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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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占い師たちと死の迷宮

「あ、あれ……ここは?」


 目覚めた場所は私が知らない床、いや、部屋でした。ややくすんだ白色。なにもな……


「目覚めたかい?」


「ひゃあ!」


「おいおい、ふふふっ、山姥とでも思ったのかい?」


「い、いえ、有名人だったものだから、つい驚いてしまって……」


「ほう、私のことを知っているのかい?」


「ええ……新宿最強の占星術師、ゴールデンゴッドマザー!」


「ふふふ、嬉しいね、アンタみたいな若い子が、いやまあむしろ知っているか」


「はい! もうテレビやネット番組に引っ張りだこ! それに私、貴女に憧れて占い師になったんです! ほら、髪も、金髪は恐れ多いから銀にしました!」


「そうかい、やはり同業者か。そう思っていたよ」


「えっ! まさかそれも占いで……」


「そうだと言いたいが、ほら、周りをよく見てごらん」


「え? あ……そこの貴女は姓名判断の鬼! メソポタニア朋子!」


「ふふ、さんをつけなさい。お嬢ちゃん」


「そ、それにそこの貴女は水晶玉を操りし神! デスタムーア紗子!」


「この大きさでも片手で持てるわよ?」


「そしてそこに座るあなたはタロットカードの使い手、デュエリスト! マダムうらら!」


「カードを痛めないシャッフル方法、知りたい?」


「あああ、スピリチュアル元高校生モエミに手相の本田! 自称冥王星人のヤームーまで!」


「『元』は別につけなくていいでしょ。まあもう高校卒業してるけどさ」

「我も『自称』はいらん。我は冥王星人」

「並べられると俺ってなんか普通だね……」


「それにしてもアンタ詳しいね……」


「はい! 新人ですもん! 勉強は基本ってそんなことよりあの、ここって……」


「ああ、私たちは集められたのさ……愚かな占い嫌いの者の手によってね! ほら、この部屋の左右と前に通路があるだろう?

ここは迷路。それも、そう死の迷宮なのさ! 罠をかいくぐり、出口を目指すって話なわけさ」


「す、すごい……占いでそんなことまでわかるんだ……」


「いや、目覚めたときに近くにあったこの紙に書いてあった」


「え、ええ……でも、本当だ。まさか、え、待って、嘘! これテレビ番組!? やだ! 無理! 最高!」


「はぁ……ほら、こっちに背を向けて横になっているあいつを見てごらん」


「ああ、眠っていると思って声を掛けなかったんですけど、あの人、耳たぶ鑑定士のKENJIさんですよね」


「後ろ姿でよくわかるね」


「ええ、どの方もファンですのでって……え、死んでる……?」


「そうさ。さっさと出てやる! って息巻いて罠にかかってね。何とかここに戻って来たものの、あの様さ」


「そ、そんな……まさか本当に……?」


「そう、つまり占いで危険な道を避け、また罠を解除して進めってことなのさ! ふん! どこの誰か知らないけどイカれた主催者だねぇ」


「こっちは駄目だったわゴッドマザー」


「あ、貴女は魔眼のEVA!」


「起きたのねお嬢ちゃん。それはそうと恋愛占いのLOVEマリアと星歩き、龍心が罠にかかって死んだわ」


「つまり残る道はあそこというわけねぇ。さあ、みんな、行くよ!」


 すごい、私、今、最強の占い師たちと一緒に居る……。このメンバーならどんな罠を前にしても大丈夫、きっと乗り越えられる!

 こうして、私たちはゴッドマザーを先頭にし、迷路の中を進みました。分かれ道の度に、全員がそれぞれ得意とする占いを披露し安全だと思う方を指し示し、結果、多数決で進む道を選びました。

 私はまだ新人。直感頼りの占いだったので数に入れてもらえなかったけど、ゴッドマザーの指示で先頭を歩き、飛んでくる矢をかわして罠を解除。自分で言うのも何だけど、結構な活躍をしたのでした。


 ……でも、悲しい別れはいつだってそう突然に。

 最初に死んだのは冥王星人のヤームー。私が避けた矢に刺さり、あっけなく死亡。血は唇の色と同じで紫だって言ってたのに普通に赤かったです。


 そして次の犠牲者はメソポタニア朋子。まさか部屋に入った途端、鉄格子で区切られ、上から棘のついた天井が落ちて来るなんて……。

 床の穴は二人分あったのに、太りすぎてて穴に入れずに串刺しに。その後、一度きりの罠なのか自然と解除され鉄格子は元に戻り、天井も上がりました。自分の重さでズルズルと棘から抜け落ちたメソポタニア朋子はビタン! と大きな音を立てたのでした。


