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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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懐の深さはチップの多さ

 経済を回し、この国の景気を回復させるためには何をすればいいのか。

 一つに貯蓄を吐き出させること。そう、単純明快。国民にお金を使わせればいいのだ。

 そこで密かに打ち出された政策。それは……チップである。

 モデルとなった欧米諸国ではチップ文化を廃止する動きもあるが、そのまさに逆を行くのは島国ならではのガラパゴス。

 CM、テレビ番組、ネット、芸能人。時に『チップ! チップ! チイィィィィップ!』と、音楽にのせると世の中に浸透。目論見通り、流行ったのである。

 朝ごはんを用意してくれた妻に夫からチップを。

 お風呂掃除をしてくれた子供に母親からチップを。

 夜の営み、頑張ったほうにチップを。

 世にあるレストランやコンビニなどサービス業に留まらず、家庭内にまでチップ文化は浸透した。


 その国民性ゆえに感謝の気持ちというよりかは、渡すべき時にチップをあげないと白い目で見られるという恐怖、強迫観念の色合いが濃いが、得も大いにあった。

 チップを渡し電車の席を譲ってもらう。

 長い行列。並んでいる人にその順番をチップで譲ってもらう。

 または店にチップを渡し、人気の商品を取り置きしてもらう。

 疲労の軽減。時間の節約。時は金なり。サービスには対価を。優しさにはお返しを。誠意とは金である。『ずるい!』なんて言葉は自分が一度もらう側を体験すればおやま、どこへやら。道々で目を光らせ小銭探しに明け暮れる。

 しばしば、チップをくれなかったあるいは少なすぎると所々で喧嘩、事件も起きたが、それでもブームが終わることはなかった。


 因みにこのチップ政策を提案した議員は買春の罪で捕まった。

 そもそも、買春の際、規定料金に追加で金を払ったことにより相手の愛想が良くなったことからピーンッと閃いたこのチップ政策であったが彼はこの世の中になってからその支出の負担ゆえに、出し惜しみしてしまったのだ。

 しかし、警察と検察および裁判官にはチップをたんまり払ったので、刑は軽くなりそうであった。


 テストの点を上げてくれた先生に生徒からチップを。

 薬を横流ししてくれた医者に依存症患者からチップを。

 社内機密を持ち出した社員にそのライバル企業の重役からチップを。


 チップ文化は問題点が露になり、推進を断念した今も、頭をもぎ取られた蛇のように、まだ世の中で蠢き犇めいている。

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