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殺人  作者: つくし
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芽生え

 私たちは通報のあった、トン地区へ向かった。

 トン地区は、ジュン地区の北東に位置している。


「一体の殺人が暴れ回っている。その後悔が本物なら、なんとかしてみせろ」


 車を降りて、ドアを閉めながら、カトウが言った。


「…はい」


 私はどうすればいいか、まだわかっていない。

 あんな化物と正面向いて、やりあえる自信も、覚悟もない。だから、私は、そう装うしかなかった。

 私とは対照的に、サトウは普段からは想像できないほどの、落ち着きを見せていた。


 ドドドドド!!!


 ものすごい勢いで、右から左へと、駆け抜ける殺人がいた。


「お前たちの相手だ」


 あまりの勢いに驚いてしまい、私は後ろへ一歩出してしまった。

 そんな私とは逆に、サトウは前進していた。

 どうすれば、私もそうなれるの…


「スズキ、やるしかないよ。腹くくるしかないよ。俺たちがやるんだ」


 そうか。いいんだ。私は私のために、自分を愛さなくていい。

 サトウ君を好きな私を愛せばいい。

 一人じゃないから。

 今、一人でいるタカハシ君に比べたら、よっぽど恵まれてる。

 私は少し遅れて、一歩を踏み出した。


「化物に常識は通じない。倒そうと思わない方がいいかもな」

「そうね。サトウ君は、その、何か対抗できるものあるの?」

「ない。でも、ないからって、退くわけにはいかない。申し訳ないが、スズキに頼ることになるかもしれない」

「大丈夫。もう、大丈夫になったから」


 走り続けていた殺人は、私たちに気づいて、立ち止まった。

 そして、じっとこちらを見つめてきた。

 とてつもない殺意。でも、あの時のと比べたら、大したことなく感じてしまう。


「とりあえず、出方をうかがおう。スズキは殺人と対峙したことあるんだろ?」

「あるけど…あれは少し事実と異なってるというか…サトウ君こそ、あるんでしょ?」

「いや、あれは嘘だ。そう見えるように、殺人に仕向けられたんだ。よくわからないことも起きるもんだ」

「え、ちょっと待って、ということは…」

「ああ、ちょっとずつ現実が見えてきちまったよ」

「二人とも殺人に勝てたことなんてないじゃん!」


 その声を引き金に、殺人が向かってきた。

 目にも留まらぬ速さで。

 なんとか私は、体の柔軟さを活かして避けられたが、サトウは腕を切られていた。


「サトウ君!?」

「俺のことは気にすんな!相手だけ見てろ!」


 私なんかを気にすることなく、殺人は弱ったサトウを標的にし、たたみかける。


「やらせるか!」


 私の足は軽く、勝手に動いていた。

 殺人がサトウのもう片方の腕を切ろうとした時、私は殺人の腕を掴んで、体を反転し、投げ飛ばした。

 力がなかったため、ダメージを負わせることはできなかった。


「わりぃ、助かった」

「…」


 私はサトウ君を見ない。

 サトウ君は、私が守るんだ。

 今度は、私が、みんなを守る番だ。

 たとえ、目の前の殺人を倒せなくても、倒されなければ、負けない。

 再び突っ込んできた殺人に対し、私は同じように腕を掴もうとした。したのだが、すでに読まれていた。

 殺人は私の両肘を強く打ち、腕を機能停止にさせられた。


「まだだ…!」


 腕が使えないのならば脚を、と思った矢先、腕を切られそうになっていた。

 私は咄嗟に上体を揺らし、なんとか致命傷を負わずに済んだ。


「あっぶね」


 それから、脚を首に巻き付かせて、体を捻らせようとした。

 けれど、殺人の固すぎる皮膚には、全く効いていなかった。

 殺人は私の顔面を狙って、切りつけてこようとした。

 直前で、私は脚を解き、なんとか避けることができた。

 しかし、殺人は殺意に身を任せて、攻撃をやめなかった。


「…脚が…!」


 私が着地と同時につまずいてしまったところを、たたみかけてきた。

 腕を使えず、すぐに動くことができない私は、切り刻まれるしかないと思って、目をつむった。


「体反らせ!」


 声が聞こえた。

 耳が一番喜ぶ声。

 毎日聞いても、飽きない声。

 それどころか、どんどん好きになっていく。

 その声で安心した私は、言葉通り、体を反らした。

 ゆっくり目を開けると、殺人に飛びかかるサトウがいた。

 安心していた私の表情は、一瞬にして、変わり果てた。

 サトウの残っていた腕、二本の脚が、気づいた時には切られていた。


「サ、サ、サ…」


 私は、タカハシ君のお姉さんの件と重ねてしまい、声が出なくなってしまった。


「お前が消えたラ、俺の棲家がなくなル」


 誰の声…?

 私でも、サトウ君でも、カトウさんでもない。

 知らない声だけど、なぜか、覚えているような気がする。

 誰だっけ。

 宙を舞っていたサトウの胴体から、飴色で液状のものが現れ、それが腕と脚を形成し始めた。


「だ、大丈夫!?」


 横に倒れたサトウに声をかけた。

 しかし、返答はなく、静かに立ち上がった。

 それから、サトウは腕を液化させ、殺人を拘束した。

 そして、何かを注ぎ込み始めた。

 しばらくして、注ぎ込まれたものに耐えられなくなったように、殺人は散り散りとなった。


「サトウ…君…?」


 弱々しい呼びかけに気づいたサトウが、こちらを見てきた。


「お前ガ、養分カ」


 サトウの口が動いているのに、サトウの声ではなかった。

 このままではまずい気がして、私はいつの間にか使えるようになっていた腕で立ち上がり、逃げ出そうとした。

 しかし、それはかなわず、掴まれてしまった。

 ドロドロしている液状のものに。

 サトウから伸びているものに。


「お前も一部となレ」


 今度は吸われているようだった。

 力が入らなくなるのを感じる。

 段々、意識が薄れていく中、目を完全に閉じ切る寸前で、カトウがやってきたのだけ、見えた。

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