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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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テレビインタビュー     :約1500文字

 ――ああ、通り魔の話ですか。ふふっ、よく知ってますよ。


 ……我ながら思い切ったことをしたものだ。あのときのことを思い返すと、心臓がバクバクしてくる。正直、どうかしていたとさえ思えてきた。……いや、きっとうまくできたはずだ。

 暗い部屋の中、テレビ画面を見下ろしながら、男はそう思った。電気はつけず、手にしたタバコが蛍のように明滅する。


「そろそろか……」


 男は待っていた。夕方のニュース番組が始まり、そこに自分の姿が映るのを。

 男は通り魔だ。抑えきれぬ衝動に駆られ、近辺で何度も犯行を繰り返してきた。自転車に乗り、ハンマーで後ろから相手の頭を殴るという単純なやり方だが、とうとう重傷者を出してしまった。

 警察もマスコミも本格的に動き始め、パトロールの強化、駅でのチラシ配りなど、町は厳戒態勢であった。

 そんな中で、事件に関する取材が行われていた。そして偶然、マスコミが近くを通りがかった男にカメラを向けてきたのだ。

 疑われていたわけではない。インタビューの目的は単純だった。事件について通行人に意見を聞くだけ。『怖いですね』『早く捕まってほしいですね』。そんな決まり文句を引き出すためのもの。恒例のようなやり取りだ。

 しかし、男は一歩踏み込んだ。犯人を見たと言い、特徴を語り始めたのだ。

 もちろん、男は馬鹿ではない。真逆の情報を伝え、捜査の撹乱を目論んだのである。不意打ちの状況で、うまい手を思いついたものだと、自分を褒めたい気分だった。


「お、来たか……」


 自分の住む町が画面に映ると、男はタバコの火を灰皿に押し付け、画面に集中した。ナレーションが流れる。「ここで有力な手掛かりが!」と。


『……それで、犯人を見たというのは本当なんでしょうか?』

『ええ、たまたま見かけたんですよ。疲れてたんですかねえ。自転車を停めて休憩しているところをね。ま、情報に出てる服装によく似てたってだけですがね』


 よしよし、と男は笑った。確信があるわけじゃない、というのがいい。適度な曖昧さが信憑性を高める。そして自分の態度は落ち着いており、挙動不審には見えない。むしろ堂々としてさえいる。


『どんな特徴でしたか?』

『まずブサイクでしたね』


『顔があまり良くないと……』

『ええ、それにチビですね』


『身長が低い、と……』

『あとデブですね。ま、おまけして小太りかな?』


『なるほど……。年齢はどうですか?』

『まあ、オッサンですね。根暗そうな男でしたよ』


『なるほど……他には何かありますか?』

『うーん、そうですねえ。強いて言うなら……不潔で臭そうなやつでしたよ。はははは!』


『な、なるほど……』

『目が細くてねえ。卑屈な顔つきでした。肌も汚そうでしたし、おまけに薄毛でしたね。ありゃ、彼女なんて一度もいたことなさそうな感じでしたねえ!』


『お、おおー、詳しいですね』

『ま、あくまで主観ですがね。クズの雰囲気がプンプンでしたね。ま、それは通り魔ですからそうなんでしょうけど』


『なるほど……。ありがとうございました』


「よーし、うまく喋れていたな」


 男は満足げに息を吐いた。これでほとぼりが冷めるまでしばらく大人しくしていよう。そうすれば、いずれ事件も風化するさ。男はそう考えた。

 だが、それから三日後のこと……。


 ――ピンポーン


 インターホンの音が響き、ドアを開けた男は目を疑った。警察手帳が目の前に差し出されたのだ。


「おたくの自転車が通り魔事件で使われたものと似ているようでして……署までご同行願えますか?」

「え、あ、え、なんで?」


「それは、どうして分かったのか、という意味ですか? ええ、聞き込みをしましてね。それであなたがここに住んでいると――」

「い、いや、なんでおれに目を付けたのか……」


 男が狼狽しながら訊ねると、警官はふっと表情を崩し、笑みを浮かべた。


「ああ、だってあなた、あのインタビューで話した犯人の特徴、そのまんまだったじゃないですか。捕まえてみろ、と挑発されてるのかと思いましたよ」


 確かに、目の付け所は悪くはなかったのかもしれない。だが男は、自分を客観的に見ることができてなかったのであった。

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