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九話

あの後、お父様からセドリック様やアルベルトと話をする必要があると言われ、その場は一旦解散となった。お父様はセドリック様との結婚のことを認めるともおっしゃらなかったが、今までのようにすぐに否定もされなかった。

婚約者候補に不貞された私を支え続けてくれた優しい王子様、そんな彼をあの場にいた大臣たちは好意的に捉えてくれていた。お父様個人のお考えも大事だけれども、周囲の臣下たちの声をお父様は決して軽視されない。


流れは私たちを応援する方向に動いていると私は感じていた。



「こうして想いが通じあったのです。国王陛下のことは私が必ず説得してみせます。愛しい人、次は貴女の婚約者として側に立てるようにしてみせます」


そして何よりセドリック様はあの後私を見つめながらこうおっしゃってくれていた。彼は帝国でも後継者候補の筆頭に名が上がるほど優秀な人だ。きっとお父様を説得してくださると信じて、私はその日は眠りについた。



翌日、いつもより幸せな気持ちで目覚め、朝の身支度をしていた。どうやらアルベルトの不貞のことは知れ渡っているようで、侍女たちから心配の声をたくさんかけられた。


「レオノーラ殿下、お辛い心中お察しいたします」


「殿下を差し置いてその辺の娘と遊ぶだなんて、見る目がないにも程がありますわ」


「けれども彼が婚約者候補でなくなったおかげで殿下はセドリック皇子と結ばれそうなんですよね?」


「まぁ素敵。やっとお二人が結ばれるのですね。セドリック皇子こそレオノーラ殿下に相応しいお方ですわ」


「美男美女のお二人ですもの。並び立つだけでもう皆の憧れの的になりますわよ」


侍女たちのおしゃべりを悪くない気分で聞いていると、話が落ち着いたところで別の侍女が今日の予定を伝えに来た。興味のない会議、面倒くさい謁見、今日の予定も全てメアリーにさせようと思ったときに、私は昨日あの子を牢に入れたことを初めて思い出した。


代役をさせられそうか確認するため、私はシシーを側に招き、小声で彼女にメアリーたちのことを聞いた。


「メアリーは現在、地下牢にて拘束中です。陛下も関与していることですので、余程の理由がないと連れ出すのは難しいと思われます。ララは牢にはおりませんが、懲罰としてしばらく監視付きで洗濯メイドの仕事に就いております。彼女をこちらに呼ぶのも難しいかと思われます」


折角セドリック様との将来が決まろうかという日に、つまらない公務などしたくはなかった。そのため私はシシーを下がらせ、別の侍女を呼んでこう伝えた。


「昨日は色んなことがありすぎて、気持ちの整理がまだついていないの。今日の公務は延期してほしいとギルバードに伝えてきて」


ぐちぐちとお小言の煩いギルバードのことだから、こんな伝言を聞くときっと直接説教を言いに来るだろうと思っていた。けれど予想に反して彼は「かしこまりました。こちらで調整致します」という返事だけを寄越してきた。



面倒な公務から解放された私は、その日は最新のドレスのカタログを眺めたり、肌の手入れをして一日を過ごしていた。

夕方に差し掛かる頃、お父様からの使いがやって来てお父様の執務室に来るように伝えてきた。セドリック様のことはもちろん信じているけれど、不安と緊張を隠しきれないまま私はお父様の元を訪れた。


お父様の執務室にはお父様とセドリック様がいた。二人が座るソファセットに腰を下ろすと、やや疲れたような顔をしたお父様が私にこうおっしゃった。


「レオノーラ、アルベルトの件は確認が取れた。お前の希望通り、セドリック皇子との結婚を認めよう」


お父様は少し渋い顔をされていたけれども、私とセドリック様の結婚を認めてくださった!


「陛下、ありがとうございます。両国の友好のために尽くすことをお約束いたします」


私は両目に涙をためたまま、お父様にそう感謝を告げた。幸せに頬を染めた私にお父様はさらにこう言葉を続けた。


「お前も知っているだろうがセドリック皇子は近々帰国することになっている。彼はそのときにお前も共に連れていきたいと言っている。

本来なら王族の輿入れは、色々な準備をして行わなければならない。しかし今回はその時間がないため輿入れは簡素なものになるかもしれない。それでもお前は彼に付いていきたいか?」


続いたお父様の言葉に少し驚いていると、お父様の隣にいたセドリック様がこうおっしゃった。


「君に十分な準備をさせてあげられないのは申し訳ないのだけれど、私だけが帰国し、君と離ればなれになりたくないんだ。私のわがままだが、どうか一緒に来てもらえないだろうか?

