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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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校長先生の受難

 とある高校の校長室。模様替えを終えた校長は一息ついた。


 時期外れの着任で慌ただしかったがこれでよし。うーむ、この部屋も私も威厳が満ちあふれているなぁ。モリモリだ。

 それにしても、髭を伸ばすのが間に合ってよかった。明日は臨時の全校集会。生徒たちと初顔合わせだ。人生経験を交えた良い話をたっぷりと聞かせよう。四時間くらい。ふふふふふ……。

 

 そう考え、ニヤつく校長。その時だった。ドアをノックする音がした。


「はい、どうぞ」と、校長は返事をした。


「失礼します」


 中に入ってきたのはクラス担任の先生。その後ろにゾロゾロと生徒たちが続いた。どこのクラスの担任かはまだ覚えていないが、いったい何の用だろうか、と校長は思った。


「お忙しいところをすみません、校長先生」


「ああ、構わないよ。それで何だね、彼らは?」


「ええ、実は少々問題がありまして……これは校長案件かなと」


「ほう、校長案件……ふふん、悪い気はしないね。それでその子たちが何を?」


「ええ、もうじき体育祭でしょう? それで各クラスがクラスTシャツを作ったんですけど」


「ああ、いいじゃないか。団結は勝利につながるからな。いやぁ私も若い頃は――」


「ええ、ですが問題なのが……まあ、見てもらった方が早そうですね。ほら、五人とも横に並べ」


「ああ、そのワイシャツの下に着ているというわけか」


「ええ、ほら、じゃあ一人目、一ノ瀬」


「はい」


 ――やれやれ……。大方、何かのキャラクターの無断使用とかだろう。金儲けするわけじゃないんだ。それくらい大したことでは……


「う、うおっ! なんだその模様は!  ううううぅぅ、目がチカチカする! 動いているのか!?」


 校長は思わず手で目を覆った。その生徒が着ていたのは錯視を利用したデザインらしく、いくつかあるそれぞれの模様がそれぞれ違う動きをし、不快感を煽った。


「はい! そう見えるよう計算して作り上げた最高傑作です!」


「爽やかな笑顔だが、ううう、気持ち悪い……しかし、なぜそれにしたんだ?」


「はい! 相手の目を疲れさせて戦いを有利に進めるためです!」


「爽やかに言うが小狡いな……まあ、しかし、ギリギリセーフか? うーん……」


「では次、二宮!」


「はい!」


「お、ほう! 私の顔かね!? おー! プリントアウトしたのか。いやぁ赴任したばかりだというのに、ははははは、参ったねぇふふふふ」


「はい! 学校の一番の権力者なので攻撃しにくいかなと!」


「ま、まあその考えは頂けないが、ふふっ、慕われているようでいいものだな」


「二宮。後ろを向け」


「ん? う、オエエエエエエ! な、な、なんだそれは! どういうつもりだ!」


「正面と裏での対比が相手によりショックを与えるかなと思いました!」


「だからって、わ、私の死に顔を、う、ウエエエエ! グロテスクすぎる! 鉢巻のように巻いているのは臓物かね!? オエエエ!」


 彼のTシャツの裏にプリントされていた校長の顔の目玉は片方が腐ったように溶け、斜め上を見上げている。もう片方の目は切れの悪い糞のようにぶら下がっていた。半開きの口からは舌が牛のように長く、だらんと垂れ下がっており、左頬の皮膚が伸びきり、千切れそうになっている。皮膚のところどころには穴があり、そこから蛆が湧いていた。顔や髪の毛、周りに蠅が集っており、見つめていると腐臭が漂ってきて、校長は嘔吐した。


「校長先生、大丈夫ですか?」


「大丈夫なものか! 生徒の前で吐いてしまったんだぞ! 校長室が、私の威厳が……」


「じゃあ、次行きましょう。三木!」


「お構いなしか」


「はい! 見てください!」


「ん? 普通の黒のTシャツじゃないか。まさか、また背中側に何か……」


「校長、襟のあたりを掴んでください」


「ん? こうか? いたっ! う、うおおおお!? 切れた!?」


「このクラスのTシャツは襟にカッターの刃を仕込んでるんです。騎馬戦対策だとか」


「先に言いなさいよ! 見ろ、この出血量! あああああああ!」


「はい、次、四条」


「構いなさいよ」


「はい、どうぞ! 触ってみてください!」


「今度は白のTシャツか……どうせ、また何か仕掛けがあるんだろ?」


「そんなことないよな、四条? ほら、私がこうして触っても何も起きないですよ?」


「んん? じゃあ防刃仕様とかそんなところか……ぐわあああばばばっばばば!」


「スイッチのオンオフで電気が流れるんです」


「きさまああああばあばばばばばっばば!」


「四条、もういいぞ」


「はい!」


「はぁはぁはぁ……ほぼグルじゃないか……私の威厳が……モリモリの威厳が……」


「今はカラカラですね」


「うるさいな! 全員もう出ていきなさい!」


「はい、じゃあ最後、五島!」


「無視か」


「はい! どうぞ!」


「うおっ……と、はははっ。ただの目玉模様か。それこそ畑のカラスを驚かすような……ん?」


 校長はよく目を凝らした。

 今、あの目玉……動かなかったか? またさっきの模様と同じ、目と脳の錯覚を利用した……いや、妙に肉感があるというか、なんだ? 何か妙だ。これは……


「あ、校長! 目が合うと――」


「え? あ、ああああああああ!」





 ……はっ、夢か! ははは、まったく妙な夢を見たな。緊張していたのかな……ん? ここは、校門? どうして私はここに? な、何か……変……



「ん? あれ誰のだろ?」

「あー、新しく来るっていう校長のじゃない?」

「へー、もう銅像なんて作ったんだ」

「いや、あれは石像よ。それに前の校長じゃない? まあ、覚えてないけど」

「コロコロ変わるもんね、この学校。まー、どっちでもいいわ。行こ! 遅れちゃう!」

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