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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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看板

 とある午後。遊ぶ約束をしていた二人の男。遅れるとの連絡に喫茶店で待つことにし、そしてしばらく経って慌ただしく店内にもう一方の男が入ってきた。


「ごめんごめん! 遅くなって」


「ああいい、いい! ほら、座った座った!」


「いやー、久々に遊ぶっていうのに遅れて悪いな」


「いいよ。こっちに来てもらったわけだし、おれ、普段喫茶店なんて行かないから、たまにはってそれよりさ! お前、どの道から来た?」


「え、どの道って言ってもな」


「大通りか!? ほら、ドラッグストアがあるところ!」


「ん、ああ。そこそこ。でもなんでそんな」


「看板! ちょっと変わった店あったろ!? でかでかとした薄い黄色の看板の!」


「んー、ああ。あったなぁ」


「なんて書いてあった!?」


「えっと、そうだなぁ……プでもピでもなくて……パンプレポとかそんなだったかな……?」


「あー! ナンセンス系できたかぁ! そうかそうか」


「え、いや、さっきから何? どういうこと?」


「いや、さ。その店、しょっちゅう看板変えるんだよ。家から駅までのちょうど通り道でさ、見かけるうちに楽しみになっちゃって」


「あー、そういうこと。でも何で変えるの? 何の店?」


「さー、知らない。おれも入ったことないし、客が来ないから変えてるんじゃない? ほら、スマホにメモしてるんだ」


「へー、最初は何て名前だった?」


「まあ、最初と言っても、おれが見た時からだからだけど。えーっと『エニクロ』」


「パチモンっぽいな」


「『マジモン』」


「やかましいわ」


「『マジでポケットモンスター』」


「そっちに寄せるなよ。怒られろ」


「『ごめんなさい』」


「怒られたのかな」


「『もう閉店します。許して』」


「おお、余程怖い目に……。いや、常套手段だな。どうせ閉店しないんだろ」


「『本当に閉店しますよ?』」


「うるせっ、勝手にしろよ」


「『パチンコ』」


「あー、パチンコ屋になっちゃったかぁ。あれがっかりするんだよなぁ。工事中で何が建つのかな? って期待してたら……ってどうせ嘘だろ。どうすんだ、パチンコ目当ての客が来ても帰っちゃうだろ」


「『チンコ』」


「手抜きか。一文字消しただけだろ。いや、もっと客来なくなるだろ。一部の人は来るかもしれないけど……」


「『マン――」


「やめろ!」


「『煩悩渦巻く現代人よ、自戒せよ』」


「お前だよ!」


「『お願い、来て?』」


「直球すぎる」


「『お母さんよ、ここにいるわ』」


「情に訴えようとするな」


「『こっちから行くぞ』」


「脅すな」


「『うしろ みろ』」


「怖いって、看板自体見たくなくなるだろ」


「『やっぱりこっち見て、ここだよ、ほら』」


「そりゃそうだろ。見て貰わなきゃ意味がない」


「『チンコ』」


「二回目だけど不審者感がすごいな」


「『名工の最後にして最高の一振りあります』」


「へー、日本刀? 刃物屋だったのか? 興味はあるけど……」


「『チンコです!』」


「クソが!」


「んで、最後はお前が見たナンセンス系だな。そろそろまた変わっているかもな。見に行こうぜ!」


「はぁ……そんなポンポン変わるはずないだろ……」


 店を出た二人。少し歩き……。



「変わってたろ」


「ああ、しかしまさかな」


「『募集中』とはな」


「もう自分じゃ思い浮かばなかったんだろ。さ、遊び行こうぜって、入るのかよ。なあ、俺は入らないぞ。こんな怪しい店……おい、何を話して……」


「なるほどな」


「おかえり。で、なにがだよ」


「あの店は看板屋だそうだ」


「ほー……ああ、変な文字の看板で目を引いて、中に入った人に営業かけるわけか。へぇなるほどな。度々変えてたのも看板自体が話題に、それに腕磨きにもなるし」


「あと、店の命名権を買えるらしいぞ。一定期間あの看板に好きな文字入れてくれるらしい。今ちょうど前の人が終わって、店主が繋ぎであれを書いたらしいから、言えばすぐに変えてくれるってよ」


「ああ『募集中』ってのはそういう意味か。これまでのもそういうわけね。ははは、なんか、広告スペースみたいだな。え、おい、まさか買うのか? やめとけよ」


「んー、何がいいかなぁ」


「やめなって、金の無駄だよ。どうせ、いいの思い浮かばないだろう。それにリレーみたく繋げようにも前のやつがナンセンス系? だったんだろ」


「んーうううう、んー」


「ほら、もう行こうぜ」


「んんん……思い、思いつく、思い……あ! よーし、これはどうだ?」


「どれどれ……はぁ」


「へへ、じゃあこのメモを店主にっておーい! 先行くなよ!」




『オチない』


 その看板屋が書いた看板は落ちない、つまり店が閉店しない。という噂が広まり、結果その看板屋は大繁盛した。

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