もちろん君が我が国へ例え身一つでやってきても不自由のない生活ができるようにすることは約束するよ。君はただ私の側にいてくれるだけでいいんだ」


眩しいほどの笑顔でセドリック様にそう乞われ、断れるはずなどなかった。何より彼と離れたくないのは私も同じ気持ちだった。


「貴方のお側にいたい気持ちは私も同じです。どうぞラッセン帝国へ一緒に連れていってくださいませ」


私は満面の笑みでセドリック様にそう返事をした。



そこからは輿入れの準備に追われることとなった。ドレス、宝飾品、私が愛用する日用品、持っていくものの用意の他、民衆へこの結婚を知らせるパレードの準備も平行して行った。セドリック様は帰国日を少しずらしてくださったが、それでも毎日バタバタと色んな準備をした。

忙しい毎日だったけれど、セドリック皇子との幸せな結婚のためであれば辛いことなど何もなかった。私は幸せに満たされながら毎日を過ごしていた。


そうしてセドリック様との結婚が決まって二週間後、異例の早さで私の帝国への輿入れのパレードは実施された。最低限の人員、荷物だけを用意し、残りは追って送られることとなっていたが、パレードは十分華やかなものとなった。

この日のために王都中の優秀なお針子を急ぎ集めて作られたドレスは純白に輝き、たっぷりとあしらわれた繊細なレースは私の細さや白さを際立たせ、また散りばめられた宝石たちはその輝きで私の美しさに花を添えた。

豪華な馬車で隣に座るセドリック様を見ると、彼も帝国式の一番格式の高い正装をしていた。金糸に縁取られた黒い滑らかな生地の詰め襟は彼の美しさをより際立たせていた。そんな彼に優しく微笑みかけられ、私が頬を染めながらそれに応えると、沿道に集まった民衆たちからはワッとさらなる歓声が起こった。


民衆からのたくさんの祝福を受け取りながら、私はラッセン帝国への道のりを進んでいった。宿泊のために立ち寄る街々で、通りすぎる往来で民衆たちは私たちを盛大に祝福してくれた。

さらにあれだけ忙しい中でも事前に準備してくれていたのか、セドリック様は宿泊する街毎で私に素敵な贈り物を準備してくれていた。抱えきれないほどの花束、シルクのストール、宝石が美しいブレスレット、どれも素晴らしいものばかりで私は彼の愛をより一層深く感じていた。


幸せな旅路を終え、たどり着いたラッセン帝国で私たちを待っていたのは、母国の見送りにひけをとらない程の民衆による大歓迎だった。私のことなど今まで見たこともなかったであろうに、帝国の民衆はたくさんの笑顔と祝福の言葉で私を出迎えてくれた。私は感動の涙を目に浮かべたまま、沿道に立つ彼らに手を振り返した。



セドリック様のご両親、現皇帝お義父様とその妃であるお義母様がいらっしゃる王宮に着いても、私はこの国に着いたときと同じように歓迎されることとなった。両陛下は突然の結婚にも関わらず、私を温かなお言葉で出迎えてくれた。お義母様に至っては「ずっとフラフラしていた息子が落ち着いてくれてホッとしているのよ。可愛い娘ができて嬉しいわ」と声をかけてくださった。


王宮内に宛がわれた私の部屋はセドリック様のお部屋と寝室で繋がる正妻の部屋で、内装は全て私の好みになっていた。

身一つで来てくれて構わないと言ってくれた言葉の通り、セドリック様は私にたくさんの侍女を付けてくれ、ドレスも靴も装飾品もクロークから溢れんばかりに準備をしてくれていた。


「君の趣味に合っているといいのだけれど。もし気に入らないものや足りないものがあれば何でも言ってくれ。すぐに用意をさせるよ」


こんなにたくさん用意してくれたにも関わらず、セドリック様は更にそう言ってくださった。私を愛してくれる上、こんなにも大事にしてくれる彼と結婚できることが嬉しくて仕方がなかった。


それから一ヶ月後、落ち着いた頃を見計らって私たちは帝国の大聖堂で正式に婚約を交わした。そしてそれと同時にセドリック様の立太子の儀も行われた。私という後ろ楯を得て、彼は後継者争いに勝利したのだ。

結婚式自体は一年後の予定であったが、実質私は皇太子妃として扱われるようになった。


私を目一杯愛してくれる美しい婚約者、約束された皇后の地位、夢見ていた未来がそこにあることに私はこれ以上ない幸福を感じていた。

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