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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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結論から言うと、このお話はゲームのお話なんですけど、と言ってもゲームの世界のお話じゃなくて要するに現実の話で、と言っても、もちろんフィクションでして、だからゲームと言っても楽しいものではなく、命がかか

『これより、諸君らにはデスゲームを始めてもらう』


 ……は?


 地下シェルター、あるいは倉庫のような暗く、コンクリート張りの場所で俺は目を覚ました。広く、天井は高い。俺の正面、遠くの方にドアが一つある。そして、後ろにある巨大モニターが威圧感を与えてくる。どうやら、今喋ったのはこのモニターに映っているあの黒いシルエットの奴らしい。

 だが、まったくわけがわからない状況だ。それにあれは……何だ? 巨大な……一体これから、何が始まるっていうんだ?

 クソッ、頭が痛い。薬か? それで眠らされ、ここに連れて来られたのか?周りの連中もそうなのか? 一人、二人、三……十一人か。今からこいつらと……そう、デスゲームというからには、油断すれば待っているのは……死。

 冷静になれ。ああ、そうだ、落ち着け。嘆いている暇はない。まずルールをよく聞くんだ。そして理解しろ。真意をくみ取れ。裏の裏まで読め。こんなところで死んでたまるか……。


『では、ここで行う最初のゲームを発表する……ドドンカドンカ!』


 何だ……? ドドンカドンカ? 効果音か? いや、そんなはずないか。マズいな。聞いたことがないゲームだ。響きからして南米のゲームだろうか。


『これは我々が考案したオリジナルゲームだ。向こう側にドアがあるだろう。今から合図したら音が出るからそれを合図に、あそこに向かって君たちには走って目指してもらう。真っすぐに進んだほうが早いが、横に向かって走ってもいい。ただし、走らなくてもよくて、歩いてもいいのだ。つまり、結論としては、たくさん走るということだ。そうは言っても別に床がベルトコンベアという訳じゃないから安心してもいい。だが安心するな。床がベルトコンベアじゃないと言っても普通の床だとは限らないからな。しかし、大部分は普通の床だ。ただし、中には普通とは異なる床もあるが、それは違法という訳ではない。むろん、合法ではない。このデスゲームは違法だ。違法なのに我々がこのデスゲームを始めようとしたきっかけは後で知ることになるだろう。しかし今、君たちが知るべきなのはその身をもって恐怖を味わうことだ』


 ん? んんん? 俺だけか? 話がよくわからないのは……。

 いや、他の連中も俺と首を傾げるなど同様の反応をしている。……いや待て。一人だけわかっている風な顔の奴がいるぞ。

 ……そうか! 今のよくわからない話の中に何かゲーム攻略のヒントがあるんだ! なるほどな。すでにデスゲームは始まっているということか。危ない危ない。馬鹿を晒すとこだったぜ。俺は馬鹿じゃないからな。


「あの、つまり、その、この部屋を何周かするってことですか?」


 参加者の一人の女がおそるおそる、そう訊ねた。ははっ、馬鹿な女がいたもんだ。違うぞ。まあ、俺も全貌はつかめてないが、たぶん違う。


「いや、持久走だろう」

「え? 200メートル走じゃないのか?」

「いや、鬼ごっこだな」

「ダンスでしょ」

「いや、なぞなぞだろ」


 はぁ……馬鹿ばかりだ。しかし待てよ。ダンスか。確かにゲーム名からしてその要素はふんだんにありそうだ。


『ダンスではない』


 違った。


『安心しろ。まだ説明は終わっていない。だが安心するな。これは死のゲーム。つまりデスゲームだ! 諸君らの右手にあるのは、と言っても実際に君たちの右手は普通の手だ。この場合の右手というのは右側という意味であり、君たちから見て右側にあるものを見て欲しいのだが、君たちがこのモニターを正面から見ている場合、君たちの左手にあるということになる。だが、それは君たちの左手に何かあるわけではなく左側、つまり君たちがあのドアのほうを見た時に右側にあるものを見て欲しいのだが、見たか? あれは大きな像だがただの像ではない。大きいというだけではないということだ。結論から言うとあれは像だが像ではない』


 ……ちょっと吐き気がしてきた。俺は馬鹿じゃないのに馬鹿になった気分だ。訳が分からない。つまりあれは像か像ではないのか

それを当てるゲームということか?


