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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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紅葉狩りマニュアル

 その一


 騒がない。周囲に対する配慮を怠らないことは勿論だが、木の枝を折る等、環境を荒らしてはならない。

 言わずもがなゴミの持ち帰りは絶対厳守。環境が悪化すれば紅葉に悪影響を及ぼし品質低下を招く恐れがあるためである。

 そして一人では遭難等の危険性もあるため、山に入る際は最低でも二人、できれば三人以上が好ましい。


 その二


 持ち物は飲み物をはじめ食料等、基本的な物。ただし重量には注意が必要である。

 この季節の山間部は気温の変化が大きく、防寒対策も必要であるが着込みすぎて、動きが悪くなれば元も子もない。

 服装は動きやすさ重視が望ましいが肌を出しては危険である。スニーカーよりもブーツが好ましい。

 目や首、動脈は重点的に守る必要がある。尤も、当マニュアルと共に支給された装備を図の通りに身に着ければ問題はなし。

 また、食料は手軽かつ、水を必要としないものが良い。そう長く山に入る気はなくとも歩き回るうちに道を見失う可能性は大いにあるので持っていくことを推奨する。


 その三


 まず紅葉の木を発見したら静かに近づくこと。

 十分に観察し、擬態を見破ることができれば、そっと手を伸ばし、採取。腰に備え付けた専用のケースに入れるべし。支給品の防刃グローブを必ず着けて行うこと。理由は後述から。

 そして、足元にも注意を向ける必要がある。落ちた紅葉の葉に擬態するパターンも確認されているためである。こちらも次の項で詳しく説明する。

 採取し終えたらそっとその場から離れ、静かに山を下りるべし。容量に余裕があろうとも決して欲を張ろうとせず、また油断してはならない。


 その四


 紅葉の特徴であるがまずその色。個体差があるが赤ければ赤いほど採取に適している。

 しかし、それは研究目的という意味であり、決して容易いということではない。

 成熟個体もそうでない個体も前項の通り、静かにそっと摘まめば問題はないが目覚めた時、その動きは赤い個体程、俊敏かつ攻撃性が高く危険である。

 次に形であるが植物の紅葉と何ら変わりはない。故に厄介である。


 葉に五つ以上の深い切れ込みがあり、縁にはギザギザ。それはカマキリの鎌のそれを連想させるが鋭さはその比ではない。おまけに硬く、素手で触れば肉を引き裂かれることは間違いない。これが支給品の防刃装備が必須な理由である。

 擬態することといい、当初は昆虫の一種かと思われたが日に透かして見ればわかるが(現場では推奨しない)細かい血管がある。


 そして葉柄であるが先端部分が鋭く、服の上からでも容易に肌を貫通、刺すことができ、引き抜いた後でも、傷は深く、しばらく血が止まらない。

 近年判明したことだが蛭同様に血液の凝固を阻害する成分を注入している。しかし、その吸血速度は蛭の比ではなく、大群に吸血された場合、十分経たずに貧血に陥る。その先は言わずもがな。故に二人、または三人以上が好ましいという訳である。


 そしてその動きであるが擬態中、つまり枝についている間は大人しい。が、一度危険を感じればフェロモンを発し、仲間に広く知らせる。

 大群が空を舞い、敵を急襲する。このことから攻撃的かつ仲間意識が高いことが窺える。

 動き自体は蝶と似ているがスピードは桁違いであり、どちらかといえばコウモリに近い。


 また、地面の落ち葉に擬態したタイプであるが近縁種か同種、幼体かあるいは成体かは未だ、よくわかっていない。

 ただ、飛行することはなく葉の先端を足に見立て、蜘蛛のように素早く移動する。

 このタイプもまたかなり攻撃的であり、その特徴は飛行しないで地面を駆けること以外に差はない。

 しかし、服の隙間から潜り込むことに長け、知らない間に入られていたなんていう事例も数多くある。その際は決してパニックにならないことが大事である。人の叫び声は紅葉にとって興奮材料であり、良い的でしかない。

 もし、同行者がパニックになった際は迅速に離れることを推奨する。群れに囲まれれば生存確率はほぼゼロに等しい。

 生命力が高く、全力で踏みつけたとしても、殺すのに回数を要する。襲われた場合は逃げた方が良い。

 そして一度飛行状態に入った個体を捕らえるのは容易ではない。ひらひらと手からすり抜け、ただただ標的を切り裂くのである。地を駆ける個体も同様。大人しいうちに採取、専用のケースに入れるのが最良である。

 ステンレス製の虫網で採取を試みた者もいたが、網は破られないまでも仲間の危機を察知しすぐに群れに囲まれ失敗に終わった。


 最後に


 この新種の生物が発見されて以降、研究機関からの賞金目当てに年々、紅葉狩りに参加する者が増えているが、死傷者も鰻上りである。

 しかも、採取された個体は閉所、および不自由に対し多大なストレスを抱くのかどれもすぐに死に、腐り、研究は進んでいない。

 今回、このマニュアルを手にし、山に入ろうとする諸君らは真に勇敢であり、感謝と敬意の念が絶えない。

 研究は進んでいないがこの生き物の全容が解明できれば必ずや人類に多大な利益をもたらすことは間違いない。

 以上、諸君らの健闘を心から祈る。

 また、当マニュアルに従い行動し生じた怪我等、一切の治療費、責任は持たないとする。




 追記


 どこから現れたのかもわからない紅葉だが最近、生息域が急速に拡大している。

 よって、各家庭に当マニュアルを配布する運びとなった。また新たな情報として、動きの鈍い者から襲い、あえて生かし、助けを呼ばせる傾向が見られるようになった。


 家族での紅葉狩りの際は注意されたし。

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