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殺人  作者: つくし
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二番目vsワン

「ヒビノさんとイトウちゃん、コバヤシ君はシー地区をあらためて巡回してもらっている。だから、代わりに私が同伴するね」


 翌日、僕はスズキと共にワンが捕らえられている研究施設へ向かっている。


「ユイ君からワンと会いたいと言ってきたけど、私からもお願いするつもりだったの」

「協定のことで、ですよね?」


 スズキが頷く。


「結果として、こうして確保してしまったわけだから、心の内が気になってね。喜怒哀楽の感情はどれも示さなかった」


 まだみんなには言っていない。シュウとの戦いで僕の身に何があったのか。

 なぜ、ワンがシー地区に来たのか、一心同体(ゆいいつ)とは何なのか。協定の話もそうだが、全部含めて真実を知りたい。もし、味方なのだとしたら、その理由も気になる。


「眠れる森の美女に、不思議の国のアリス…」


 ボソボソと呪文詠唱のように呟くホボの頭にスズキは手を置いた。


「おう、待っておったぞ」


 研究施設の奥へ着くと、タカハシと同じようにシュウとワンが保管されていた。


「至って健康じゃ、だが…」

「シュウは哀しんでいますね」

「うむ。身体の健康はどうにかなるのじゃが、精神へのストレスはどうしようもできない」

「ホボさん、ワンを解放してください」


 僕の発言に、表情を変えずにいるスズキとは裏腹にホボは驚きと怒りを表に出していた。


「何を言っておる!こんなとこで解き放てば収拾が…」

「私からもお願いします。今日はその予定でここへ赴いたのです」


 深々と頭を下げるスズキ。僕も遅れて頭を下げたが、頭を上げる頃にはまだスズキは頭を下げていた。


「責任はとらんし、わしはここから出ていくからな。事が終わったら、また呼んでくれ」


 ホボは鍵をスズキに渡すと、階段で地上へ出て行った。


「じゃあ、開けるよ」


 スズキは鍵を差し込み、右へ回す。

 ガラスの戸が開くと、目をつむったままのワンが徐々に体温を戻していき、ゆっくりと目を開けた。ワンは眼球だけを動かし、睨むように僕を見つめた後、もう一度目をつむった。そして、背中の腕を使って、ガラスケースの中から飛び出してきた。


「どういう状況カ、教えてくレ」


 ワンはスズキを見ることなく、僕に近づき現状を聞いてきた。

 嫌な気配がしたのか、ワンの感情に変化があったのか、スズキが僕を庇うように立ってきた。


「俺の信用はさすがにゼロカ」

「スズキさん、僕は大丈夫です。ワンに敵意はありません」

()の情が見える」


 ワンとスズキは、電撃が走っていそうなほどに強い視線でお互いを探るように睨み合っている。


「ワンは怒っているのか?」

「当たり前だロ!」


 僕の問いに、ワンが答えながら大きく踏み込んできた。警戒していたスズキが素早くワンの膝を人差し指で突っついた。その瞬間、ワンは力が入らなくなったかのように、その場に倒れる。


「このおんナ…」

「一度、ワンと話し合わせてもらえませんか?」

「その一度でユイ君がまた病院送りにされてしまえば、もう人を守る立場に戻れなくなるが、それでもいいのか?」


 スズキの言葉は普段よりも強かったが、その通りだ。その通りなのだが、ワンが僕に対して怒っているのは、おそらく確保したことにでもなく、裏切ったように思われているわけでもなく、単にワンの言うことを素直に聞かなかったからだと思うけど。けれど、経験則と感情の汲み取りによって、動いているスズキさんにそれは伝わらないだろう。


「ここで暴れてもいいのカ?」

「ワン、言葉は通じないが、感情は伝わってきているよ」


 スズキは指をかっ開き、関節を少し曲げ、爪を立てた猫のような構えをとる。


「殺ろうか」


 ワンは背中の腕を伸ばし、スズキの指に触れられぬよう蛇のようにクネクネさせながら、スズキの足を狙う。スズキは軽い身のこなしでかわすと、ワンの腕を触り、ワンの腕は力を失って地に落ちた。


「それはおとりダ」


 ワンは腕を伸ばしたまま、スズキの上をとり、二本の腕で殴りかかる。ちょうど、ワンの拳がスズキに直撃する寸前で、体が空中にあるにも関わらず、スズキは体を反転させる。

 ワンの振り下ろしてきた腕の関節を、中指と薬指で触れた。腕の力を失ってしまったワンは、勢いを緩まされたまま、地面に落ちていく。立ち上がることはできるものの、ワンの腕は使い物にならなくなった。

 スズキがすかさず飛び出し、ワンの首元に親指を突きつける。


「上下関係は大事だからね、これからよろしく頼むよ、ワン」


 スズキの親指は触れていないのに、圧に負けたかのようにワンは尻もちをつかされた。


「ユイ君、ごめんね。ワンから敵意は感じられなかったけど、飼い主として、服従させておかないとね」


 初めてスズキの戦闘を見た僕は呆気に取られていた。理屈は何となく理解できるが、人間のできる所業には見えなかった。

 スズキはワンに手を差し出すが、ワンは使わずに立とうとして、またスズキに尻もちをつかされる。意地でも差し出した手を使わせたいスズキと使いたくないワンの不毛な争いが始まった。

 二人とも頑固だ。

結果はワンの腕をスズキが掴んで、無理やり立たせたので、引き分けと言ったところか。

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