アヤしい集団
深夜、彼は自宅からそう離れていないところにある、大きな公園にジョギングしに来ていた。
この公園と併設した施設で自転車の貸し出しを行っており、サイクリングも楽しめる。が、それは昼間の話。景色は変わり映えしないが夜中だし、どうでもいい。人目を気にせず、思う存分走れる。歌をうたったり、なんなら叫んだっていい。自分を自由にしてくれるこの時間が好きだ。
と思っていた彼。はと足を止め、そして木々の陰に身を寄せた。
松の木立ち並ぶ雑木林。その中に、ささささと入って行く、集団を目にしたのだ。
あいつらは何だ? 悪魔崇拝……なわけないか。服装はバラバラだ。しかし、一様に地味な、というより人目を忍ぶような雰囲気。周囲を気にするあの様子。バカ騒ぎしに来たわけでもなさそうだが……。
と、訝しがる彼。匂いに誘われるかのように少しずつ近づいてみる。
と、細めていた目を見開き、そしてまたよく見ようと目を細めた。
あれは、女性だろうか。たった一人。男の集団の中に。暗くてよく見えないが若く、可愛らしい雰囲気。男たちの中心に、まさか……逃がさぬように取り囲んで彼女を好き放題……これはそういう……
「あれ? 君も?」
「え、あ、まあ……」
「もっとこっち来なよ。それじゃ映れないよ? 募集見てきたの? へへへ、僕は三回目なんだ」
と、夢中になるうちに近づきすぎてしまった彼。つい曖昧な返事をし、一歩身を引いたが、そう言われ、はてと首をかしげる。
そのせいで逃げるタイミングを失い、先輩風を吹かせたいらしいその太った男に促され、集団に近づいた。
「えー、じゃあそろそろ始めようと思うんだけど。公園の許可とかは、ははは、まあお察しの通り。なので声は抑えめに。
まあ大きな公園だし、住宅からは離れてるから大丈夫だとは思うよ。えー、それから――」
と、集団のリーダーらしき男がそう言った。
何を言って……とは思わなかった。リーダーらしき男は手にカメラを持っており、そして傍には照明器具らしきもの。もう察しがついた。
――AV! AVだ! AV! AV! 青姦物のAV撮影だ!
と、興奮する彼。間違いない。この周りの連中はエキストラ、いや汁男優! 人騒がせな……とふぅと息をつく彼。なんともけしからん、いいや羨ましい。そう、彼女を見つめ思う彼。スイッチをいられたライトに照らされ、近くで見ると益々可愛いと見惚れる。
「お、そこの君、いい顔してるね」
「え、おれ、僕ですか」
「うん! それに……ふふっ、やる気満々みたいじゃなーい?」
監督らしき男が彼の股間を指さし、そう言った。
何を言って、なんて考える必要はなかった。自分の状態がどうなっているのかは自分でわかる。周りに合わせへへへと笑い、視線はつい彼女の方へ。彼女は照れたように口を隠して笑っており、彼の表情が益々砕ける。
「よーし、君もおいで! それから予定通り、君もね」
「はーい」という返事と共に彼の両隣に進み出たのは中々いい体つきの男二人。どうやらこの男たちと一緒に彼女を攻めることになってしまったようだ。妙な運びになったが、こうなったらやるしかない。いや、ヤリたい、と彼は鼻息を荒くする。
「じゃあ、始めようか。ライトとカメラ。さ、大声を出さないようにね。警察呼ばれたらみーんな捕まっちゃうからさ。どうしても出ちゃうようなら周りの子、抑えちゃってね」
「はい!」
彼は元気よくそう、返事した。もはや完全に集団の一員。一体感の心地良さまで感じていた。そして、気持ち良すぎてきっと声、出ちゃうぜ、と彼女にそう目配せをした。
「よーし、じゃあ始め!」
監督の合図に彼が一歩進み出る。が、彼女はライトの傍に立ったまま動かない。
さらに近づくが、カメラはそっちじゃないよと彼の肩にそっと置かれた手は彼の滑らかなジャージを撫でつつジッパーに触れ、そしてジジジとゆっくり音を立てつつ下へ下へ。カチッという音と共に開けた上着。なぜ、なにが、なんで、と反射的に身をよじらせる彼、それがむしろまるで家に帰って来た夫の上着を後ろからそっと脱がせる妻のような構図に。炊飯器を開けたようにムワッと体臭が香り、鼻をすする彼の前と後ろ。二人の男。彼が何かに気づき、「あっ!」と声を上げようとした瞬間、彼の前に立つ男がその唇を奪いそしてジャージの下に手をかけ一気に――




