おれの一日
カーテンの間から入ってきた太陽の光で、おれは目を覚ました。
頭が痛い。二日酔いってやつのようだ。時刻はちょうど昼頃。腹が減った。飯だ飯。
だが、体が何だか気持ち悪い。結構、汗をかいたようだ。それにかゆい。思えば最近、風呂もシャワーも浴びてなかった気がする。
面倒だが、いちいち掻くのも面倒だ。なのでとても面倒だったが、飯より先にシャワーを浴びると頭はまあまあスッキリしたのでよかった。
体を振り、水気を飛ばす。さっきの光の感じからして今日は温かそうだ。なので、ドアを開け外に出た。
思った通り、いい気持ちだ。風もちょうどいい。家の前の道路でジャンプして水気を大体落とすと、また汗をかきそうだったので家の中に戻った。
その辺に落ちている適当な服を着て出かけることにした。腹が減った。家の中にあるものでもいいが外食がいい。そう思い、住宅街から商店街の方へ向かう。
立ち並ぶ飯屋を横目に見ながら歩いていると、紺色のスカートをゆらゆらさせて歩く女を見つけた。おれは舌なめずりした。食欲と性欲。どちらを取るかあまり悩みはしなかった。
おれは服を全部脱ぎ捨て、女に襲い掛かった。
「あら、どうしましたの?」
「お前とヤる。大人しくしていろ」
女は言われた通り大人しくし、おれは道路の真ん中で女を犯した。
事を終えたあと、おれは落ちていた布で股間を拭いた。
が、しまった。これは、おれが脱ぎ捨てたTシャツだ。臭い。こんなのをまた着る気はない。
その辺を歩いているやつの中で、おれと似た体系の男がいたので後ろから殴って服を剥ぎ取った。
「なんですか?」
「うるさいクソデブ! とっととどっか行け!」
男は「はい」と一言。また歩き出した。ちょっとした運動になってしまった。そのせいで腹がますます減った。近くに中華料理屋があったので中に入る。
「カレーをくれ」
「はいどうぞ」
ものの数分で出てきたカレーを平らげたおれは店を出ようとした。すると店主の男が、おれを引き留めた。
「お客さん、お金お金」
イラッときたのでぶん殴ってやろうかと思ったがやめた。ポケットに手を入れたら、くしゃくしゃの紙幣が入っていたので邪魔だし目障りだったのでそれを投げつけた。
店主はお釣りを渡そうとしてきたが小銭は重くなるからいらん。でもピカピカで綺麗だったので何枚か手に取り店を出た。
小銭を指ではじいて遊んでいると取り損ね、道を転がっていった。
「はい、おとしたよ」
男のガキがそれを拾い、おれに差し出してきたがムカつく顔だったので、勢いをつけて腹に蹴りを入れてやった。
三メートルは吹っ飛んだだろうか、新記録だ。女のガキのほうが良く飛ぶから探したが見当たらなかった。
歩いたら、また汗をかいてきたので服をまくり上げ、腹を出した。ついでにチンコも出した。その状態で歩くとこんにちは、と挨拶しているように、ぶらんぶらん振れるので面白かった。
何人か良さげな女がいたのでまた犯した。また脱いでいた服で拭い、また歩いている奴の服を奪った。
同じことを繰り返すとなんだか虚しい。なので生意気そうな顔のガキを捕まえてそいつを振り回して近くに停めてあった車の窓ガラスを割ってやった。ついでに料理屋の窓ガラスも割った。
するとワラワラと周りにいた奴らが集まってきて「ガラス、危ないですよ」だの「離れてください」だの言ってきやがった。
うるさいうるさい。おれはこのガラスが実は飴細工なことは知っている。まあ、それでも尖っているし、怪我するかもしれないと心配しているのだろう。
あまりにしつこいので、おれはフンと鼻を鳴らし、その場から離れた。このまま町の賭博場に行ってもいいがそれもいつもの行動パターンだ。何か他の事がしてみたいが思いつかない。
本屋があったので中に入り、気晴らしに本をビリビリに破いてやった。燃やそうかとも思ったが、そうするとまた連中がワラワラ集まって、うるさくなると思ったのでやめておいた。
なんだかモヤモヤするので停めてある車の屋根に飛び乗って思いっきりジャンプして叫んだ。
「危ないですよ」
「降りてください」
「危ないですよ」
「落ちたら怪我をしてしまいますよ」
また大勢が集まってきたので、おれは車から飛び降りた。
中を覗き込んだがやはりハンドルがない。どれもそうだ。走らないのだ。理由は危ないから。
おれは集まってきた連中を突き飛ばした。立ち上がろうとするとまた突き飛ばしまた立ち上がろうとするとまた突き飛ばした。面白くて、おれは笑った。
でも日が暮れてきたし、この遊びに飽きたので家に帰ることにした。風はさっきと変わらず、ちょうどいい感じだ。こういうのは、やさしい風って言うんだ。前に絵本で読んだ。
でも『やさしい』ってなんだ。
おれは知らない。
家に帰ると玄関に服やら食料やらが置いてあった。
おれはベッドの上に寝ころび、食べた。こうやってれば眠くなるんだ。で、また明日になる。
繰り返しの毎日だ。
何でおれがこんな生活をしているのか前にアイツらが説明してくれたがよくわからん。
おれの先祖とアイツらが戦ってアイツらが勝った。
勝ったあとも、たくさん殺した。狩りとかゲームとか楽しんだ。
でも数が少なくなりすぎてアイツら焦った。
だから守ろうと決めて、この町を作った。そんなに広くはない。でも、ここで暮らす人間はおれ一人だからいいんだ。後は全部、人間に似せて作ったロボットらしい。
アイツらは訊けば色々教えてくれるし、アニメとかゲームとかお菓子とか欲しいものは言えばくれるし怪我するようなことをする以外は、好きに暮らしていいというが、でもおれは人間が町でどんな暮らしをしていたかは結局よくわからん。アイツらもわからんのかもしれない。
だからおれはやりたいようにやっている。アイツらはそれでいいと言っている。
でも、おれはなんだかモヤモヤしている。アイツらがいつか他の人間を見つけたり、作ってくれたらスッキリするのかな。
考えたら頭が痛くなってきた。
また酒を飲み、おれは瞼を閉じた。
やさしい。やさしい。やさしいね。
意味はよくわからんけど、いい響きだった。
『やさしい』夢が見たいと、おれは思った。




