あたしたち、入れ替わっ
とある朝。一人の女子高校生が大急ぎで道を走っていた。しかし……。
「遅刻しちゃう、きゃあ!」
「うわ!」
彼女は曲がり角で、男子高校生とぶつかった。二人はその場に倒れこみ、手で頭を押さえながら起き上がる。
「頭いた……ちょっとどこ見て……え、この声、あれ、服が」
「いてて、そっちこそ……え、これ、え?」
「あたしたち……」
「おれたち……」
「入れ替わっ――」「入れ替わっ――」
「そおおおいっ!」
「うお!」
「え、な、なに!? おじさん、誰!?」
「いてて、あ、あれ? おれ、おっさんになってる……」
彼女と男子高校生の二人は入れ替わった。しかし、突然現れた中年の男に頭突きをされ、彼女と入れ替わった男子高校生は中年の男と入れ替わったのだ。
「ふふふっ、この若い肉体は私が頂いたよ。じゃあな!」
彼女の体に入った中年の男は、にやりと笑ってそう言い、逃げようとした。しかし、それをすかさず彼女が取り押さえた。
「クソッ! 女の体じゃ不利か!」
「いや、まずそこよ! 普通、若い男の体を狙うでしょ! 何であたしの体なのよ!」
「若い女の体に触れたい!」
「さ、最低……。いや、そもそもなんで入れ替わることができたの? 何か知っているの?」
「ああ、君たちがそこの角で衝突して、頭をぶつける瞬間を見ていたからね。もしやと思ったのさ」
「思い切りと判断力がすごい……まあ、それはいいとして、えっと、あたしの体におじさんが入って、おじさんの体に男子高校生が入って、それで、この男子高校生の体にあたしが入ったってことは……この頭突きで!」
「いや待て! それだとおれの体がおっさんに乗っ取られたままじゃないか! この体、なんか節々が痛いし、逃げられちゃうよ!」
「貴様の体なんか興味あるか!」
「なんでだよ! 若い男だぞ! 若い女を口説いたりできるだろ!」
「はっ、そんなモテなさそうな奴の体じゃ無理だ!」
「ぐぅ、いや、別にモテないこともないし……」
「確かにこの体じゃ無理かも。なんか股の辺りがかゆいし、臭いわ。さっき入れ替わったとわかった瞬間、絶望して死のうかと思った」
「ひどすぎるだろ。とにかくいったん、おれとおっさんが入れ替わって最初に戻ろう! それでその後、おれたちは元の体に戻ればいい!」
「どうして一回、あたしの体を経由するのよ! あたしはこのまま戻らせてもらうから!」
「いや、待てよ! 一週間くらいお互いの体で過ごしてから戻ろうよ! これって、そういうもんじゃないの!?」
「嫌に決まってるでしょ! さあ今すぐに――」
「そぁい!」
「うえっ!? な、なに!?」
「うおっ、私の体が婆に! 何のつもりだ!」
「ひひひ、この若い女の体は頂いたよぉ、ぐっ!」
「馬鹿じゃないの? どこのお婆さんか知らないけど、あたしの体と入れ替わっても、このあたしの男子高校生の体に取り押さえられている状態で逃げられると思った? さあ、これで元に!」
「お、おい、待てよ!」
「ちょっと、手を放してよ! あ、いや、いいか。こうやって押さえておけば、あたしとお婆さんが入れ替わった後、すぐに元の体に戻れるもんね」
「いや、おれはいったん、君の体と入れ替わる!」
「なんであたしの体がこんなに人気なの!? 諦めてよ!」
「放せ! 年寄りをいたわれ!」
「今は若い体でしょうが!」
「クソ婆! それは私の体だ! 私の物だ!」
「いや、おれのだ!」
「アタシのよぉ!」
「全員、あたしの体から離れてよ! この! あ――」
――キィィィィィ!
「あ、あ、ぼ、僕は悪くない。そっちが急に飛び出してきたから……でも、四人もつれ合って、一体何をしていたんだ……。いや、何であれ終わりだ。あああ、全然動かない。軽トラックだし、あまりスピードは出してなかった。それに直前でブレーキもかけたのに……やっぱり、死んでる。四人とも息してな――」
――ファァァン!
「ク、クラクションの音が、な、なんで肩を触ったら……」
――ファァァァァァン!
「な、まただ、また口からクラクションの音が」
――ファァァン!
――ファァァン!
――ファァァン!
「こっちも、こっちの人も。何なんだこいつら! き、気味が悪い! えっ、トラックが勝手に動い……あ、ああああああ!」




