初勝利…?
「ここからがミンの本気。彼女が睡眠を始めてから、本心を現す。コソコソとしていたさっきまでと違って、読めない動きで詰めてくる。そして、かまいたちのように切り裂いてくる」
イトウはミンをじっと見つめたまま、説明してくれた。
「イトウは、もう大丈夫なのか?」
「うん、今はね。でも、いつ出てくるかはわからない」
「その時は、自分がついてますから」
コバヤシがイトウの隣に並んで言った。
「頼りにしてるよ、コバヤシ」
「僕も忘れてもらっちゃ困るね」
僕もイトウの隣に並ぶ。
ワンはまだ温存しておこう。
いざとなった時の最終手段として。
僕の選択は、まず、己の力で戦うことを決めた。
新たな一歩を踏み出したのなら、二歩目を踏み出さなくちゃ。
「さぁ、私の復讐、もとい、新人組の初陣と行きましょうか!」
イトウは腕を回しながら、そう言って、ミンに向かって走り出した。
僕とコバヤシもそれに続く。続いたのだが…
「あれ、いない?」
確かにそこにはミンがいて、僕ら三人とも見ていて、追い始めたはずなのに、砂埃を残して姿を消していた。
舞う砂埃を見つめていると、遅れていた音とともに、家が崩れ始める。
「な、なんだ!?」
「ミンが外へ逃げたのよ!」
「お、追いましょう!」
僕たちは外へ出たであろうミンを追った。
道路の真ん中に、目をつむりながら立っているミンを視界が捉えた。
「私がミンを縛れるよう、二人には注意を引いてほしい」
「わかった。とりあえず、いい感じに動いてみるよ」
「では、自分はユイさんをサポートするよう、攻撃を仕掛けます。」
「おう。来る時は掛け声よろしくな」
目をつむり、深呼吸をして、
「よしっ」
僕はミンに向かって走り出した。
今の頭の中には、ミンを追うことしかないため、とても動きやすい。
ただ、ミンも一筋縄ではいかないはずだ。
動く気配すら感じさせないミンの近くへ駆け寄るが、僕は攻撃を仕掛けず、イトウたちの方へ走り出した。
それと同時に、ミンは力を溜めているコバヤシの前に移動した。
「思った通りだ!」
スピードを上げ、移動したミンの頭を狙って、人間パンチを繰り出す。
コバヤシに向いていたミンの気が、一瞬、僕の方へ向いた。
「今だ!」
合図を送ると、コバヤシは右手に溜めていた力をミンの腹へ解き放った。
数にして五回。各指に力を溜めていたのだ。
ちゃんとダメージは入っているはずなのだが、ミンには効いていないように見えた。
ミンは何もなかったかのように、すぐさま攻撃に転じ、体を回転させ、僕とコバヤシを肘で突いてきた。
「いってぇ…」
僕とコバヤシはぶっ飛ばされてしまう。
僕は突かれる直前、危険を瞬時に察知して、脳内でワンを叩き起こした。
(使い方の荒いやつダ)
「使わないつもりだったけど、喰らっちゃいけないって、体が反応したんだ」
(…ミンとの戦闘カ?)
「わかるのか?」
(殺意の量で言えバ、サツイと変わらないからナ。一ド、眠ってからのやつはボスをも超えると聞いたことがあル)
「ボス…」
(それかラ、ユイに何の変化があったか知らないガ、俺を使える時間がかなり増えていル)
「どれくらいだ?」
(三十分は持ちそうダ)
「十分だな」
肘を突いた状態のままでいるミンへ、僕は飛び出した。
三十分、力を貸してくれるとは言え、早くに対処した方がいいに決まっている。
さっきまでとは違う!僕の脳と体は一段階、進化している!
「イトウ!」
「わかってる!」
イトウはミンを束縛し始めた。
腕には腕を、足には足を、巻き付くように縛り上げる。
「一思いにやっちゃって!」
休暇をもらった一週間、何もせず、ダラダラと過ごしていたわけないだろ。
僕は、日常を取り戻すために、警察になったんだ!
まずは右の拳をミンの顔に当てる。
「か、硬い…」
続いて、左の拳でミンの顎を下から掬い上げるように当てる。
「なんだ、こいつは…」
最後に、背中の拳で、脳天をかち割るように、叩き落としてやった。
確かに傷はついていたし、それなりのダメージを負わせたはずなのだが、ミンは立ったままだった。
「なんで、立ってられんの?」
イトウが目を丸くして言った。
「こいつ、もしかして…」
僕はミンの頬を往復でビンタする。
「ユイ、何してんの?」
「まぁ、見てて」
イトウは、少ししてから僕の行動を理解したようだった。
十回ほど往復させると、閉じていたのか、ミンの瞳が開いた。
「エ、エ、なんデ?いやダ、いやダーーーー」
ミンは突然、すごい速さで逃げ出した。
「あ、ま、待てよ!」
僕とイトウはミンを追おうとしたが、二、三歩、足を出してから、その先にいる人物に気づき、止まった。
「あーあ、トドメとられちゃったよ」
「やっぱ私、コバヤシが好きだ」
「え?」
どさくさに紛れて聞こえてきた言葉に驚きつつも、コバヤシの魂の込もった五指拳を見守っていた。
コバヤシの拳はミンの胸あたりをとらえると、ミンはその場に倒れ込んだ。
「手加減するのは、苦手です」
ミンを気絶させないように、コバヤシは力を加減していたようだ。
よく見ると、ミンの瞳は少しだけ開いていた。
イトウはミンに縛りついて、僕たちは輸送班へ連絡した。
「輸送班来たら帰るよね?」
僕はその問いに対し、首を横に振った。
「背中のこれ、見られちゃまずそうだし、戻るまでここで待ってるよ」
「それ、急に生えてきたからびっくりした。何なの?」
「じゃあ、イトウのことについて話し合う時に、僕のこれについても話すよ」
イトウは頑張って光を集めたような、笑顔をしていた。
「うん、じゃあ、また今度か!」




