宇宙人の幽霊
「きゃ!」
「うおっ!」
「え?」
「あれって……」
「嘘だろ……」
「いや、あれは……」
ある夜のこと。歓楽街に響いた声たちは夜空に溶け込み、後に残るは沈殿する困惑。
人々はただただ目を見開き、それをまじまじと見つめ、そして声を漏らし始めた。
「幽……霊……?」
そう、幽霊が出現した。
一瞬、何かの宣伝。客引きという考えも浮かんだが立体映像なんて技術はまだない。
あれは幽霊。それも恐らく人類史上初の公的な。そして幽霊がいるということは魂の証明。天国、地獄の存在の確立。
いや、それは早計だろうか。何にせよ居合わせた衆人は恐怖、あるいは心浮き立ったりはしなかった。
なぜなら……
「宇宙……人……?」
そう、その幽霊の見た目は明らかに人間、いや、地球人ではなかったのだ。
大きな目に頭には触覚。生前コスプレ好きだったという訳でなければ、間違いなく宇宙人。
しかし、こうなると話が変わってくる。そもそも幽霊なのか? それこそ宇宙人の装置による立体映像ではないのか? しかし、半透明で虚ろな顔。先程、その見た目のインパクトより先立ち、そう感じたようにやはりあれは幽霊……。いや、宇宙は広い。元々、幽霊のような特徴の宇宙人なのでは……? 仮に本当に幽霊だとしてそれは地球人の死後、魂や天国などの存在の証明となり得るのか? と、疑問は尽きない。
故に何人か恐る恐る近づき、質問したが宇宙人は答えない。向こうも戸惑ったような様子。
が、それも仕方のないこと。何か喋ったかと思えば、当然とも言うべきか言葉がわからない。ジェスチャーや絵を用いたが無駄。と、そうやって手をこまねいているうちに空が赤みを帯び、宇宙人の幽霊はスゥーと姿を消した。
が、後日。また別の場所に現れては居合わせた人々を驚かせた。
一体、彼は何なのか。テレビ局が宇宙人研究家などを呼び、番組内であれこれ議論したが結局わからずじまい。
時が経っても何一つわからなかったが、次第に人々は慣れていった。
見つけたら追いかけまわし、写真を撮り、無駄だと分かっているが触れようとしてみたり、近所に出たとなれば家を飛び出して見に行く。
恐怖心はない。有名人に群がる、あるいは動物園の珍獣見物気分だ。
長らくそんな日々が続き、また飽きもしたが、ある日変化が起きた。
もう一体、宇宙人の幽霊が出現したのだ。
それは別の場所。顔つき、身長。若干だが違う。オスかメスか性別もその関係性もわからないが、さすがに無関係ということはないだろう。
すぐさまテレビ局が取り上げ、街中のモニターに映し出された。
すると、それを見上げる宇宙人の幽霊の顔に確かな変化が見受けられた。
それは喜び。当然だ。異国の地、さぞかし心細かっただろう。
こうなれば実際出会ったら感動的な画が撮れるに違いない。そう考えた各テレビ局が乗り出し、宇宙人たちを身振り手振りでどうにか誘導した。そして……。
『お、おお……』
『キャ、キャプテン、う、お会いしたかった……』
感動の再会。言葉は相変わらずわからないが抱き合う二人に衆人は沸き立った。
『まさか、こうしてまた出会えるとはな……』
『ええ、奴らの誘導のお陰です。しかし、一体どういうつもりなんでしょう』
『なに、ただの道楽さ。見てみろあの醜悪な顔』
『ええ、確かに。奴ら我々の星のマウチートンのように醜悪極まりない生き物です』
『うっ、言うなそれを。吐き気がしそうだ。かなり稚拙な種族なのだろう。
自らぎゅうぎゅう詰めになって原始的な乗り物で運ばれたり、私を見るあの顔、声、ああなんて醜いんだ』
『……宇宙船の爆発で我々が死んだことは間違いないのですが、キャプテン……ここが地獄というやつなのでしょうか……』
『いや、我が星の言い伝えとはかけ離れている……。
ああ、そうだ。離れたと言えば調査のため、故郷から離れすぎた。我らの星の神も、私たちを見失ってしまったのかもしれん』
『ああ、なるほど……それでここに流れ着いたという訳ですか。
しかし、どうやったらここから出られるのでしょう……。この地に縛られて、ずっとこのままなのでしょうか』
『いや、案ずるな。思い出してみろ。我らの宇宙船が崩壊した原因を。
そうだ。この連中が行き場をなくしたら、引き合わせてくれた礼に我々の故郷まで案内してやろう』




