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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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言葉と想い

「……いやー、昨日の親睦会お疲れ様!」


「課長もご苦労様っす、でも今時あるんすね。取引先の企業と野球なんて、すげー疲れましたよ! 気ぃ使うしさーあー」


「うー、うん。お疲れ様……。え、君、気を使ってた?」


「はい、使ってましたけど。なんすか?」


「いや、君、取引先の社長のお尻をケツバットしたよね!?」


「あっはぁ! ありましたねそんな事。はははっ!」


「はははって、昨日の事だよ!? まさかもう反省してないどころか忘れたの!? デッドボールならまだしも、いや駄目だけどケツバットだよ! 記憶に刻まれるでしょ!」


「あー、俺、過去を振り返らない主義なんで」


「振り返ってほしいし、何なら予習もして欲しいなぁ。君、新入社員なんだし。ホントとんだ大物だよ!」


「あざーっす!」


「褒めてないからなぁ! あ……褒めてないからね。うん、大きな声出してゴメンね。あ、と、それでなんだけどさ、君、試合終わった後すぐ帰っちゃったよね?」


「あー、予定あったんで」


「そ、そう、それでどうしてお尻をケツバットすることになったのか、まだ理由を――」


「あー、課長? さっきも思ったんすけど、お尻をケツバットってははは、二重表現じゃないっすか?」


「あー、うん、細かいところによく気づくねぇ、すごいよ……。それで、お尻をバットで叩いたのはどうしてかなぁと」


「ああ、俺、あの日気合入ってたんで滅茶苦茶素振りしてたんすよ。そしたら、あのオッサンが、あ、俺にケツ叩かれた社長ね。で、そのオッサンが『元気があるねー! でも人に当てないように注意してね!』とか言ってきたんすよ。で、俺もうぃーす! って返事したんす」


「お、おお……でもそれならどうして?」


「それが、ふふ、ははははっ! しばらく後に、そのオッサンが俺にケツ向けてきたんすよ! それってははは、フリでしょ? やれー! って」


「違うよ馬鹿! あ……僕は違うと思うなぁ。常人にはない、独特な考えだと思うよそれぇ……。そ、それで向こうがどんな反応したか覚えてる?」


「『何するんだー!』って滅茶苦茶キレてましたよははははは! いやー、笑える」


「笑えないよ! みんな平謝りだったじゃないか!」


「平社員だけにっすか?」


「……ふっー、お、面白いねぇ。特にこんな時に冗談を言えるのがすごいよぉ。肝が据わってるね君はうん。それでもしかしてなんだけど、その後、また謝りに行かなかったの?」


「ん? また? 謝るって何でですか? 一回で――」


「一回で済む話じゃないよ! とんでもない事だよこれはねぇ! 偉業だよ偉業!」


「へへ、照れるっすね」


「ほめて……ないよ……君、あれだね。我が道を行くというか、その、全然伝わらないね……」


「はい? まあ、よくわかんないっすけど課長の力不足じゃないっすか?」


「う、ううううううううううう……君は本当に前向きだねぇ……。それはそうと君、せめてその言葉遣いはどうにかしようよ。敬語をさ……」


「あー、今矯正中なんすよ。訛りが出ちゃうんで」


「え、訛り? 出身どこだっけ?」


「京都っす」


「京都!? あの皮肉好きな京都!? そこ出身なのにさっきからわかんないの僕の皮肉が!」


「課長……今のそれ、出身地差別っすよ。局の方に通報させてもらいますね」


「え、あ、ま、待って……」



 現代。侮辱罪が厳罰化され、その適用範囲が大きく拡大された。相手を傷つけるような言葉は、たとえ『バカ』『アホ』でも通報されれば新たに創設された相談窓口もとい取締局が厳しく対処に当たることになっている。

 テレビを始めとし、悪口は徐々に消え失せ生まれた一見、平和な社会。その陰にSNSでの批判などを許しておけない政治家の思惑があったのだが、身近なことで手一杯な一般市民は適応に励む他なく、ひくついた笑顔。その口から出るのは皮肉めいた言葉の応酬。

 そして、言いたいことが上手く伝わらなくなり、至る所で彼のような傍若無人な怪物が生まれたのであった。

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