「フッ……クイズか。面白い」

「ひひひ、何が何やらさっぱりだ!」

「ふーん、面白いじゃん。要するにあの像のてっぺんに登ったやつの勝ちだろ?」

「あー、はやくやりてぇ……」


『違う。像には登らない。登ってもいいがそれは禁じていないだけで、お勧めはしない。だが登ってもいい。それは君たちの自由だ。そう、ここではプレイヤー同士の妨害行為も許されるのだ。要するに気をつけたほうがいいということだ。特に背中には気をつけたほうがいいということだ。と言っても、正面も危ないかもしれない。だが一番危ないのはあの像だ。登らないほうがいい。君たちの自由だがな。そう、君たちの自由を尊重したい。自由に動いて構わない。ただし、自由と言っても棄権は許されない。棄権した場合、後悔することになるのはその者自身だ。墓場に行ってもらうことになる。ただ実際に墓場に行くことになるかはわからない。つまりは死ぬことになるが墓場にきちんと埋葬されるかは我々次第ということだ。まあ、私もよくはわからない。さあ、これでよくわかっただろう。さて、要点をかいつまんで話すとあの像はただの像ではなく、君たちは走るべきかそうではないかは君たちの自由だ。ただし、あまりゆっくりすることはお勧めしない。なぜなら君たちの体がとても危険で危ないからだ。かと言って、急ぐのも危ない』


「あ、頭が痛くなってきたわ……。つまりあの像からは怪電波が出ているということね」

「いや、あれはただの像だろう」

「かくれんぼするということか?」

「おい、ゲームマスター! あの像はただの像なのか!?」


『私がゲームマスターと名乗ったことはないが、私はゲームマスターだ。だが、ゲームマスターではないのかもしれない。そして、あの像だがただの像ではない。いいか、今から大事なことを説明するからよく聞いておくといい。しかし、これまでの説明が大事ではなかったという意味ではないことは、よく覚えておくように。だが、その判断をするのも君たち自身だ。よく聞いたか? よし、それでゲームが始まればカウントが開始される。それは十秒かもしれないし、そうではないかもしれない。始めは十秒だがそのうち六秒や二秒など変化をつけるかもしれない。それは、君たちを動揺させるためだが、きっと驚くだろう。そして、そのカウントが零になったとき、君たちは動きを止めるべきだ。もっとも、止めるかどうかは君たち次第だ。我々がそれに干渉することはない。もし、動いたのなら例えばゲームが始まり、カウントが開始され、カウントが終わり、零になったとして君たちの中の誰かが動いていたとして、そうなった場合はあの像から発射されるものはすごく危険で驚くべきものだ。それが何かはゲームが始まってからのお楽しみだが、弾丸が発射される。大きな弾丸だ。撃たれた者は驚くだろうが、驚けないかもしれない。なぜなら一発ですぐに即死するからだろう。もしかしたら生きているかもしれないが生きられない。つまり死ぬということだ。そう、これはデスゲームだ!』


「それは……要するにこれはタイミングよく銃弾をかわすゲームということか!」

「ああ、十回避けたやつが勝ちだぜ!」

「一人ずつ順番に行こう。まずは俺からだ」


『違う。銃弾はかわすべきだがかわせない。なぜならすごいスピードだからだ。でも、試したことはないので、もしかしたらかわせるかもしれないが、そうなった場合はすごいということだ。私は褒めたい。だが、やはり人間には不可能だろう。と言っても、動物なら可能かというとそうではない。しかし、実験したわけではないから、わからないというのが正直なところだ。さて、ではそろそろゲームを始めたいところだが最後に一つ忠告しよう。それは、床には気をつけたほうがいいということだ。滑りやすくなっているという意味ではない。もし滑ったとしても、それは偶然だ。滑らないという保証はないのだ。つまり、私が言いたいのは罠があるかもしれないということだ。ないかもしれないがな。そう、これは心理戦でもあるのだ。そして最後に一つだけ忠告しよう。それは背中には気をつけろということだ。これは別に背にしている壁から罠が飛び出すというわけではない。そうかもしれないが、ここではないから安心だ。要するに私が言いたいのは後ろには気をつけろということだ。つまり他の参加者が危ないということだ。危ないというのは他の参加者に危険が及ぶという意味ではなく、しかし、安全ではない。これはデスゲームだからな。よって、参加者同士の妨害行為が認められているわけだが、そういった意味で他の参加者に気をつけろということだが、それだけではではなく、君たちの中に裏切り者がいるという話だが、今はそれは言わないでおく上に、それ自体が君たちを動揺させるための嘘かもしれないが本当だ。ただ裏切り者と言っても君たちは妨害行為が認められていて、仲間というわけでもないから厳密には違うかもしれないが、つまり裏切り者というのは、こちら側の人間が君たちの中に紛れ込んでいるということだが、それが何人かは謎だ。ちなみに一人だがその正体は後々明らかになるだろう。今は裏切り者がいるという可能性もここでは言う予定にない』


