お盆はどこも大渋滞
お盆と聞いて、何を想像されますか?
お墓参り、帰省、実家、お供え物、迎え火、そして……渋滞。
そう、毎年のことながら大渋滞の下界。しかし、それは天国においても同じことでした……。
「クソッ! さっきから、全然、す、進んでないぞ!」
「し、仕方ないさ、この大混雑、ま、まったく動けん」
「しかしこんな、大量に!」
「毎年、人はし、死ぬからな」
「そもそもなんで、この通路は、こんなに、狭いんだ!」
「て、天国の門が狭いからな、それに通じる道もまた、狭い、というわけだ。ふふっ、二つの意味で狭き門だな!」
「いや、別に上手いこと言ってないと思う……いや、そんなことよりも、ん? お、おい、そこのアンタ! アンタの、その髪型からして、相当昔の人だろ? 一旦、引いてくれないか? 俺は孫が生まれたばかりなんだよ!」
「……断る、下界に降りることができる唯一の機会。それも初日に降りることで長く滞在することができる。
拙者はこの国のために命を捧げた。死して尚見守る義務があるのだ」
「くっ……立派な奴に話しかけちまったか。ん、じゃ、じゃあ、そこのじいさん! アンタ確か、この前『いやーワシ、子孫残せずに家系図終わっちゃったよ』って笑ってたな!
言っちゃ悪いが待っている人も会いたい人もいないはずだ! 辞退してくれよ!」
「断る!」
「なぜだ!」
「女風呂を! 覗く!」
「は!? そんな理由で……」
「そんな理由とは何じゃ! 一年間待ったんじゃぞ!」
「そうだ! プール!」
「女子更衣室!」
「温泉!」
「サウナ!」
「男風呂!」
「海!」
「拙者は女子高生のスカートの中!」
「クソが! こんなやつらがどうして天国に……」
「昔は審査が緩かったんじゃ! 今は違うがなぁ! ざまーみろ! お前の子孫、地獄行き! ヘイ!」
「地獄行き! 地獄行き!」
「地獄地獄地獄行き!」
「セイ! ホーオッ!」
「ホーオッ!」
「セイ! ヘール!」
「ヘール!」
「クソ野郎どもが! こんなの神が知ったら……あ、おい! そこの天使! そうだ、こっちにきてくれ! 俺を引っ張り上げてそのまま出口まで運んでくれよ!
ほら、この手を掴んで……おい、指しゃぶってないでさ……あ、ああああ! クソガキ! てめ! 鼻の下に擦り付けやがって! おい! 降りてこい! あ、唾を吐くな! クソ! 誰か! そいつを止めろ! 掴め!」
「よし、俺がやる! お、足の指を掴んだぞ! 痛! 蹴るなクソガキ! 近くのみんな! 俺の腕を掴んでくれ!」
「いいぞ! 引きずり下ろせ! 殺せ! どうせ死なないんだ! 殺せ! 羽をむしれ!」
「こいつ噛みやがった!」
「オラァ!」
「このガキ! いっつもニヤついた顔で上から見下ろしやがって!」
「そもそもお前らが誘導しろや!」
「さっきも唾吐いてたろ!」
「サボんな!」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!」
「はっははぁ! ざまーみろ! ……ん? 見下ろす……協力……足元には比較的スペースが……おい、みんな! 肩車だ! 隣の奴をなんとか肩車してスペースを開けるんだ! そうだ! いいぞ!」
「こっちは三段だぜ!」
「じゃあ、こっち四段だ!」
「五、行ったぞ!」
「行ける行ける! みんないいぞ! さあ、行くぞ! 下界に! セイ、ホーオッ!」
「ホーオッ!」「ホーオッ!」「ホーオッ!」「ホーオッ!」「ホーオッ!」
もし、道路が渋滞で退屈になったら窓の外に目を向けてみてください。空に白い龍が見えたのなら、それは連なる私たちのご先祖様なのかもしれません。




