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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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墓場で遊ぶ子供たち

 近年、公園には様々なルールが追加されがちである。【大きな声を出さない】【ボール遊びしない】【走らない】【犬を入れない】【自転車禁止】【飲食禁止】などなど、誰かを狙い撃ちするかのようにズラリと並ぶルール。

 看板では足らずに、また強調するかのように、そこら中にラミネート加工の張り紙があるその様はまるで意気揚々と開店したものの行き詰まりあれやこれと手を出し、結局店を畳むことになった専門店のよう。

 結局、多くの公園が閉鎖され、更地になった。それもこれもルール追加に飽き足らず、子供の声がうるさいと公園の近隣に住む高齢者が声を上げたからではあるが、後にその更地に造られたものからして、やはりそれも時代の流れ、高齢化が影響してたのであろう。

 公園の後釜。それは墓場であった。

 足りぬ足りぬと穴を掘っては建てて静寂と退屈の象徴のようなものが町の至る所にできた。


 さあ、遊び場を失った子供たちはどこに行くのか。しかし、これもまた、たくましいものである。

 都会の鳥が巣作りに人間が捨てたゴミなどを利用するように、追い立てられた子供たちの次の遊び場。

 公園の後釜、それも墓場である。

 見ようによっては石のアスレチック。子供たちは墓石の上に飛び乗って、タン、タン、タンと駆け回る。

 卒塔婆は剣であり、槍でもある。持った二人が出会えばそこは立ち合いの場。人数がさらに加われば合戦場である。

 夏休み。照りつける太陽は容赦ないが墓石を洗う為であろう一箇所、水場があるので水分補給には困らない。

 おまけに誰かが墓にお供えしたまま置いて行った飲み物もある。度胸試しに飲めば英雄。嫌な予感、直感。血の気が引くような感覚がしブッーと吐き出せば一瞬、虹が見えた。そしてまた大笑い。


 その墓場は町はずれかつ、木々に囲まれ人けはないが、それでも時期が時期だ。墓参りに来る者は日に何組かいる。

 その連中から「こら!」と怒号が飛べば子供たちはサッーと散り、きゃっきゃっと笑う。それもまた遊び。そう、賽の河原も遊び方次第。地獄の番人をもからかい、おどける。そう、子供はたくましい。


 そして飽きっぽくもある。

 日々が過ぎ、遊びの内容がパターン化すれば退屈し、さて何かないかと一同、頭をひねる。

 そして思いつくのは宝探し。地図はない。だが宝は目の前にある。どれかの石の下。

 実際、宝などないが、子供があると決めたらあるのだ。それがごっこ遊びというもの。

 しかし、飛び乗ってもビクともしない強敵だ。卒塔婆で叩く、テコの原理、力を合わせ全員で押す。あれこれ試して汗にまみれ、ようやく一つ倒した。

 むろん、さすがに抵抗感はあった。

 しかし、それもすぐに吹き飛んだ。墓石の下に穴はなし。尤も、倒したのは竿石に過ぎず、それが宝を蓋していたわけではない。

 なんだよ、と悪態をつき倒れた竿石を蹴りつける。子供に墓の構造などはわからぬ。込められたその想いにも気づかぬ。

 しかし、観察眼の優れた子供が声を上げる。

「こっちの墓には扉があるぞ!」

 近年の墓は右に倣えではなく多種多様。死後にも個性は出したい。何者であってもそうでない者でも。

 暴かれた宝。その壺の蓋を開け、子供たちは狂喜乱舞した。

「黄金の砂だ!」「違うよ、不死の粉よ!」

 そこは想像の世界。アーティストたちの意見は割れるが最後は全員、汗にまみれた体に塗りたくった。服を脱ぎ捨てた男の子も女の子も全員が雄叫びを上げ、卒塔婆を掲げた。


「お前ら! 何してんだ!」


 そう声を上げたのは墓参りに来た初老の男。

 血の気が引いたのは怒られた子供たちではなく……。


「プロロロロロロロロロロオオォォォォ!」

「オウッオウッオウッオウッ!」

「ウキャキャキャキャキャ!」

「キューイ! キュイ! キュキュキュ!」

「ボンバンバンババババ!」

「ウケケケケケケケ!」

「バアアアウウウアアアアア!」


 今、子供たちは未開のジャングルにいる。そして目の前にいるのは愚かな密猟者。先祖代々の土地を奪ったあげくこちらに危害を加えようとしている。

 子供たちがそう思えばそうなのだ。

 逃げる密猟者。

 追う戦士たち。

 その槍で叩けや叩け。

 担ぎ上げ、生贄の祭壇へ乗せろ。

 太陽の神は満足しておられる。

 ほら、その証拠に日が沈む……。


 腹を鳴らした子供たちは水場で体を洗い、家に向かって駆けだす。

 遊んだままやりっぱなしなのはよくある光景。落としきれなかった汚れを見て、風呂に入りなさいと怒鳴る母親、それもよくある光景。


 夕食を食べつつ心のどこか、しばらくはあそこでは遊ばない方が良いなと、垣間見えた保身は大人への入り口。

 ひと夏を越え、子供たちは大人に一歩近づく。それを繰り返し、やがて完全に大人になるとニュースや新聞に目を通すようになる。


【子供の遊び場。公園また減少。嘆きの声】


 それを見て、俺が子供の頃は墓場で遊んだものさ。まったく最近の子供はこれくらいで……と曖昧な記憶を掘り起こし、鼻で笑う大人。これもよくある光景。


 そう、子供はたくましいのだ。

 過去も現在も。いつの世も。

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