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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ダブルブッキング      :約2500文字

 昼。とある一軒屋にて――。

 リビングにはカメラが三脚に据えられ、ケーブルが床を這っている。照明の光を背に受けるリポーターは緊張の面持ち。そして、ソファの中央には、この家の主にして社長の上田源一郎が堂々と腰を下ろしていた。


「……えー、上田源一郎さん。あ、まずは我々、『ニュースダブルセブン』のインタビューに応じてくださり、ありがとうございます」


「あいあい」


「えー、なんと上田さんは今日で百歳、しかも現役社長ということで……はい、おめでとうございます」


「どうもどうも」


「それで、さっそくですが……あ、はい、交互にやりますか。そうですよね、お時間が、ああ、はい」


「はい、どうも。えー、こちら『真相報道』の者です。上田さん、本日はよろしくお願いします」


「あーん?」


「それで上田さん、百歳を迎えられてもなおお元気ということで、何か秘訣などございますでしょうか?」


「それはだねえ、毎日欠かさずうちの栄養剤を飲んでるからだよ。ははは、なんたって、うちの目玉商品だからねえ! 効いて効いて、もうすごいんだから! ほら、そのおかげでこの通り、スクワットも、はははは! おいっちに! おいっちに! どうだい、見事なもんだろう? 私は元プロレスラーでね、現役時代と同じだけできますよ、ははははは! 老眼とは無縁どころか、昔よりも良くなったんだよ、すごいだろう!」


「えー、上田さん。あなたの会社の栄養剤のほか、水や健康器具などが、購入者からまったく効果がないと訴えられている件について、どうお考えでしょうか」


「はあ? 知るかよ! どーせ、ちょろっとしか使わずに、あとはダラダラ、ダラダラ生活してたんだろうがよう! 訴えるなんて、厚顔無恥にもほどがあるよ! 低脳共がよ!」


「なるほど、それは素晴らしいですね。実は私、ファンだったので今日お会いした瞬間、いやあ、さすがだなと思いました。えー、それで、会社を始めたきっかけはなんでしょうか?」


「ふふん、やっぱり人の笑顔だね。みんなの笑顔のため! 健康じゃないと、ほら、笑ったりできないじゃない? 不健康な人は怒ってばっかりだよ。それじゃダメダメ。人間がダメになっちゃうよ。健全な精神は健全な肉体に宿るってね!」


「しかしですね、上田さん。あなたの会社の栄養剤を飲んでから肌が荒れたり、アレルギー反応を起こしている人が続出しているんですよ」


「だから知るかってんだよ! てめえの生活習慣がわりいんだろーがよお! クソが! 甘えんな!」


「その栄養剤なんですが、上田さんはどこで出会ったのでしょう」


「もともと大学でそっちの分野を研究しててね。中国から始まり、いろんな国の植物を集めて独自にブレンドしたんだよ」


「ですが上田さん、問題の栄養剤ですが、調査の結果、カビなどが混入していたと明らかになっているんですよ。それに、成分などが表記と違――」


「カビくらい、何だってんだよ! だいたい、あんなもんその辺で売ってるカスみてぇな錠剤とかスパイスを混ぜたもんだからよ、成分なんざ知るかってんだよ! バカは健康になれると思って飲んでりゃいいんだよ!」


「……あの、上田さん。こっちのカメラは『ニュースダブルセブン』です。ええ、はい。『真相報道』さんはそっちのカメラです」


「ああ、悪いね、間違えちゃったよ。いやあ、最近目が悪くてねえ。ははは、すまんすまん。怒鳴っちゃってね、へへへ。編集で頼むね、ホント」


「いえ、ええ……それで、えっと、上田さんが普段から健康のために大事にしていることなど、お聞かせ願えたらなと……」


「それはね、やっぱり自分がまだまだ現役で、健康だと思うことだね。プラシーボ効果っていうのかな。思い込みの力ってのは侮れないよお」


「効果はないと認めた、ということでよろしいですね、上田さん!」


「てめ、さっきからなんなんだよ、ぶち殺すぞ」


「あの……私は『ニュースダブルセブン』の者でして……『真相報道』はそっちの……」


「おお、間違えたよ、ははは。髪型が似てるからさ、いやあ、ははは! ごめんごめん!」


「い、いえ、じゃあ最後に、上田さんのこれからの目標などは……」


「そりゃあもう、生涯現役! 健康、健康、大健康ですよ、ははははは!」


「上田さん、脱税と脅迫で逮捕状が出ているんですよ。どうお考えですか? さらに従業員へのパワハラ・セクハラ、学歴詐称もしていたそうじゃないですか。信じてくれた人たちに申し訳ないとは思わないんですか? ファンが悲しむとは思わないんですか! 私もファンだったのに」


「てめっ、いい加減に……ん? え? 今、なんて言った? 逮捕状? 出てるの? ……いやあ、最近ちょっと具合が悪くてねえ。足も動かなくてえ、刑務所なんて、この歳じゃもうねえ……。ええ、反省してますとも。ええ、ほんとに、はい……。だから訴えるとかはねえ、へへへ、なしの方向でお願いしたいよねえ……」


「えー、前々からインタビューを申し込んでいたとはいえ、ええ、お断りいただてもよかったにもかかわらず、お忙しいときに、本日はどうもありがとうございました。『ニュースダブルセブン』でした。ちなみに、放送日は未定ということで……」


「こちらも逮捕直前、緊急取材に応じてくださり、ありがとうございました。『真相報道』でした。では……あ、今! 逮捕令状を持った警察官が部屋に踏み込みました!」


「すごい! 上田さん――いや、上田容疑者が激しく抵抗しています!」

「警察官、手錠を掛けられない! ああっ! 上田容疑者! 噛んだ! 噛みついた! すごい! 百歳とは思えない動き!」


「ああっと! 上田容疑者! 一人を投げ飛ばした! さすが元プロレスラー!」

「決まった! ラリアァァットォ!」


「ロー! ロー! そしてハイキィィィック!」

「ジャンピング・ハイキックも炸裂したあああ! 警官、吹っ飛んだあああ!」


「人間岩石! 巌窟王!」

「鬼に金棒! 上田にダンベル! 凶器人間!」


「そして、ああっと!」


「窓から逃走ォォォッ!」「窓から逃走ォォォッ!」

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