一番目vsアイ
愛の殺人を目の前にして、俺はタカハシとの過去を思い返していた。
愛の殺人、アイの見た目は完全にタカハシそのものだった。
異なる点と言えば、俺の知っているタカハシのとは異なるサツイを、溢れんばかりに抱えているところだ。
タカハシを眠らせた時よりも、遥かに増えている。
眠っていたせいで解放できず、溜め込んでしまっていたのかもしれない。
俺がなんとかしなきゃ。
こいつな放っておくわけにはいかない。
俺はアイに向かって走り出した。
一方のアイは、突っ立ったままだった。
俺は無防備なアイに殴りかかった。
「いきなり動きやがって」
止まっていると思っていたアイが、俺の攻撃に対して、突然動き出し、簡単に止められてしまった。
それをきっかけとし、俺とアイは、取っ組み合った。
懐かしかった。
あの頃を、まだ、警察になりたての頃を思い出していた。
思い出しながら、ふと思った。
サツイの量に対して、力が弱い…?
ホボさんからアイについての話は聞いているが、一人で対抗できるような相手ではないと、何度も忠告を受けてきた。
それなのに、アイは俺の攻めに対し、防ぐことしかしてこない。
たまに、隙を見つけたかのように攻められそうになるが、なぜか直前で手を緩めてくる。
「…苦しい…のか?」
伸びた前髪からたまに見える瞳が、俺には苦しそうに見えた。
自分の意志とは異なった動きをさせられていることに対し、抵抗しているかのような。
アイは、タカハシによって、力を抑え込まれているんだ。
俺はアイへの攻撃を止め、両腕を掴んだ。
「なぁ、教えてくれ。今のお前はどっちなんだ?」
返答はなかった。
だけど、俺にはわかった。
優しいお前が、俺の質問に答えないわけがない。
今のお前は、もう、殺人に飲み込まれている。
だから俺は、苦しそうに抵抗するタカハシを、優しく抱いた。
「もう、我慢しなくていい。俺が全部受け止めてやるから。そのために、生きてきた。そのために、ここにいる。タカハシ、眠っていいんだぞ」
俺がそう言うと、アイは腕をぶらん、とさせ、俺の肩に顎を乗せてきた。
やっと落ち着いたか。そう思ってしまった。
殺人相手に、完全なる隙を生んでしまった。
タカハシに対して、愛を持っていたために。
俺の腹部は、一瞬にして消え去っていた。
遅れてやってきた痛みに気づいて、俺は慌てて距離を取った。
それから、砂糖で腹部を複製し、応急処置を行なった。
「…なるほど。これがサツイか。人間の中に殺意が眠っているのがザイアクであり、殺意の中に人間が眠っているのがサツイ。一体、誰がこんなことを…」
俺は完全に目を覚まされないように、再びアイに向かって飛び出した。
飛び出したと思っていたのだが、なぜか俺は倒れていた。
「自身を愛せないお前二、俺を抑えることなどできまイ」
右脚が、根元から消え去っていた。
急いで立ち上がって、今度は右脚を複製する。
「他人に気を配るあまリ、自身を見失イ、お前は罪を犯しタ」
次に一歩を踏み出そうとするも、踏み出したと思った左脚を消されてしまう。
再び、慌てて複製を始めた。
「何度立ち向かおうとしようと無駄ダ」
アイの言葉が聞こえないフリをしながら、どうにかしてアイの元に近づこうとする。
しかし、その場から少しも動くこともできず、何度試みても、その度に体の一部が消されてしまう。
そして、その度に体を複製する。
「身動きすら取れん奴の相手は不要ダ。僕はそこを通過して行った奴らを追ウ。そこで事の結末を見届けるんだナ」
俺は脚を踏み出すのをやめ、ただただ、アイが去っていくのを見ることしかできなかった。




