知らず、今のサトウ君だけを見たら、誰だってそう言うはずだ。

 過去を知ってる私たちからしたら、そんな答えは絶対に出ない。

 少しだけ、嫌な気持ち。

 私はサトウ君の顔を見つめた。


「なんで、あんたが悲しそうな顔して……」


 私はそう言い、怪我を負ったワタナベ君を抱きかかえた。


「え?」


 戸惑うワタナベ君をよそに、私はアオキさんの元へ向かう。


「カトウさん!もう少し、耐えていてください!」


 何も言って来なかったが、背中で頷いてくれたと勝手に思うことにした。


「俺、一人で走れますよ」

「いいの。今は休むことだけ考えて」


 ワタナベ君はムスッとさせた。


「それと、俺、警察やめます」


 私は冷静に言葉を選ぶ。


「落ち着いたら、また、話聞かせて」


 はぐらかされたと思ったのか、それからワタナベ君が口を開くことはなかった。


「アオキさん、もう一人、追加するね」


 アオキさんは手際よく応急処置を済ませ、すでにタナカ君は眠っていた。


「それから、ヒビノさんが来たら、私の指示で能力を使用するよう伝えておいて」

「わかりました」


 そう言って、サトウ君の元へ再び向かう。


 着くと、カトウさんが倒れていた。


「カトウさん!」


 叫ぶと、力の入っていない腕を少し上げ、指で四という数字を示してきた。


「私の番です」


 私はカトウさんを庇うように立った。

 倒れたカトウさんは口をパクパクとさせて、何かを伝えようとしていた。けれど、私は無視して、サトウ君の元へ向かった。


「なんで、あんたが悲しそうな顔してんのよ!」


 対峙したサトウ君は、カラメルを出すのをやめ、私を見つめてきた。


「もう、ここで住む人がいなくなっちゃったじゃん!ここでしか採れない野菜、ここでしか見られない景色、ここでしか生きられない生物を奪っておいて、あんたは悲しむに値しない!」


 サトウ君は少しでも殺意を出そうとしているのか、私を排除しようとしているのか、何十体と分身を作り始める。


「私はあなたを救うためにも生きてきたんだ!」

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