幸運の天使
とあるところに一人の青年がいた。暗い部屋。電気も点けずに彼は今、血走った眼で作業に没頭していた。まさに鬼気迫る表情。寿命を削るように一心不乱にただひたすらに……。
と、その様子を見て、心を打たれた者がいた。幸運の天使である。
この天使の仕事はそれに相応しい者に幸運を与えること。それが何かはわかっていないが、実体のない天使は青年が熱心に手掛けるそれに宿り、青年に語り掛けた。
別にそうしなくとも幸運は与えられるのだが天使は相手の驚く顔、喜ぶ瞬間が好きなのだ。これまでもコインや絵、ネックレスや像などに宿ってきたので手慣れたもの。
『こんばんは、向上心溢れる若き魂よ。あなたのその努力。実にお見事です』
「え? 誰、って、え、え、え」
『ふふふっ、私は神に仕える幸運の天使です。あなたの頑張りは見ていて気持ちがよく、とても心を――』
「いよっしゃああああああ! 成功! 成功したんだ俺は! やったぞ! これで見返せる! フォォォォォウ!」
『ふふっ、喜ぶのもわかります。でも今からもっと喜ぶことになるでしょう。なぜならあなたに少しだけですが幸運を――』
「イエース! イエス! イエシ! シエッ! イエッ! イエッ! イエエエエエェェェイ!」
『うんうん、わかります。その喜び。何せ天使に出会えるなんてそう――』
「フォ、フォフォフォフォフォフォフォウ! フォウ! フォウ! フウウウウウウ!」
『あの……』
「よーし、よしよし! じゃあ、さっそくこいつをインストールしてと」
『え、あの……』
こうして、世界最高レベルのAI、【エンジェル】が誕生した。
偶然の産物、まさに奇跡と青年自身も認めたそれは各電化製品に搭載され、人類のサポート、豊かな生活に貢献したのであった。




