七番目と八番目
「やりました…かね」
ヤクにまとわりついていたイトウも、ヤクから離れた勢いで地面に転がる。
「わからな…い」
イトウとコバヤシは体中を傷だらけにし、息を荒くさせている。
「これ以上、ゲホッ、やるのは、無理だけど」
顔を失ったヤクは、倒れることなく立ち続けていた。
「動くなんてこと…ないよね?」
イトウの一言がきっかけとなったのか、微かにだが、ヤクが動いたような。
「今、動きません…でした?」
「コバヤシ、動ける?」
「おとり…くらいなら」
「間違いなく、動いたよ。私も…おとりにしかなれないや」
「死んだふりしたら…見逃してく…くれませんかね」
「試す価値は…あるな」
イトウとコバヤシは静かに目をつむり、死んだふりをし始めた。
「ア…ダ…イキテ…ルナ…」
「ば、ばれてるような」
「心臓の鼓動が…騒がしいんですかね」
ヤクは腹に穴を開けられているし、顔面もないにもかかわらず、言葉を発している。さらには、ヤクの喉を固形物が通るのが見えた。
「若い芽ごとキ、摘めないようなラ、このさキ、生きていけなイ!」
ヤクは狂ったように突然走り出したかと思えば、周囲の建造物を次々に破壊し始める。一旦落ち着くと、再び破壊活動を始める。一通り破壊し終わると、地面を殴り始めた。
「おかしくなったのか?」
「様子がおかしいですね」
ある程度暴れ回り、今度は倒れているイトウとコバヤシを、目はないのだが、見つめているようだった。
先ほどまでの素早い動きではなく、ゆっくりと二人の元へ歩いて来る。
「来ますよ」
「コバヤシだけでも逃げて」
「いえ、結論の出ない話はやめましょう」
コバヤシはゆっくりと立ち上がり、ヤクを睨み付ける。
「まだ…やれますよ」
傷だらけな上に、疲労困憊の体で、コバヤシは再び力を溜め始めた。
「イトウさん、今のうちに…!」
イトウはコバヤシの善意と漢気を受け取り、重い足取りで車へ向かった。
この一発を外せば、二人もろともやられてしまう。無駄な死というやつだ。それはなんとも防がなくてはならない。まずは、当てることにだけ集中しろ。これは倒すためのものではない。時間を稼ぐためのものだ。
ヤクはコバヤシに向かって歩き続ける。
「くらって…くだ、さい!」
コバヤシが当てることにだけ意識していた鉄拳を繰り出すも、虚しくかわされてしまう。そして、目の前から姿を消した。
終わった………いや、まだだ!
姿を消したヤクは、イトウの目の前に瞬間移動していた。
「よ、け、て、くださ、いぃぃぃぃいい!!」
コバヤシは体を捻じ曲げ、イトウの元に移動したヤクに向かって拳を振るう。振るった拳は真空波となり、空気を伝って、ヤク目がけて飛んでいく。
声を聞いたイトウは、全身の力を抜いて、その場に倒れ込んだ。
ヤクはコバヤシが放った真空波により、体が宙に浮いた。ただ、それだけだった。最後の足掻きも虚しく、二人の意識は闇の中へ消えて行った。
「やっト、終わっタ」
ヤクは体を宙に浮かせられながら呟く。
「終わり?いやいや、宴はこれからさ!」
突然、地形が歪み出した。
「おらぁっ!」
ナカムラは、そこに落ちていた石を拾い、振りかぶって思いっきりヤクに投げつける。石は音を置き去りにし、ヤクの右腕を切断させた。
「いくよ、ナカムラ!」
ヤマモトは指揮をとるように、指を振ると、イトウとコバヤシは反動で体を浮かせられた。その勢いのまま、こちらへ飛んできた二人をナカムラが受け止める。
「二人をすぐに治療して!」
ナカムラは二人を抱えたまま、車へ戻り、応急処置を始める。
「これ以上ハ、まずイ」
ヤクは逃げ出すという選択肢を取ったが、ヤマモトの指揮の前では無駄だった。
「逃げ出そうなんて、僕の演奏は始まったばかりだよ!」
U字に歪んだ地面が、ヤクを挟むように閉じた。ヤクも必死の抵抗で、地面を無理やり押し返す。しかし、歪んだ地形という不安定な地盤ではうまく逃げることはできなかった。
「途中退場は御法度だぜ!」
ヤクが向かう先を、変形させた地面で作り出した壁で封じる。壁を避けながら逃げていたが、気づけば四方八方を壁に囲まれていた。おまけに蓋を閉じられてしまう。
ヤクは片腕で壁を壊して逃げ出そうとするも、ヤマモトの作り出す壁の早さが上回っていたため、逃げ出すことは不可能だ。
「僕の演奏が終わるまで、じっとしていてもらおうか」
少しすると、諦めたのか、ヤクは壁を壊すことをやめた。
「君たちの足掻きは決して無駄じゃなかった。優秀な人材は大歓迎さ!」




