糧盗物語
その生物は夜、音もなく竹林に飛来すると、竹に針を刺し卵を産み付けます。
孵化した幼体は食欲旺盛で、穿孔し奥へと身を潜めながら竹の内側を餌とし成長し、やがて十分な大きさになると発光します。
それにつられて来た宿主となる生物に針を刺し麻薬成分を含む毒を注入し、一種の陶酔状態にします。
そして、自身をその生物の住処に持ち帰らせ、成体になるまで外敵からの保護及び世話をさせます。 その間も針による毒、及び体表から香るフェロモンによって攻撃の抑制等、終始コントロールします。
また十分に成長し、蛹になる頃には針を刺さずとも宿主の陶酔状態は続いています。
やがて羽化した成体は夜、月に向かって羽ばたきます。そして冒頭に戻るのです。
ただ、ごく稀に強すぎるフェロモンにより宿主となった個体以外(その生物のつがいから始まり)も引き寄せてしまうことがあります。
その際は、更なる注目を集め外敵を引き寄せてしまうことを避けるために突き放そうとします。針を刺し、水場や高い所など危険な場所に向かうよう行動を操作します。
また、この生物は仲間意識が強く、月の明るい夜は特に危険です。巣立ちを拒む宿主を囲み、針で刺し毒を注入。
結果、宿主は身を捩じらせる程度の緩慢な行動しかとらなくなり、やがてそのまま死に至ります。
宿主は恨みもせず、月に昇るその後姿を涙を流しながら見送るのです。