 そして、また分かれ道。そこでまさかの仲間割れ。もう罠は嫌だ! 私が選んだ道の方が正しい! と、スピリチュアル元高校生のモエミが一人、別の道へ。

 その後した、ギッていう短い悲鳴からして恐らく死んだのでしょう。


 そしてタロットカードの使い手デュエリストマダムうららは通路の先の明るい光を見るや否やカードを投げ捨て、走り出しました。

 でも床から出て来た特大の杭でお尻の穴から串刺しに……。どうやら床にあった罠のスイッチを踏んでしまったみたいです。

 次々と死にゆく仲間。けれど、立ち止まることも引き返すこともできません。

 散らかしたカードを足で除けながら探り探り、私たちは前に進みました。


 でも、どの分かれ道も罠だらけ。手相の本田は死に、デスタムーア紗子はいつの間にか水晶玉を捨てていました。そして、また対立が起きたのです。

 残りは私含めて四人。ゴッドマザー。デスタムーア紗子と魔眼のEVAで意見が分かれたのです。


「こっちの道が正しいわ」


「そうはいうけど、ゴッドマザー……貴女の選ぶ道は罠しかないじゃない。私の魔眼はこっちだと言っているわ」


「何が魔眼だよ! アンタのそれは紫のカラコンだろうが! それにアンタも何回か私と選ぶ道が被っていたじゃないか!」


「ぐっ、あ、合わせてあげただけよ! 歳くってプライドと料金設定だけが高いアンタにね!」


「な、何だと!」


「まあまあ、何にせよ、その新人の子は数に入ってないのだから二対一で私たちの勝ちね」


「何を言ってるんだい! アンタは水晶玉を捨てたじゃないか! 重いし邪魔だっつってな! 占いもなにもないだろうが!」


「う、うるさいわね! 元々、占いで道を決めてたわけじゃないでしょうが! ああクソクソクソこんなはずじゃぁぁ」


「え、占いで決めていたわけじゃないって、それ、どういうことですか……?」


「直感だよ直感! わかれよバカ女! クソがクソクソクソクソ! おめーみてーな馬鹿を引っ掛けるだけの楽な商売だったのによぉ! 何でこんな目に遭うんだよ! 犯人はイカれた金持ちだろ? じゃなきゃこの迷路も誘拐もできないもんな! クソが! 私も金があればよぉ! 

おら! 見てっか? 監視カメラかなんかあんだろ! 動機は何だ!? 昔、占い師に騙されて自分の馬鹿な娘が死んだとかか?

そんなのよくあることだろうよ! 占い師なんざ全員インチキなんだからよ!

統計学? 知るかそんなもん! データなんか律儀にとるわけねえだろめんどくせえ!

本物なんざいるか! 嘘つきと、あとは詐欺師! 騙される方が馬鹿なんだよ! 責任も何もねぇほんとに楽な商売!

だからポンポンポンポンこの娘みたいに新人が湧いて出んだよ! クソ虫の如くなぁ! それでも養分は文句言わず金だけよこしてればいいんだよ! ああああもう占いも占い師もこの迷路もみんなクソだクソクソクソクソクソ!」


「……そ、そんなことないと思います! だって、だって私は占いに心を救われて……。そう、あれは昔、友達ができずに悩んでいた時のこ――」


「あああああああ! うるせええ! 聞いてられるかそんなクソ話! 私はこっちの道を行く! あばよクソ共! ……あああああああああ!」


「……死んだみたいね。で、残る道はあと二つ。マザー……私たちは別々の道を行きましょう」


「また。あの時みたいに……か」


「え、お二人ってまさか……」


「そう、師弟関係だったのさ……」


「でも意見が合わなくて別れた。それだけよ。そしてマザー。これは私たちの対決、運命よ。もう気づいているんでしょ? これは生き残りをかけた占い師同士の戦い。つまり最後の一人になれば」


