転校生を紹介します
とある朝の小学校の教室にて……。
「はい、おはよー。えー、今日は転校生を紹介しま、あ」
「えー! 転校生だって!」
「いいじゃんいいじゃん!」
「どんなやつー?」
「男だといいな!」
「えー、女の子がいいわよ!」
「スポーツできるやつがいいなー!」
「やったぜ!」
……やってしまった。転校生が欲しすぎて、ついに大嘘をついてしまった。
教員生活二十年。いまだに一度として転校生を迎えたことない上に、なぜか他の三クラスには転校生が来ている。
他のクラス担任の先生のマウントのとりようといったら、職員室に帰る足取りが重すぎて膝に来るくらいだ。
教頭や校長に相談しようかとも思ったが、お前には任せられないと暗に言われているように思えて、自分からは言い出せない。
因みにこのクラスから誰か転校してもほしい。お別れ会とかしたい。あと車に轢かれて入院とかもしてほしい。重病でもいい。病室で何か良いことを言ってやりたい。
と、そんなこと考えている場合じゃない。場のこの盛り上がりよう、一体どう治める?
……いや、悩むことないじゃないか。冗談でしたと言えば済む話だ。相手は小学校低学年。ちょっとおちゃらけた感じで言えば、それで笑い話になる。
――ガララッ!
「おおー!」
「来たー!」
「男だぜやったー!」
「可愛い感じの子ね!」
え、あ、え……き、きたぁぁぁぁぁー! いや、な、なぜ!? 誰!? 夢かこれは!? あるいは幻、まさか私の強すぎる想いが形となったのか!? そうだ、しょっちゅうシミュレーションをしていたのだ。妄想、イマジナリー転校生。その努力が願望が実を結び……。
いや、待て待て、そんなことが起こるはずが……でも、ほわぁ、転校生だぁ。ずっと欲しかった夢の転校生……。生徒たちにも見えている。完璧に実体化していて、私だけに見える幻というわけではなさそうだ。まあ、私がイメージしたものとは少し違うようだが……。
「ねー名前はー?」
た、確かに気になる。な、名前は何て言うんだ? ん? なんだ、私をじっと見つめて……。あ、私が考えるのか? そうか、そうだよな、親みたいなものだからな……。林か? 林っぽい顔だ。林田、小林、若林……ああ、下の名前も考えねば……。みんなが待っている。早く早く、ええと林、林田……林田ええと……。
「林田……林田……うーん」
――ピンポンパンポーン
「林田ピンポンパプニアです」
ひ、引っ張られてしまった! クソッ、校内放送が邪魔しやがって! 朝から何だってんだ!
『皆さん、おはようございます。えー、最近、校内に萎びた動物のフンのようなものが落ちていますが、生徒の皆さんは触らないように注意してください』
本当にクソの話か! 校内に猫か猿が入り込んだのだろう。そんなことよりも生徒たちの反応は……。
「えー? ピンポンパプニア?」
「変な名前ー」
「変て言っちゃだめだよ!」
「ハーフ?」
「どこから来たのー?」
意外と受け入れられたようだ。だが、どこから来たかだと? そんなの私の頭の中からだが……一体なんて答えるんだ? うお、この子、すごいこっちを見てくる。これも私が考えろということか。えーっとそうだな……。まあ、これは適当でいいだろう。北海道とか遠い地域にしておくか。うん、そのほうがわかりやすいし、インパクトがあるだろう。
『えー、また最近、学校周辺に卑猥な物を置いている人物が目撃されています。登下校の際は十分気をつけてください』
「アダルトショップから来ました」
だー! またやってしまった! 卑猥と聞いてああもう! クソッ、校内放送終わっていなかったのか! どこの馬鹿か知らないがさっさと消え失せろ! 萎びたクソもどうせその不審者の仕業だろう! クソクソクソ! どう誤魔化せばいいんだ。いや、低学年だし意味は分からないか……?
「あだるとしょっぷ?」
「どこそこー」
ふー、よしよし。
「ショップってお店でしょ? そこの子なんだよ」
「でも、何を売ってるんだろ?」
「オナホールはもちろんローション、バイブ、ローター、アナルグッズ、SMグッズ、ディルド、他にもコスチューム、おっぱいグッズを売っているところだろうね」
「へー?」
一人詳しいのがいやがった! なんでだよ! ああ、得意げになりやがって、転校生でもないくせに目立つな、この野郎。話を逸らさなければ。誰か他の質問を……。
「趣味とかないのー?」
お、いいぞ、さすがクラスの優等生。しかし趣味か……ん? こいつ……ランドセルからアダルトグッズがはみ出てる……。
クソッ、私の頭の中がさっきの放送に引っ張られているせいだ! だがもう他に思いつかないじゃないか!
『……えーまた、最近、我が校の生徒でない児童が、校内に入り込んでいるとの話もあります。生徒や教職員の皆さんは気をつけてください。以上、校長先生からでした』
あ、校長だったのか。
あと全部、こいつだった。
林田ピンポンパプニアもとい、名も知らぬ子供は、私に萎びた糞を投げつけて、逃げていったのだった。




