惚れ薬
とある研究所。博士は机の上にコトッと置いたその瓶を見つめ、ニヤついた。
「ふー、ようやく完成まで漕ぎつけたな。いやはや、時間はかかったがその価値はある。
何せ惚れ薬だからな。副作用なし、効果は永続。これさえ飲めば私のような老人でもモテにモテてむしろ困ってしまうくらいだろうな」
「……独り言が多いのは天才だから、それとも孤独な老人だからでしょうか? 何にせよ警備が手薄なのは良くなかったですねぇ」
「な、誰だ!」
「おっと動かないでくださいね。そうそう、そのように両手を上げて。はははっ、銃を前にしては天才も凡人も同じ反応ですね」
「貴様、産業スパイの類か……」
「ええ、そうです。でもたった今、足を洗うと決めましたよ。その瓶の中に入っているのが博士が今おっしゃった『惚れ薬』とやらですね? いやはや、完成した直後に居合わせるとは私も運がいい。いや、博士が運がなさ過ぎたと言うべきでしょうかね。まあ、どちらにせよ、それは私が頂きますよ」
「な、頼む! それだけは!」
「そうは言っても命を取られるよりはいいでしょう。ふふふ、そうそう大人しくしていればいいんですよ。顔もこの通り、マスクで見られてませんし殺しはしませんよ。さて、では手足を縛らせてもらいましょうかね……これでよし。自分で飲むんでしたよね? ふふふふふ、これでモテにモテてふふふふふふふふふ」
「くっ、くそ……」
と、博士は悔しがったが、男が部屋から出て行くと、ふぅーと息を吐いた。
馬鹿め。あんなに長々と説明口調で独り言をいうやつがあるか。全ては計算の上。侵入してきていたことは監視カメラの映像でわかっていた。
わざと聞かせていたのだ。なぜならあの惚れ薬は自分が飲むものではない。人に飲ませるものなのだ。そして惚れる相手というのは薬の材料のもとになった、つまり私だ。
薬を飲んだあいつは、急いでここに戻ってくるだろう。そして涙ながらに謝罪し、拘束を解く。何せ奴にとって私は最愛の人なのだからな。っともう来たか。
「やあ、おかえり」
「は、博士、あああ、博士……」
「気にするな。誰にでも間違いはある。さあ、早く拘束を解いてくれ。それからお前は一生雑用係だ。靴を舐めろ。まあ、それさえもお前は喜ぶだろうが、ん? なに脱いで……」
「博士、はぁはぁはぁあああん博士えええぇぇぇ! おっおっおっ博士えええぇぇぇぇ! はふはふはふはああかああせえええ!」




