あの子のマフラー :約1000文字 :じんわり
冬。雪はまだ降らないが、空気に触れた肌がピリピリと痛むほど寒い。
そろそろマフラーを買わなきゃな。
去年、どこかでなくしてしまい、「まあ、暖かくなったしいいか」と放置したままだった。
手袋越しの手を首に当て、冷たい風をしのぐ。
目の前の道を、小学生たちが数人、元気よく駆け抜けていく。その中の一人は短パンだった。そういえば、昔もいたな。どれだけ寒くても、絶対に長ズボンを履かないやつ。
「昔」と言っても数年前。もう数年前、か。まだ数年前、か微妙なところだけど。
高校二年生のこの冬。そろそろ進路のことを考えなきゃいけない時期だ。
そう「もう」そんな時期だ。
まだ高校生らしいことした記憶が……まあ、ないわけじゃない。けれど、どこか不完全燃焼な感じがする。来年は燃焼できるだろうか。何一つ思い残すことなく。
校舎の中に入ると、ホッと一息つく。人の話し声って、温度を持っている気がする。
やや寒々しい廊下を歩き、教室の扉を開ける。
――っと、おお……。
おれの隣の席の女子は、ちょっと変わってる。極度の寒がりなのはいいとして、あの子の首に巻かれたマフラー。
……日に日に長くなっていないか?
いや、間違いなく長い。この前は二重。昨日は三重。そして、今日は四重に巻いている。
手編みだろうか? 色はいつも同じ、淡いピンク色。
まあ、確かに席は教室の一番後ろの、しかも窓際だ。おまけに、エコだの何だのとかで暖房も弱め。寒いのはわか――
「へくしっ」
と、寒いな。おれも明日から、もう少し暖かくしようかな――
「うおっ! え……?」
突然、何かが首に巻きついた。これは……マフラーだ。まるでカメレオンの舌のように、ヒュッと、おれの首にマフラーが……。これ、隣の……。
「あ、えっと、分けてくれるの?」
訊ねると、あの子はコクンと頷いた。
真っ赤な顔で。
まさか、このために長く編んでいた? なんていうのは自惚れかな。
あの子の口元は、マフラーに埋もれて見えない。
でも、笑ってるみたいだ。
……ああ、話し声だけじゃない。笑顔も温度を持っているんだな。おれもマフラーに顔をうずめ、そっと息を吐いた。
翌朝、あの子はマフラーを八重に巻いていた。
おれを繭にでもする気か。
でも、あの子がちらちらとこっちを見るので、おれは仕方なく、くしゃみをするふりをした。




