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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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耐久レース

『それではこれより、耐久レースを開始します。各自準備はよろしいですね? では……スタート!』


 待ちに待ったこの日。ついに始まった耐久レース。

 灰色の壁。黒い床。寒々しく感じる部屋のその中央に並べられたベルトコンベアーの上、全員、懸命に足を動かす。

 公平公正のもと、一定の速度。しかし、いつまでもというわけではない。ふるい落とすために次第に速度を上げていくことだろう。

 私含め、この部屋に集められた七名は全員、エリート中のエリート。多数の応募者の中から選ばれた選りすぐりという話だ。そういうわけで上司の期待の眼差しも熱い。

 正面の壁、その上の二階の大きなガラスの向こうから、後ろ手を組んで我々を見下ろしている。

 他のメンバーの上司らと会話し、笑顔を浮かべてはいるが、その目は笑っていない。声は聞こえないがわかる。うちの選手こそが一番だ。そう言っているのだ。期待はありがたいが、私は、いや私たちはただベストを尽くすだけさ。

 なあ、そうだろう? ……と、無視か。

 お互いに頑張ろう、と私はチラリと右横で走る彼に微笑んだのだが、彼はただ前だけを見つめていた。

 ま、それも仕方ない。むしろ当然だ。ライバル同士であるのだ。

 左を向いても同じこと。丁度、真ん中で走る私は、よく見える。全員姿勢も顔もを崩さず順調、前だけを見つめ走っている。

 勝者は一人。つまり決まるまで距離も時間も関係なく、走り続けなければならない。過酷な耐久レースだ。私は気を引き締め、前を向いた。



 一時間経過した。

 未だ脱落者なし。速度は上がっているようだが極めて順調だ。



 二時間経過。

 体が終始、悲鳴を上げている。が、私ではない。右端の者だ。彼が最初の脱落者だろう。みっともない走り方だ。

 ベルトコンベアの速度はまだ上がる。



 三時間経過。

 倒れた音。ついに脱落者が出たのだ!

 いや、ははは。こうも嬉しいとは思わなかった。そして意外や意外、右端の者は未だ健在だ。

 倒れたのは左から二番目の者。彼の上司だろうかガラスに額をつけているのが見えた。

 運ばれ部屋の外に連れ出される彼。その最中も、足を動かし続けていたのが滑稽であった。

 彼が部屋から出されると、彼の上司らしき男もガラスから離れた。部屋から出て行ったのだろう。あの悔しそうな顔。ガラスについた肌の油分だけを残して、彼らの存在はまるで世界そのものから消えたような気分だ。



 四時間経過。

 先の脱落者の後、他の参加者の体がガクンと揺れるのを何度か目にした。そしてそれは時間が経つほど顕著に。

 ああ、お待ちかねの第二の脱落者だ。倒れたのは右から二番目の者。

 先の脱落者と同じく敗者は引き摺られるように連れ出された。

 ねぎらいの言葉なんかない。無様な敗者。

 さらに加速するベルトコンベアが今の出来事を、過去をあっという間に置き去りにするようである。


 四時間半。

 ベルトコンベアの速度は、もはや私の全速力に近しいものとなった。

 そして三人目の脱落者。左端の者。

 ひひひ。他の参加者の体も悲鳴を上げている。勝つのは私だな。



 七時間経過。

 ようやくだ……ようやくようやく四人目の脱落者。

 意外と持ったものだ。今、どれだけの距離を走ったことになっているのか。

 まあ、どうでもいい。意外と言えば右端もよく耐えてやがる。

 今、脱落した者は私の右隣。おかげで右端の醜悪な足掻きが、よくよく見えるようになった。

 上から見下ろす連中も昂ってきたようでガラスを叩き、我々を鼓舞している。ははっ、まるでゴリラだなゴリラ。

 おや、あの、泣いているのはその視線からして右端の者の上司だな。胸を打たれているのか? だが、勝つのは私、私、私だ。



 十時間経過。

 少々、視界が、暗く、なって、きた。が、ま、だ、やれる。集中、すれば、いい。



 十二時間経過。

 いやった、私の左隣の、クソが、フラフラともう、限界、だ、見て、やろう、無様、な散り様、を。

 右端、の奴も、もう、限界、が近そうだ。犬みたい、に、まったく、みっとも、ない。

 お、左隣、倒れ、るぞ。あ、ふ、ふはははははははは! あ。




「おめでとう。おたくには負けたよ。しかし白熱した戦いだったな」

「まったくだ。しかし、うちなんて早々になぁ。やはり四足歩行型が一番燃費が良いのか」

「いやいや、ありがとう。みなさん、お強かった! 特に最後のなんて、あれは人工知能ですか? いやぁ、進んでますなぁ!」

「ははは、やたらキョロキョロしてたな。他のロボットに気を取られていたみたいに」

「大丈夫そうですか? 頭部を強打したようだが」

「ええ、はい、まあ……」

「いやぁしかし、充電なしであの速さ、あの距離を走れるのはすごい! 戦場での物資運搬やら何やら色々活躍できそうですな」


「ふふふ、しかし、まだ勝負はこれからではありませんか。次回の飛行型の耐久レースも、お互い頑張りましょう!

っと、お? あそこ、貴方のロボット……あれ、頭、外れて見えているのは……まさか、脳では……?」

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