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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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社会の歪み

 大学の食堂で一人、昼食をとろうとしていた男。そこに慌てた様子で一人の友人がやってきた。


「はぁ、はぁ、聞いてくれよ、やば、やばいんだよ」


「おいおい、どうしたんだ?」


 男は持っていた箸をトレーの上に置き、友人にとりあえず座るよう促す。


「で、何だ?」


「はぁ、はぁ、ひず、ひずみ……」


「あん?」


「い、今、しゃ、社会の歪みってのがヤバいらしいんだ……。

あ、あれだろ? 底なし沼みたいなもんだろ? うっかり入り込んだらきっと生きては戻ってこれないんだ。なぁ、どこにあるのかな? なぁ……」


 男は真剣にそう話す友人を前に吹き出しそうになるのを堪え、腕を組み考えた。


 ははあ、こいつ以前『実は俺、この大学には裏口入学で入ったんだ。だから俺は裏門から入らなきゃダメかな?』と俺に言ってきたときは馬鹿か冗談好きのどちらかと思ったが、その後の付き合いの中での無知な発言といい、今回のこれ。『社会の歪み』新聞の見出しかニュースで知ったんだろうが、どうやら本物の馬鹿だったらしい。

 あ、そうなると以前『甲子園には魔物がいるんだろ……? ヤバくねえか? みんなで協力して退治した方が良いんじゃないか? なんでそうしないんだ? 大人たちは高校球児のことを心配してないのか? 儲けてるんだろ?』と言っていたのも本気だったのか。多分【台風一過】も【台風一家】と思うタイプだな。しかし、ふふふふっ。それはそうと、どれ、ここは一つ、からかってやるか。


「……ああ、実は俺も前からヤバいとは思ってた。俺の住んでいるアパート近くで主婦が歪みに飲み込まれたらしいんだ」


「マジかよ……確かお前んち、この大学の近くだよな? もうそこまで来てたのかよ……」


「と、言うのも疑心暗鬼って鬼が関係してるらしいぞ」


「それ! ギシンアンキ……俺も聞いたことある! そうか、そいつらが無理やり引き込んでいるのか……。どうするんだ……やっぱ拳じゃ勝てねえよな?」


「ああ、無理だな。だが大丈夫だ。えーっと、近々政府が対策を打つらしい。イカンのイって聞いたことないか?」


「あ、ある! なんかニュースとかで言ってた! 外国との問題でよく出る気がするけど……」


「そうだ、ついに国内に向けて使う時が来たわけだ」


「え、でもイカンのイって『いけない』とか『アカン!』って意味のイカンじゃないのか? 兵器なのか?」


「ふふっ、ああ。正確には【Idiot Keenly Absurd Narrative】で、IKAN。

ミサイル兵器さ。つまり、イカンのイとは段階的な話で第一段階が【イ】第二段階が【カ】そして第三段階、しりとりでも終わりを意味する【ン】確かな情報筋によるとすでに政府は【ン】の発射準備を整えたそうだ」


「おいおいおいおい! そんなの、俺ら国民は大丈夫なのか!? 歪みもろとも消し飛ばす気じゃないのか!? クソッ! 俺、国会議事堂に抗議に行ってくる!」


「あ、おい!」


 と、引き留める間もなく、友人は座っていた椅子を倒し、駆け出して行った。

 少し、やりすぎたかなと彼は思ったが、「マジで信じたな。あの馬鹿」と、ふふふっと笑う。そして食べかけのうどんに視線を落とし、昼食の再開。……と、その時だった。おどろおどろしいスマートフォンのアラーム音がそこかしこから。そして慌ただしく遠ざかる足音。

 彼も自分のスマホを取り出しを見つめるが、画面は真っ暗。充電切れ。ゲームのやり過ぎだ。先程の男以外に友達と呼べるものはおらず、どうにかやり過ごしてきたが、今、歪みが…………

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