「つまり……俺は裏切り者か?」

「いや、裏切り者を探すというゲームだ」

「それって人狼ゲーム?」

「人狼ゲームって?」


『人狼ゲームではない。いいか、説明してやろう。人狼ゲームというのは――』


 頭が……痛い……うっ


「おえええええ!」


「うおっ! あいつ吐いたぞ!」

「つまり……あいつが人狼か?」

「いや、人狼はあの像だ!」

「俺たちを裏切っていたのか!」

「いや、裏切り者はゲームマスターだろう」


『違う。私は裏切り者ではない。しかし、ゲームマスターは裏切り者だ。つまり、君たちの中にいるのはゲームマスターであり、私はそうではないということだから、裏切り者ではないということだ。要するに私は君たちと同じ立場だ。だが味方というわけでもない。しかし、違うとも言い切れない。そして、それは裏切り者もそうなのかもしれない。君たちの仲間の中にいるのだから、君たちの味方なのかもしれない。しかし、必ずしも仲間というわけではないのかもしれない。そして、一番警戒すべきは一番ではないかもしれないが、あの像だ。銃弾が出る。それはすごい速さだ。それを避けつつ、しかし、避けられないだろうが、あのドアを目指すべきだ。その先にはいくつものデスゲームが君たちを待っている。待ってはいるが、ゆっくりでいい。急いだほうがいいがな。急がば回れだ。しかし、回り道は必要ない。それも君たちの自由だがな。よって、あの像は危険で、君たちも危険ということになる』


「つまり……どういうことだ?」

「出口はない。ここで全員死ぬということか」

「これはデスゲームなのか?」

「あの像はすごい速さで死んでいるのか?」


「もういいわ! あんたは説明が下手すぎるのよ!」


 な、なんだあの女……。よく言ってくれたと思うがよく言ったな。


「私が真のゲームマスター。ここから先は私がゲームの内容を説明するわ。いい? よく聞きなさい」


「な、なんだと!」

「つまり、あの女が本物のゲームマスターで、モニターの奴は偽物ということか」

「じゃあ、モニターの奴が裏切り者ということか」

「そういうことになるな」


『私は裏切り者ではない』


「いいから黙れ! さ、ドドンコドンコ。簡潔に説明するとこのゲームはね。つまりあの像が危険という話よ。でも床も危険よ? ふふふ、気をつけた方がいいというわけね。そして急いだほうがいいわ。でも焦りは禁物よ? なぜならあの像は危険だからね! でも、モタモタしていると大変なことになるわ。なぜかと言うとね、後にわかることよ。今、説明してあげてもいいけど、私は楽しみは後にとっておくタイプなの。そう、イチゴのショートケーキのイチゴは後で食べるようにね。でも私はいいタイミングで食べるわ。いいタイミングというのは生クリームで口の中が甘くなりすぎた時ね。イチゴの果汁でサッパリさせるの。と、言ってもイチゴが別に甘くないわけじゃないわ。イチゴは甘いし生クリームも甘いわ。ただ誤解しないで欲しいのは私はチーズケーキが好きということよ。でもイチゴのショートケーキも嫌いじゃないということは大事なことだから知っておいて欲しいわね。そして、私もゲームマスターというわけではないということはまだ内緒よ。つまり、どういうことかと言うと、私もモニターのあいつもゲームマスターではないということよ。そして、それが何を意味するかは各々で考えて欲しいわね。要するに私とモニターのあいつも参加者であって、ゲームマスターではないということよ。まあ、そのことについてよく考えるといいわ。と言ってもゲームが始まったら考えていられないでしょうけどね。急がなきゃいけないの。だってね、時間が限られているということは急がなければならないということでしょう? 違う? さ、ルールがよくわかったのならゲームを開始したいと思うわ。ここまでの話を纏めると、ドドスカドスカは、とても危険で危ない死のデスゲームということね」


「つまり……あの像は味方ということなの?」

「いや、ゲームマスターはいないということだ」

「じゃあ、あの女は味方なのか?」

「いや、参加者同士は敵だろう?」

「真の黒幕がいるということか」

「それはないだろう」

「俺はアップルパイが好きということなのか?」


 つまり……どういうことだ。ああ、具合が悪い。また吐きそうだ。鼻血も出てきた。頭が痛い。ぼーっとする。

 ……ん? 他の参加者、それにあの女も鼻血を? あれ、これ普通じゃない、よな。え、まさか毒? モタモタしていると体が危ないというのはつまりそういうことで、俺たちは急いでゴールを、解毒剤を目指さなければ……あ。


 いや、これはまさか、黒幕が毒の分量を間違えたのでは……。

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