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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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転生先の世界

「……あ、あれ、ここは……確か僕は……そうだ。トラックに轢かれそうになった女の子を突き飛ばして……これって、もしかして!」


「ええ、それであなたは死にました。よって」

「お前を異世界に転生させてやろう」


「え?」


「え?」「え?」


 トラックに轢かれたと思ったら知らない神聖な宮殿の中のような場所で僕は目を覚ました。どうやら死んでしまったらしい。でも、目の前に現れた女神様と神様、二人の説明を受けているうちに、そのショックは萎んでいった。


「……つまり、話を整理すると、これはダブルブッキングということですか?」


「だぶるぶっきんぐ?」

「現世の言葉はよくわからんなあ」


「まあ、いいです……。それで、その、とりあえず僕が元の世界で生き返れないことは、女神様と神様、お二人とも確定なんですね?」


「だからさっきそう説明したじゃない。もうその段階は過ぎてるのよ」

「どうせ生き返っても友達も彼女もいないし、いいだろう」


「あ、はい……すみません。いや、別にいないこともないですけど……。女子といい感じになったこともあるし、いや、まあ、それでその、もう一度説明してもらえますか? 転生先の世界について」


「ええ、いいわよ。私の送り先は中世の世界。争いが絶えず、貧困に喘ぐ人が多いの」

「わしが送る世界は科学が発達した世界だ。ロボットなんかもあるぞ。どうだ、そっちに行きたいだろ」


「えっと、あの……お二人とも、その世界に魔法とかはないんですか?」


「ないわよ」

「ない」


「んんん? モンスターとかダンジョンは?」


「ないわね」

「ないな」


「えっと、ああ。じゃあ、チートとかは頂けるんですよね、もちろん」


「チート?」

「何を言ってるんだ貴様は」


「え、と、じゃあ転生してもあまりその、無双とかはできない感じですか?」


「ははははっ! それはあなた次第でしょ!」

「ふはははははは! まったくだ! ははははは!」


「あ、あははは……何がそんなにおかしいのかよくわかりませんけど……じゃ、じゃあ! 生まれがすごくいいとか! 貴族とか!」


「私のはそうねぇ……ああ、貧民ね。ド貧民の七番目の息子」


「ドがつく貧民の上に第七……」


「わしのは……ああ、安心しろ。普通だ。平々凡々だ」


「平凡……あの、両方とも何か才能とかはあるんでしょうか」


「だからそれはあなた次第だってば。でもほら、現代で培った知識があるじゃない? 記憶は引き継げるから、なんか作ればいいでしょ」


「いや、発明って言っても、スマホとか持ち込めないと知識がなくて無理ですよ! 材料だって手に入らないでしょうし……」


「だからほら、オセロとかなら作れるでしょ。馬鹿にもね」


「いや、貧困に喘いでるんでしょ! オセロなんてやってる場合じゃないでしょ! あ、でも貴族に売ることはできるか……」


「あ、オセロはすでにあったわ」


「クソッ!」


「わしの方も才能は……うん、ないな。まあ、勉強すればロボットも動かせるようになるだろう。まあ、これは相当難しいし学園の上位2%に入ることができればの話だが。ま、そもそも入学すら無理だろうな。貴族専用だし」


「クソじじい!」


「それでどうするの?」

「どちらを選ぶんだ?」


「いや、もっとこう、なんかないんですか!? 特典とか! もっと僕を取り合ってくださいよ! 自分の世界に転生させたいんでしょう!? チート! 現代の道具を持ち込み! 家柄! アイテムボックス! 僕は女の子の命を救ったんですよ! 何かご褒美があってもいいでしょう!」


「ん?」

「は?」


「え?」


「女の子、救ってないわよ」

「死んだぞ」


「え? でも、え?」


「えっーと、二車線ね。あなたに突き飛ばされた先で車に轢かれたわ」

「地面に頭をぶつけて、そのせいで動けなかったようだな。そこにタイヤが、ぐしゃあ!」


「人殺しね」

「ひっと! ごろし! ひっと! ごろし!」


「え、え、でもじゃあなんで、僕はご褒美に異世界に転生できるんですか?」


「は? ご褒美?」

「違うぞ。これはただ単にそういう決まりなんだ」


「え、え? あの世ってそういうシステムなの?」


「ああ、そうそう、それからあの子ね」

「ああ。お前が突き飛ばさなければ奇跡的に軽傷で済んだんだ。と、言うかお前が死んだのは運が悪かったというか」


「脆かったのね」

「コバエ野郎だ」


「ええぇ?」


「ちなみにあなたのいる世界も、別の世界で死んだ者の転生先ね」

「そうそう、記憶を引き継げるかどうかは人それぞれだがな。そう考えるとお前さんは引き継げるからいいな」


「そ、そんなの慰めにならない……いや、まあ、やりようによるか。オセロが駄目でも将棋とか囲碁とかなら、ああトランプもいいな」


「そうよ、人を殺したのに結構マシな世界に……あら? ごめん、私のこれ間違ってたわ。あの女の子用だった」

「ん? あ、わしもだ。僅差だったから間違えてた」


「え?」


「本当のは、えっーとああ、よかったじゃない! モンスターがいるわよ! 魔法もあるわ!」


「え! 本当ですか!」


「ええ、転生先はパラケッタね!」


「パラケッタ……? モンスターですか? 都市名ですか?」


「モンスターというか虫、いや単細胞生物ね。極小サイズの。ええと、寿命が近づくと分裂を繰り返し、悠久の時を生き続けるのよ」


「え? え……あ! スライム! スライム的なやつですね! もう、それならそうと言ってくださいよ。溶かして吸収した敵のスキルとかを自分のものにできるんでしょう?」


「スキル? 何を言っているのかしら、さっきから本当に気持ち悪い……。敵を吸収なんてできないわ。小さいし。……あ、でもよかったじゃない。暗い洞窟の地下水に生息していて外敵はいないわ」


「え、ええ? そこで、ずっと? 死ぬまで? いや、死なないかもしれないの?」


「わしのほうは……ええと、言わば動く死体だな」


「お、おお! アンデッド! いいじゃないですか! そういうのですよ!」


「そうか? まあ終わりはあるかもな」


「へへへ、そっちでお願いします! 決定!」


 すぐに他のモンスターや冒険者を倒して経験値を稼いで、進化してやるんだ。

 強いスキルや魔法を覚えて、そして、ふふふふ。美少女の冒険者がピンチになっているところを助けて、それで正体を隠して人間の街に行ってギルドで冒険者登録をして、それから出会う女性みんなに惚れられて、へへへへへへ……。



 ……そう思っていた。

 痛い。痛い。かゆい。痛い。目玉は腐り落ちたみたいで何も見えない。皮膚の下が剥き出しだから、歩くたびに空気に撫でられて、とても痛かった。

 どこへ行けばいいんだろう。どこに誰がいるんだろう。そう思いながら歩き続けた。でも、どれだけ歩いても誰かと出会うことはなかった。どこを進んでもあるのは暗闇だけだった。

 崩れ落ちそうな耳はかろうじて音を拾った。でも、自分が出す音以外は何も聞こえなかった。

 ここは朽ちた迷宮だろうか。それとも、敗残兵が逃げ込んで死んだ洞窟の中だろうか。 

 もう、何もわからない。死のうと思って壁に頭を打ちつけたら、首からもげて落ちてしまったのだ。

 体は頭だけの僕を置いてどこかへ歩いていった。もう動くこともできない。でも死ねない。

 ああ、痛い、痛い、痛い。誰か……早く終わらせて……これじゃ、まるで……ああ、そうか……


 これも地獄の一つなのか……。

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