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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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オルゴン座の閉幕

 繁華街の並びに構える、人々から長年愛されてきた映画館『オルゴン座』

 建物の老朽化及び経営不振により閉館する運びとなった。当日、最後の営業ということでオルゴン座の前に集まった人々は誰も彼も常連面し、感謝よりも残念や不満、どうして閉館しちゃうのかなぁといった態度であった。

 以下は地元メディアによる営業開始時刻を待つ者たちへのインタビュー内容である。


『小さい頃、親父に連れてきてもらったんですよ。えーっと何観たかは忘れましたけど、ま、感慨深いですねぇ』


『ええ、ええ、覚えてますとも。懐かしいですなぁ。学生時代、婆さんとの初デートがここでした』


『俺は初めて来たけど、うちのじーちゃんがここの常連だったらしいんすよ』


『閉館と聞いて、いてもたってもいられずに来ちゃいましたよ! あ! 仕事サボって来たんで使わないでね! ははははっ!』


『あー、潰れるんだって思いましたね。ええ、当然かなって。だって最悪ですよ。ゴミが落ちてるし、客の民度が最悪だし、俺、クソ踏んだんですよ、有り得ます? 人糞ですよ!』


『彼女とのぉ初がここでしたねぇ。ええ、暗くてね。客がほとんどいなかったもんで、後ろの座席でヤリましたよ。処女でしたねぇあれは気持ちよかったぁ』


『え? 思い入れ? ないない! うちら初めて来たし! ぶっちゃけノリで! オリオン座、サイコー!』


『いやぁ昔、仕事をサボってここに来ましてね。映画はクソつまらなかったんですけどまあ、暗いし寝るのにちょうどいいかなって。でもね、急におなか痛くなっちゃったんですよ。それでトイレに行こうとしたんですけどね。まあ間に合いそうもなかったんで、どうせ汚いし、いいかなって、はははは!』


『もう……随分前のことですなぁ。不倫相手とここに来たんですよ。で、話の流れで別れ話になってねぇ。相手が嫌だ嫌だと騒ぐもんだから静かにしろ! って殴ってやったんですよ。ええ、何度かね。するとね、動かなくなってね。声かけても揺さぶってもダメでね。これはマズいと思って逃げたんですよ。はははは。まあ、もう妻に先立たれましたし時効ってことで……』


『ええ、はい。滅茶苦茶シコりましたねぇ。暗くて人が少ないからバレないんですよ。でもまあ一応、外には変わりないじゃないですか。家と違って人もいるわけですしね。だからより興奮してね。ええ、後処理なんか必要ないですしね汚いですから。気持ちよく帰りましたよ』


『最悪の映画館ですね。汚くて臭いしなんか変質者が出るとか。ええ、一人で来る女性客狙いとか色々。まあ、全然女、来ないんですけどね。潰れて良かったと思ってますオッス。え? じゃあ何で来たか? 別にいいじゃないっすか。あ、あの子可愛い』


『随分前のことなんですがねぇ。女が一人、座席の下で寝てたんですよ。頬叩いても起きないですし、胸揉んでも起きないんで、それでパンツを脱がしてね、あはは、ヤッてしまいましたよ。若気の至りですね。あれは興奮したなぁ。でもね、その女、全然起きないんですよ。あれー変だなーおかしいなーって思ってたらね。私、背筋がゾクりとしましてね。あ、これ死んでるって思ってね。即射精して逃げましたよはい。でもね、扉から出る時にチラッと振り返ったら、その女、立ち上がってましてね。何だ生きてたんだって話ですねはい』


『私、高校生の頃から映画マニアでしてね。昔何回か来たことがあるんですよ。そしたらね、妙なおばさんに声かけられましてね。

ちょっと覚えてないんですけど名前を呼んで誰かを探しているようだったんですね。

○○さん? って私も声かけられて違いますって答えると、また他の男性客に声かけたり隣の席に座ったり、ああ、なんか逆に声かけられてその、後ろの方でなんかやってたみたいですよ。まあ、興味なかったんで知らないですけど』


『あー、よく来たよ! まあ、結婚してからはご無沙汰だったけどね! なんかヤラせてくれる女が出るとかでさ! ○○さん? って聞かれるんだよ。んでね、こっちはああ、その人知ってるかもなぁって匂わすんだよ。そしたらあとは成り行きでさ、ははは。なんか記憶喪失? みたいな。まあ頭おかしいんでしょ。みんなヤッてたみたいですね。あ! あの高校生はどうだったのかなぁ。すげー地味でダサいやつ。映画よりもそれ目当てみたいな。皺くちゃの千円札握り締めて女の周りウロウロしてんの! お前の童貞捨てる相手ソイツでいいのかよってははははは!』


『あー、知ってるよここ。おしゃぶりババアが出るとこ。いくらかで上映中しゃぶってくれるの、そう婆さんが。昔、学校の先輩がチャレンジしたってさ。歯が抜けてるから気持ちいいとかなんとか。うげーだね』


『え? オリオン? オルゴン? 知らねーしなんかみんな集まってっから来たし! カメラいえーい! 俺最強!』



 時間になり、オルゴン座が開館すると、人々はぼやきながら中に入った。内容は臭い汚いなど、嘲笑一色である。

 この日、上映されたのはオルゴン座同様、昔の情緒を感じさせる無声映画。退屈極まる予感に席について早々、眠りこける姿がある中、生き残った数名の目撃者によると


『老婆が瓶から口に含んだガソリンを清め酒のように客に吹きかけた』

『老婆が入り口からいくつか、ポリタンクを倒した』


 など、あやふやではあるが、とにもかくにもオルゴン座は観客と共に焼け落ちた。

 

 老婆が何者であるか、インタビュー映像を見返しても、その姿が見当たらないことからネット上では幽霊だ。オルゴン座に住んでいた浮浪者なのではないか、と様々な説が出ている。

 

 跡地の中心には慰霊碑が建てられ、しばらくの間、静かだったが今現在、慰霊碑は隅に追いやられ、パチンコ屋が営業している。

 地元住人からは概ね好評である。

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