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殺人  作者: つくし
32/37

協定1

「俺は…どうなったんだ?」


 殺人との戦闘中、スズキを庇いに飛び出して、腕と脚を切られて、胴体だけに…


「ウプッ…」


 あの事件が脳裏をよぎって、吐きそうになるのを、右手で抑えた。

 ん?右手?腕がある?

 切られたはずの腕も脚もあって、俺は立っていられた。


「な、なんだこれは…」


 安心する暇もなく、腕がドロドロと溶け出した。

 それと同時に、力が入らなくなる。

 なんとか垂れていかないように、支えようとしたいが、肩より先を動かすことができない。

 腕だけに意識を向けていたため、もう一つのことに気づかずにいた。


「視線が…低い…」


 気づいた頃には、もう膝が見えないほどだった。


「どうなっちまったんだ、俺の体は。どうなっちまうんだ…」


 顔を抑えることすらできない俺に、やつは話しかけてきた。


「消えたくないだろウ?」

「そりゃあ…」


 自然と返答してしまったが、一人のはずなのに、姿も見えないのに、声が聞こえることに異変を感じた。


「誰だ!」


 俺は慌てて叫んだ。


「まダ、名はなイ」

「じゃあ、何者なんだ!」

「まダ、何者でもなイ」

「じゃあ、なんで俺の中に棲んでるんだよ…」


 俺は知っていた。本当は知っていた。けれど、信じたくなかった。

 俺の中に植えられた意志が、殺意に向かって枝を伸ばしていることを。


「俺たちの敵勢力の排除のたメ、情報を集める必要があル。だかラ、潜伏させてもらっていル。こちらとしてモ、来る時ニ、万全な状態で臨みたいからナ」

「一つ訊きたい」


 消えゆく腕と脚に焦りを感じつつも、冷静に言葉を続ける。


「俺が、俺自身を殺せば、お前はどうなるんだ?」

「俺も消えル。だかラ、俺から一ツ、協定を持ちかけたイ」


 協定…。

 そもそも、こんなやつに耳を傾けてもいいのか?傾ける必要すらないんじゃないか?

 …それでも、こんな状態の俺じゃ、話を聞くことしかできない…無力だ…


「目覚めるまでのあいダ、お前に力を貸ス。友人を救うのにモ、殺人を排除するのにモ、使ってくれて構わなイ」


 友人を救う…

 そうだ、俺はタカハシを救わないと、タカハシの声を聞かないと、タカハシに謝らないと…

 そのためなら、少し力を借りるくらい…


「…お前は、殺人の味方なんじゃないのか?」


 俺はそこが引っかかり、やつに訊く。


「殺意に身を任せているような殺人に用はなイ。好きに減らしてもらって構わなイ。どうダ?悪くない話だとは思うガ」


 何か、裏があるようにも聞こえる。

 それでも、俺はタカハシのために力を借りて、そうしたらスズキも救えるし、何より怠惰で無力な自分を捨てられる。

 今が、変われるチャンスだ。

 こいつが目覚めるまでに時間はあるはず。それまでに、何かしらの手を打てば問題ないはずだ。

 こいつは俺を利用しようとしているみたいだが、俺が利用してやる。

 こいつは俺の中に棲むだけの殺意にしかすぎないのだから。


「その協定、結んでやる。だから、俺の中に棲む代わり、家賃として、力をもらうぞ」


 やつがふふっと笑うと、いつの間にか腕と脚が元に戻っていた。

 俺はこれが自分のものであると、全身を動かして確認する。


「これがお前の中の覚悟から生まれた能力ダ。カラメルで傷ついた身体を修復できたリ、分身を作ったりもできル。そこに俺の殺意を合わせれバ、かけられているはずのリミットを解除することができル。要するに、現存する生物の中デ、お前が負けることはなイ。存分に暴れてきナ」


 そう言われながら、俺は体を溶かしたり、固めたりと、色々試していた。


「さァ、交代ダ」


 自分の体を試していると、気づけば甘い香りに包まれていた。加えて、ドロドロとした液状のものや、宝石のように輝く固形のものが辺り一面に散らばっていた。


「よく…帰ってこれたな…」


 見上げると、俺の頭を抑えているカトウがいた。

 その手を下ろし、立ち上がった。


「だ、大丈夫ですか…!?」


 カトウは体中にドロドロとしたものを付着させられており、息も荒くしていた。


「俺のことはいい…動けるんなら…スズキを…頼む」


 そうだ、スズキは!?

 意識が消える寸前、俺はスズキを庇って、それから…それから、俺はどうなってたんだ?


「大丈夫か!スズキ!スズキ!」


 すぐ横に、全身をカラメルに包まれたスズキが倒れていた。

 俺はスズキの体に触れ、カラメルを吸い取った。


「サトウ…君…?」


 なんとか、スズキの意識はあった。

 よかった。みんな無事だ。

 ホッとすると、辺りのカラメルは、俺の元へ戻ってきた。


 ***


 カトウさんは病院へ、俺とスズキは署の休憩室にいた。


「何が、あったんだ?」


 スズキは手に持った缶コーヒーを、必要以上に触っている。


「聞きたくないかもしれないけど、大丈夫?」

「聞かないことには、知らないことには、行動すら起こせないからな」


 スズキは缶を開けて、喉を潤してから教えてくれた。


「私を庇ってくれた後、胴体だけになったサトウ君から、ドロドロとしたものが出てきたの」


 俺の能力か。


「それから、殺人を掴んで、吸収し出したの。植物が養分を吸い上げるみたいに。助かったと思ったら、なぜか標的を私に向けてきて、吸収しようとしてきたところを、カトウさんに助けてもらった。…こんな感じ」

「…と、言うことは、俺がカトウさんを…あんな目に…?」


 スズキはコーヒーを飲みながら頷いた。


「…そっか。謝りに行かないとな」


 スズキはコン、と缶を置いた。


「違うよ。カトウさんは謝られたくないと思う」


 俺は俯いた顔を上げて、スズキを見つめた。


「だって、こうなることも想定内だったと思うし、謝りに行けば、それを否定しているようなものみたいだし。命を大事にしているカトウさんが、身を挺して守ってくれたわけだし。多分、謝るんじゃなくて、これからどうするか考える方が大事だと思う」


 その通りだ、その通りなのだが。

 俺たちは過去よりも、未来を見なくちゃいけないのだが、過去を無視して進んでいいわけじゃない。

 この精算は、行動で示さなくちゃ。


「…俺はどうやって、二人を追いやったんだ?」


 過去を乗り越え、未来へ進むには、聞かなくてはいけないことだ。


「体をドロドロにして、甘い香りもしてたかな。瓦礫を持ち上げて投げつけたり、カトウさんを持って、壁に打ち付けたり。その途中で、私も巻き込まれたんだけどね」

「…すまなかった…!」


 一番聞きたくなかった。

 けど、聞かなくちゃ、確かめなくちゃいけなかった。

 敵が明確だったにも関わらず、味方に手を出してしまった。あってはならないことだ。

 たとえ、あの時、体を乗っ取られていたとしても、だ。


「おう、お前さんら、ちょうどいいところに」


 ホボが休憩室へやってきた。


「ちょっと来てくれ」


 俺たちはホボに連れられ、ラボへ向かった。

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