「そいつが本物。この金持ちのお抱えになれるってわけかい」


「この規模。大企業の研究、ひょっとしたら政府も関わっているかもね。

新政党はあれこれやっているようだし。そうよ、紛い物を摘み、本物の占い師を発掘するために!」


「私たちの占い力を試している、というわけかい」


「そう、私はこっちの道を行くわ。因みにどうしても被ったというのなら来てもいいわよ。ただし、私の後にね。ふふっ、じゃあね」


「ちっ、生意気な弟子め。じゃあ、こっちいくか……おい、娘。どうした?」


「いや、お二人とも結局、占わなかったなーって」


「馬鹿ね、感じるんだよ、超一流の占い師ってのはね」


「それって結局ただの直感……」


「かぁー! 全然わかってないね! 経験に基づく直感だからね!」


「やっぱり直感……」


「うるさいよ! ……んで、アンタはどっちだと思うの?」


「え、訊くんですか? 私に?」


「一応ね。ほらあれ、統計さ」


「意味がないかと……」


「いいから答えな!」


「えっと、じゃあ……こっちが出口かな」


「ぷっ! はははは! そっちはさっきあのデブが死んだところじゃないか!」


「デブって貴女も、と言うか私と本田以外全員太ってましたけど……」


「いちいち一言多いんだよ! んで、本当にそっちかい? まあ、罠があっても解除すればいい話だからね」


「え、はい……え? こっちについてくるんですか?」


「ついて来るって何さ! なんだい!? もう一人前ヅラかい!? 弟子は師匠のいうことにはいはい言ってればいいんだよ」


「弟……子?」


「さ、行くよ! ほらクズグズしないの! 罠を解除するのはアンタなんだからね!」


「は、はい……でも私、占い師辞めますからね? 幻滅しましたし」


「ああ? けっ! 好きにしな!」


 私たちは水晶のあいつの死体を横目に前へ進みました。

 罠はありませんでした。あれ一つだけだったようです。そして……


「出口だ! おらどけ娘! 出口だよな!? この扉!? お、なになに? 全員来るまでしばし待て?

全員? 萌子……じゃなかったEVAのことか? 確かにこの部屋、他にいくつも通路があるようだが……」


「多分、我々のことだろう」


「な、あ、アンタは……」


「心頭滅却、悪霊退散! 史上最強の霊能力者! 覇道元仁である! 我が神通力にてここまで無傷で来た! 私こそが本物の霊能力者である!」


「あ、あの……その横の人は? すごくボロボロですけど……」


「これか? これはだな、まあ私の弟子かな」


「も、元FBI捜査官で降霊術師のミラーカーンです……。こ、この男は暴力で他の霊能者を次々と罠避けに……インチキ、インチキですぅ!」


「黙れ! お前も元FBIなんて嘘のただの元売れない外タレだろうが!」


「インチキな人ばっかりですね……」


「黙れ!」


「そうよ、黙りなさい」


「え、貴女は、いや、あなた方は……」


「池袋の母、プラチナゴッドマザーよ! 私も勝ち残ったわ!」

「ワシは路地裏の王、大清水大清山である!」

「私は失われし卑弥呼の末裔、クイーンマリー!」

「……ダビデ占術の使い手、幸田・G・ダビデだ」

「俺は大日本超占い協会会長の山田隆元だ」

「そして私は占星術界の最強の母と呼ばれるシャイニングゴッドマザー!」


「なんか、名前にマザーのつく人多いですね……」


「なるほどね……つまりはこれから決勝戦という訳ね。……お、扉が開くわ。おい、アンタは占い師辞めるって言ったんだから端っこにでも行っときなさいよ!」


「はいはい……」


「さあ、私が最強の占い師、ゴールデンゴッドマ――」


 金髪のマザーが両手を広げそう言い、扉の向こうの光を浴びたその時でした。

 マザー他数名に浴びせられる銃弾。肉を抉るその音と銃声に私は耳を塞ぐことしかできませんでした。


「な、なんで……」


 分厚い脂肪に救われたのか、それとも単純に生命力がゴキブリ並なのかその両方か、マザーは息が絶え絶えになりながらも部屋の中に足を踏み入れたその人に訊ねました。


「……お前たちは簡単に捕まった。つまり、その時点で自分の未来、命の危機を察知することができなかったんだ。紛い物という訳さ。それ以前にお前たちは未来がわかるなどと宣いながら地震や災害、あらゆる凶事も当てられないどころか、時に実はわかっていたと後出し。タレントやら何やらを占い、当たれば大声で宣伝。外れればだんまり。見るに堪えんよ。そもそもその体形は何だ? 私は占い師ではないが自堕落な生活が透けて見えるぞ? 占いと言うのはもっと精神が研ぎ澄まされていなきゃできないものじゃないのか?

大体、マインドコントロールやら詐欺師が紛れ込んでいるのは事実な癖に自浄作用もなく、なんでいつもそんなにやたら偉そうにして職業に貴賤はないというが、お前たちは犯罪者に片足をつっ……っとそこのお嬢さんは帰っていいぞ。占いから足を洗うと監視カメラのモニターから見聞きしていたからな」


「わ、私のお陰よぉ……私が隅っこに行ってろって言ったからぁ! あんた生き残れたのよぉ! 私はほんものぉぉぉぉ!」


「……どの道、端には避けていましたよ。私、勘がいいので」



 こうして私は、あの死の迷宮から脱出することができました。

 その後、国内で次々と占い師が行方不明になっているようですが、よくわかりません。何故なら私は今、国外にいるからです。その理由は……。

 ……大きな声では言えませんが、あの件以来、私には予知能力が備わった、いえ、開花したようなのです。恐らく死と隣り合わせの極限状態が要因かと思います。

 でもそれを言い、目立てばたとえ本物であってもまた狙われることでしょう。だから言わないのです。何も。


 これからあの国に大きな災いが訪れようとしていても……。

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